AIが進化しても「営業職」がなくならない理由
Martin Barraud/Getty Images
サマリー:2016年頃、テクノロジーにより営業職は減ると予測されたが、筆者らは複雑なB2B分野では不可欠だと主張した。事実、米国のB2B営業職はその後も増加傾向を示し、2024年には420万人に達している。生成AIが急速に進歩す... もっと見るる現在も、筆者らの「営業職は増え続ける」との見解は変わらない。本稿では、営業職が減る領域と増える領域を分析し、買い手と売り手が直面する「曖昧さ」を解消するうえで、なぜAI時代でも熟練した営業担当者が不可欠なのかを論じる。 閉じる

法人営業はAIが代替するのか

 2016年、筆者らが執筆した記事「Despite Dire Predictions, Salespeople Aren’t Going Away」(暗い見通しが示されているが、営業職はなくならない)が、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)誌に掲載された。当時は、新たに登場したテクノロジーによって、企業は営業部門を縮小するという予測が相次いでいた。なかには、2020年までに法人(B2B)営業職が100万削減されるという悲惨な予測もあった。しかし、我々はそうは考えなかった。

 筆者らは、「デジタルツールによって、購入手続きの一部はオンラインに移行し、一部の営業職はなくなるが、多くのB2B調達(とりわけ複雑または新しい製品が伴う調達)は、引き続き困難で不透明であり続ける」と予測した。それゆえ、買い手が困難な問題を処理し、解決策を形成し、合意を構築し、価値を実現するのを助ける熟練営業職には、引き続き強い需要があると、我々は主張した。そして、「大幅な景気後退がない限り、B2B営業職の雇用総数は縮小するどころか増加する可能性が高い」と予測した。

 それから10年近くが経ち、データで実態が明らかになってきた。コロナ禍の一時的な落ち込みを除くと、B2B営業職は減少ではなく増加しているという長期的なトレンドが示されたのだ。米労働統計局の発表によると、米国の非小売りB2B営業職従事者は、2015年は390万人だったが、2019年には410万人に増え、2020年には一時的に390万人に落ち込んだが、2024年には420万人に達した。

 だが、AIや生成AIが急速な進歩を遂げているいま、「今回は違うのではないか」という疑問が生まれるのはもっともだろう。よりスマートなシステムが、ついに大規模なB2B営業部門に対するニーズを低下させるのか。

 筆者らの見解は、依然として「ノー」だ。

 ただ、このトレンドラインはきれいな直線を描くものではない。営業職の総数は増えてきたが、業界や顧客のタイプ、製品によっては、減少も見られたからだ。

営業職が減っている領域と、増えている領域

 取引型の購入や既存の製品、リピート購入のパターンがある分野では、買い手は営業担当者の助けを借りなくても、デジタルツールを使ってニーズを満たすことができる。製薬や産業流通などの業界で、営業部門が縮小してきたのはこのためだ。

 製薬大手は2019年以降、営業職を20~25%を削減してきた。これは医療提供者へのアクセスが低下したことや、専門医が処方する複雑な治療法が目立ってきたこと、そしてデジタル情報源への依存度が高まってきたことを受けた現象だ。公表されている数字に基づく計算では、米産業用品流通大手WWグレインジャーは2014~2024年、全世界で営業職を600人以上削減したほか、支店の40%を閉鎖して、デジタルチャネルと、よりスリムな内勤営業チームに置き換えた。