なぜバーバリーはゲーム会社とコラボレーションしたのか
HBR Staff; robuart/Getty Images; AI
サマリー:消費者の価値観がモノの所有から体験へと移行する中、ビデオゲームは顧客と繋がるための極めて重要なプラットフォームとなりつつある。ファッションブランドのバーバリーも、ゲームとの協業で新たな顧客層を開拓し、大きな成功を収めた。本稿では、バーバリーを事例として紹介しながら、あらゆる企業がゲーミング戦略を持つべき理由と、それがもたらす計り知れない利益について考察する。

バーバリーがゲーム会社とコラボレーションした理由

 バスティアン・バーグマンは、新著Press Play: Why Every Company Needs a Gaming Strategy(未訳)で、ゲームを顧客獲得に活用する先見性のある企業の事例を考察している。本稿は、同書の内容を抜粋したものである。

 ファッションブランドのバーバリーから、新しいコレクションをブロックチェーンベースのビデオゲーム「ブランコスブロックパーティー」内のキャラクターを使って発表したいと持ちかけられた際、共同創業者兼CEOのジョン・リンデンが率いる同ゲームの開発会社、ミシカル・ゲームズのチームは冗談だと思った。しかし、バーバリーは真剣だった。従来の顧客とはまったく異なる期待と購買行動を持つ、新たなデジタルオーディエンスにリーチしたいと考えていたのだ。

 バーバリーは、周到な事前調査を行っていた。世界の消費トレンドに関するリサーチにより、ターゲットとなる消費者は単に買い物を楽しむだけでなく、ソーシャルメディアでブランドと交流し、ビデオゲームをし、物理的なモノよりも体験を優先する傾向があることが判明した。パーソナライゼーションが極めて重要だったのだ。

 オープンワールド形式でブロックチェーンを基盤とするブランコスブロックパーティーは、理想的なプラットフォームだった。このゲームでは、プレーヤーは「ブランコ」と呼ばれるデジタルのビニール製おもちゃを所有し、作成し、売買し、カスタマイズできる。ブランコは、ポップカルチャーやさまざまなアートスタイルに影響を受けたユニークなデザインと能力を備えている。

 バーバリーが目指したのは、ゲーム内で本物のバーバリー体験を提供することだった。チームは「シャーキーB」という新しいキャラクターを開発し、プレーヤーが購入してアバターとして使用できるようにした。プレーヤーはこのキャラクターを、バーバリーの2021年のサマーコレクションの仮想アイテムでカスタマイズすることができ、ハイファッションとデジタルプレーを融合させた。

 ジェットパック、シューズ、アームバンドなどのアクセサリーを装備したこの限定版キャラクター(わずか750体)は、両社の提携開始からわずか2か月後に発売され、価格は1体299.99ドルにもかかわらず、わずか22秒で完売した。これはゲーム内アイテムの平均価格に比べて高価だったが、プレーヤーは躊躇しなかった。この価格は、現実世界のバーバリー製品が発するメッセージと同様に、限定性、プレミアムな体験、特別なコミュニティの一員であることを意味していたからだ。バーバリーはこの最初のゲーム体験で、わずか1分足らずで22万5000ドルの収益を生み出した。

 それ以上に重要なことは、バーバリーがブランドの本質を保ちながら、新しいデジタルオーディエンスにリーチしたことだ。金銭的な利益だけでなく、バーバリーはビジネスとして新たな機会を創出し、それが今後の取り組みによい影響を与えるだろう。

 今日の多くの企業は、劇的に変化した消費者の期待に応えようとしている。人々はものやサービス以上に体験を求めている。なぜなら、体験は消費後も長期間にわたり価値を提供し続けるからだ。

 調査によれば、顧客の80%は企業がパーソナライズされた没入感の高い体験を提供する場合、購入する可能性が高くなると回答している。64%は、そうした体験を提供する企業が、リアルタイムで彼らの質問や要望に反応し、返答することを期待している。このデータは、従来のメディアや顧客エンゲージメント、すなわち実証済みのマーケティング手法では、これらの要望を満たすことができないことを明確に示している。たとえば、2020~2024年に1日のテレビ視聴時間が21%減少した一方で、デジタルメディアの消費は2020~2026年に28%増加すると予測されている。このギャップを広げている主な要因こそ、ビデオゲームに他ならない。

誰もがゲームをしている

 2024年にほぼ毎日ビデオゲームをする人は33億人に達し、これはインターネットに接続する世界人口の約60%を占める。ゲーミングは、他のどのテクノロジーやプラットフォームとも異なる方法で、私たちの生活に深く浸透しているということだ。

 自分をゲーマーだと思っていなくても、頻繁にビデオゲームに触れている可能性は高い。たとえば、筆者の妻はけっして自分をゲーマーとは言わないが、スマートフォンにパズルゲーム「2048」を入れて頻繁にプレーしている。彼女はまた、『ニューヨーク・タイムズ』紙のゲームバンドルも好んで利用している。ゲームバンドルは、出版業界が苦境にある中、同紙のデジタル収益を増加させた重要な原動力だ。

 あなたの子どもたちも、おそらく何らかのビデオゲームをしたり、その中で友だちと遊んだりしているだろう。あなたやパートナーも「ワードル」を楽しんでいるかもしれない。あるいは、飛行機で隣に座っている人が、カラフルな宝石を集めるためにアイテムを必死にマッチングさせているかもしれない。「キャンディークラッシュ・サーガ」を毎月少なくとも一度はプレーする人は約2億7000万人にも上る。

 筆者の65歳の義父は、ディナーパーティーのたびにスマートフォンを取り出し、「ロイヤルマッチ」を数分間プレーする。先日、ミーティングをした大手保険会社の幹部は、自分はゲーマーではないと断言していたが、同僚に「スクラブルゴーをどれくらいの頻度で開くのか」と尋ねられると、言葉に詰まっていた。次に会社や家族の集まり、公共の場に出向いた時は、周囲を観察してみてほしい。誰もがゲームをしていることに気づくはずだ。

 ゲーマーは地下室で一人、テレビに向かって座っているという神話は、もはや時代遅れであるだけでなく、極めて不正確だ。なぜなら、社会的、経済的、人口統計学的な背景に関係なく、誰もがゲームをしているからだ。ゲームは日常生活の多くの場所に現れ始めている。ネットフリックスやアップルTV+を視聴していれば、従来のコンテンツを拡張したゲームの宣伝を目にしたことがあるだろう。インスタグラムはゲームのようには見えないが、その中核機能はゲーム的であり、それが大きな成功の理由の一つとなっている。

 有名な語学学習アプリ「デュオリンゴ」も同様だ。次の旅行のために外国語のスキルを磨いているのであれば、その体験が非常にゲームに似ていることに気づいているはずだ。同社はさらにゲーミング分野への進出を強化しており、最近、モバイルゲーム開発会社のネクストビートを買収し、専用のモバイルゲームを通じてユーザーに音楽レッスンを提供する計画がある。

 主要ブランドや企業、非営利団体もゲームに参入し、消費者の期待とエンゲージメントにおける劇的な変化に対応するためにさまざまな戦略を展開している。その一例を紹介しよう。

・マスターカードは、「リーグ・オブ・レジェンド」と提携したクレジットカードを発行し、プレーヤーがゲーム内でキャッシュバック特典を利用したり、特別な割引を受けたりできるようにした。

・ルイ・ヴィトンは、リーグ・オブ・レジェンドの大会の勝者に送られるトロフィーケースを手がけた。

・マウンテンデューは、ゲーマー向けに特別に開発したソーダを「コール オブ デューティ」内で宣伝した。

・バレンシアガは、新作コレクションを、ミラノ、パリ、ニューヨークのランウェイで発表する前に「フォートナイト」でバーチャルにローンチした。

・ワーシーとエレノア・クルック財団は、「PUBG」や「スポンジ・ボブ」などのゲーム内でアイテムを販売し、わずか26時間以内に栄養失調の子供たちへ1万日分の治療用食品を提供するための資金を確保した。

・ペロトンは、ユーザーがカロリーを消費しながらバイクレースのビデオゲームに没入できるようにし、没入型でつながりのあるフィットネスプラットフォームになるという同社の目標への道筋を開いた。

 これらの企業がビデオゲームに注力する姿勢は、「遊び」が「真剣なビジネス」であることを物語っている。こうした企業が──そしておそらくあなたの会社も──得ることのできる利益は計り知れない。ゲームは、顧客エンゲージメントの取り組みを迅速かつグローバルに拡大させ、ブランドを体現し、目標に合わせた独自のタッチポイントを通じて何百万人もの消費者にリーチできる。これは、ソーシャルメディアでさえ提供できない、ゲーム独自の価値だ。

ゲームがもたらす利益

 ゲームを介したコンテンツ、ブランド、製品へのエンゲージメントは、ウェブサイトを経由するよりも、ましてやオフラインのタッチポイントよりも、はるかに高い。このエンゲージメントは継続的で、現代のカスタマージャーニー全体を通じて、顧客の心に自社ブランドを留め続けることができる。

 ゲームは、企業が新しいコミュニティの一員となり、顧客とリアルタイムで継続的に交流し、かつてなく強力なブランドアイデンティティとロイヤルティを構築するのに役立つ。ビデオゲーム内で仮想アイテムを購入した消費者の86%が、対応する物理的なアイテムも購入したという調査結果もある。

 さらに、ターゲットオーディエンスから大規模で価値あるデータやインサイトを得ることができ、R&Dにおけるリスクとコストの削減、そして収益増加につながる。

 このようなメリットがあるからこそ、マイクロソフトは2023年に687億ドルという同社史上最高の金額でアクティビジョン・ブリザードを買収し、ゲーミング戦略を強化したのだ。ビデオゲームは、21世紀の消費者接点であり、あらゆる企業にサービスのあり方を再考させている。

 元ペイパル社長兼CEOのダン・シュルマンは次のように語っている。「人々は毎日ビデオゲームをし、毎日何度も支払いを行う。しかし、ペイパルを使うのは週に数回にすぎない。ビデオゲームの世界から学び、それを決済の世界に応用できることがあるのではないか」。この教訓は、ダイナミックな消費者ブランドから伝統的なB2B企業まで、あらゆる業界と企業に当てはまると筆者は考えている。

 本稿は、バスティアン・バーグマンの著書Press Play: Why Every Company Needs a Gaming Strategy, Harvard Business Review Press, 2025.(未訳)からの抜粋である。


"Your Company Needs a Gaming Strategy," HBR.org, September 09, 2025.