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AIが常に利益をもたらすわけではない
2022年11月、チャットGPTが突如として現れ、1カ月で100万人以上のアクティブユーザーを獲得したことで、AIは一般の人々に認知されるようになった。もはやテック大手や科学者だけのものではなく、たちまち誰もが利用できる変革の道具として売り込まれるようになった。ディープシークのような先進的なAIモデルの普及によって、コストとともに導入のハードルも下がり、企業はAIがもたらすメリットに対する期待感をますます高めている。
こうした熱狂の中、多くの企業がAIを将来に不可欠なものと見ている。企業のAI投資額が2028年までに3倍に膨らむという予測もある。
しかしAIに、ビジネスを根本から変える力があると無邪気に信じるのは危険だ。経営陣に最適とはいえない意思決定をさせ、会社の利益と成長を妨げることにもなりかねない。
企業がAI技術の罠にはまる時
スナップチャットを例に取ろう。2011年に誕生すると、消えるメッセージや気軽な画像共有などの機能で、Z世代を中心に急速に人気を集めた。最盛期には、世界で最もダウンロードされたアプリの一つとなり、1日のアクティブユーザーは数億人に上った。
2023年、スナップチャットはオープンAIを活用した生成AIチャットボット、My AIを導入した。AIブームに乗り、この新機能を搭載することによって、当然ユーザー体験やエンゲージメントが向上すると考えていた。
しかし、その動きは広く反発を招いた。
My AIは、デフォルトでユーザーのチャットフィードのトップに表示されるように設定されており、簡単に消すことができなかった。ユーザーは、その機能を便利だとも斬新だとも思わず、むしろ不要な監視者のように押しつけがましく、不気味なものに感じた。即座に反発が生まれた。アプリストアのレビューには、不要なチャットボットに言及した星1つの評価が殺到し、スナップチャットのランキングと評判は大きく低下した。同アプリの米国iOS版の評価は、星1.67にまで急落した。「スナップチャットを削除」のグーグル検索数が、MY AIのサービス開始から数カ月で488%増加し、ユーザーの不快感や不満の広がりを表していた。
スナップチャットだけではない。ノードストロームも、AIが万能ではないことを身をもって学んだ。同社は事業拡大のために、多忙な社会人向けにパーソナルスタイリングサービスを提供する「トランククラブ」(Trunk Club)を買収し、AIを導入した。だがその結果、同社の一番の売りである「ハイエンドな手厚いパーソナライズ体験」が希薄化し、返品率の上昇と販売不振に見舞われた。オペレーションコストを賄えなくなったノードストロームは結局、同事業を終了した。
AIと戦略の順番を間違えてはいけない
スナップチャットとノードストロームの事例が示すように、製品にAIを加えるだけでは成功は保証されない。それによって価値が創出されるか否かは、企業がAIをどう活用するかにかかっている。企業がAIを先行させたり、万能薬として扱ったりするのは本末転倒であり、自社の戦略や市場への価値提供を損ないかねない。
しかし、その逆のアプローチを取り、戦略から始め、買い手に付加価値を届ける方法を見つけ、価値の飛躍を実現する手段として技術を活用する場合、AIは利益、成長、商機をもたらす強力な起爆剤になりうる。






