戦略起点のAI活用が企業の競争力を高める
Illustration by Harriet Lee-Merrion
サマリー:企業の成功を左右するのはAIそのものではなく、企業がそれをどのように活用するかである。AI導入に先走れば、本来の価値創造を損ないかねない。一方で、戦略を起点に「買い手にいかに価値の飛躍をもたらすか」を見極め、その実現手段としてAIを位置づける企業は、利益と成長、そして新たな商機を生み出すことができる。本稿では、AIがもたらす変革の本質と、企業が戦略→価値→AIという正しい順序で成果を生み出すための指針を示す。

AIが常に利益をもたらすわけではない

 2022年11月、チャットGPTが突如として現れ、1カ月で100万人以上のアクティブユーザーを獲得したことで、AIは一般の人々に認知されるようになった。もはやテック大手や科学者だけのものではなく、たちまち誰もが利用できる変革の道具として売り込まれるようになった。ディープシークのような先進的なAIモデルの普及によって、コストとともに導入のハードルも下がり、企業はAIがもたらすメリットに対する期待感をますます高めている。

 こうした熱狂の中、多くの企業がAIを将来に不可欠なものと見ている。企業のAI投資額が2028年までに3倍に膨らむという予測もある。

 しかしAIに、ビジネスを根本から変える力があると無邪気に信じるのは危険だ。経営陣に最適とはいえない意思決定をさせ、会社の利益と成長を妨げることにもなりかねない。

企業がAI技術の罠にはまる時

 スナップチャットを例に取ろう。2011年に誕生すると、消えるメッセージや気軽な画像共有などの機能で、Z世代を中心に急速に人気を集めた。最盛期には、世界で最もダウンロードされたアプリの一つとなり、1日のアクティブユーザーは数億人に上った。

 2023年、スナップチャットはオープンAIを活用した生成AIチャットボット、My AIを導入した。AIブームに乗り、この新機能を搭載することによって、当然ユーザー体験やエンゲージメントが向上すると考えていた。

 しかし、その動きは広く反発を招いた。

 My AIは、デフォルトでユーザーのチャットフィードのトップに表示されるように設定されており、簡単に消すことができなかった。ユーザーは、その機能を便利だとも斬新だとも思わず、むしろ不要な監視者のように押しつけがましく、不気味なものに感じた。即座に反発が生まれた。アプリストアのレビューには、不要なチャットボットに言及した星1つの評価が殺到し、スナップチャットのランキングと評判は大きく低下した。同アプリの米国iOS版の評価は、星1.67にまで急落した。「スナップチャットを削除」のグーグル検索数が、MY AIのサービス開始から数カ月で488%増加し、ユーザーの不快感や不満の広がりを表していた。

 スナップチャットだけではない。ノードストロームも、AIが万能ではないことを身をもって学んだ。同社は事業拡大のために、多忙な社会人向けにパーソナルスタイリングサービスを提供する「トランククラブ」(Trunk Club)を買収し、AIを導入した。だがその結果、同社の一番の売りである「ハイエンドな手厚いパーソナライズ体験」が希薄化し、返品率の上昇と販売不振に見舞われた。オペレーションコストを賄えなくなったノードストロームは結局、同事業を終了した。

AIと戦略の順番を間違えてはいけない

 スナップチャットとノードストロームの事例が示すように、製品にAIを加えるだけでは成功は保証されない。それによって価値が創出されるか否かは、企業がAIをどう活用するかにかかっている。企業がAIを先行させたり、万能薬として扱ったりするのは本末転倒であり、自社の戦略や市場への価値提供を損ないかねない。

 しかし、その逆のアプローチを取り、戦略から始め、買い手に付加価値を届ける方法を見つけ、価値の飛躍を実現する手段として技術を活用する場合、AIは利益、成長、商機をもたらす強力な起爆剤になりうる。

 ユンジ・テクノロジー(雲跡科技術)のAI搭載配送ロボットを例に取ろう。中国では24時間いつでも即時配送が当たり前になっている。温かい食事から生花、日用品に至るまで、ほぼ何でもクリック一つで注文でき、通常、ものの15分から30分で届く。 

 ところが、ホテルの宿泊客が配達サービスを使って、深夜に軽食や予備の歯ブラシ、持参し忘れた充電器などを注文しようとする際に問題が生じた。

 ホテルのセキュリティ規定では、配達員の宿泊フロアへの立ち入りを制限しているため、宿泊客は注文品が届くたびに服を着替えてロビーまで降りていかなければならない。特に一晩の間に複数回注文する宿泊客にとって、これは面倒で、もどかしいことである。配達員が客室に直接届けることが許されている稀なケースでも、配達員の時間ロス、ホテルのセキュリティリスク、深夜に見知らぬ相手にドアを開ける客の不安などの問題があった。

 この明らかな物流の「ラスト・ワン・インチ」問題に目をつけたユンジは、客室へ直接荷物を届けるコスト効率に優れた、愛想のよい配達ロボットを開発する戦略を立て、AIを活用して実現した。この愛らしいロボットは、客室のドアまで自律走行し、人を思わず笑顔にする子どものような柔らかい声で優しく到着を告げる。宿泊客が荷物を受け取ると、ロボットは軽やかに立ち去り、エレベーターでは同乗者にジョークを飛ばして遊び心を披露する。

 このロボットは瞬く間に人気となった。ホテルの滞在を便利で楽しいものにし、配達員の時間を節約すると同時に、ホテルの運営効率を向上し、顧客に対する魅力を高めた。実際、ユンジのロボットを導入したホテルでは、オンライン旅行代理店への1日のコメントが27%増加した。ユンジのロボットを高く評価するレビューは600万件を超え、画像投稿を含むレビューは、通常を大きく上回る35%に上った。

 現在、ユンジのロボットは、中国のホテルロボティクス市場で90%のシェアを誇り、20カ国3万軒以上のホテルで導入されている。同社は、現実の問題を解決し、全関係者に付加価値をもたらす戦略を立て、その後AIを活用して戦略を実現した。企業が成功するには、同社のように、戦略→価値→AIの順序を正しく踏む必要がある。

 もう一つの成功例がデュオリンゴだ。創業者らは、対面の語学レッスンが高価で、地理的、時間的制約を受けやすい点に目をつけた。オンラインプラットフォームは柔軟性が高いが、画一的なアプローチでは学習者ごとの状況に合わせた調整ができず、リアルタイムでのやり取りもできないため、関心を引き続けたり、それぞれのニーズに応えたりすることができず、多くの離脱者を出していた。

 そこで創業者らは、そうした欠点を解消し、ブレークスルーとなるような価値を生み出すことを目指した。彼らの戦略は、地理的、時間的制約がないだけでなく、楽しくインタラクティブで、一人ひとりのニーズに合わせた語学学習体験を創造することだった。カスタマイズ性とゲーム性を備えたオンラインプラットフォームに答えを見出した創業者らは、戦略の実現にAIを活用した。ユーザーインタラクションの分析とゲーム化、エンゲージメントを高めるリーダーボード(ユーザーランキング表)の作成、ユーザーのニーズに合わせたレッスンやフィードバックの動的な調整などには、AIの導入が最適だった。

 こうしてデュオリンゴは、カスタマイズ教育のメリットを大規模に展開し、何百万人ものユーザーに同時にサービスを提供し、語学学習を楽しく魅力的なものにすることができた。その結果、市場に独自の価値を届けるというデュオリンゴの戦略は、世界規模の膨大なユーザー基盤と、高収益の成長をもたらした。

 2024年末時点で、月間アクティブユーザーは1億1670万人超、累計ダウンロード数は9億6000万回登録ユーザー数は5億7500万人の上り、ユーザー基盤とリーチにおいて他を大きくしのぐ最大の語学学習プラットフォームとなった。収益は、2024年の売上高が前年比40.8%増の7億4800万ドル、純利益は8690万ドルに達した。2025年初頭、CEOが「AIファースト」の方針を表明したことで、AIが人間の労働者に取って代わることへの不安から批判を受けたが、同年の売上高は40%増と上昇し続けている。

AIエージェントの拡大効果

 技術が進化する中、魅力的な価値を提供する明確な戦略なしでは、いくらAI技術に投資しても賢明ではないこと、AIの前に戦略と価値が必要なことをAIエージェント自体が示している。

 さまざまな調査で示されているように、買い手はますます購買決定にチャットGPTなどのAIエージェントを利用するようになっている。AIは、購買に関する質問に答える際、大小や遠近問わずあらゆるサイトのデータを精査し、選択肢を見つけ、レビューを要約し、商品や購買条件の客観的価値を評価する。これにより買い手は知識と選択肢を与えられるため、優れた価値を提供する無名企業が有名企業と同じ土俵に上ることになる。

 AIエージェントは、優れた価値を提供する戦略と、しない戦略を明らかにするため、戦略→価値→AIの順序を守ることの重要性を増大させている。これまで見過ごされていたか、あるいは認知すらされていなかった無名の中小企業も、いまは魅力的な価値を提供できれば、有力企業や有名ブランドに勝つことができる。これにより、企業は規模やAI導入の有無にかかわらず、優れた価値を提供する戦略によって差別化を図らざるをえない。すべての選択肢を瞬時に評価するというAIエージェントのユーザーメリットこそが、業界の競争ルールを塗り替え、ブランド力、市場認知度、高度なAI技術による差別化のみではない状況を生み出している。

自社のAI戦略が創出する価値を確認する4つの問い

 AIは進化し続け、その可能性は未知数である。以下は、AIを導入しようとする企業が問うべき4つの問いである。

・AIに飛びついているのは、AIの波に乗り遅れる不安からか、それとも客観的な価値を提供するためか。

・AIを導入するのは、自社の戦略や価値提案との整合性や効果を十分に検討せずとも、それによって新たな成長がもたらされ、自社の存在価値を維持できると期待しているからか。

・AIの技術革新と真の価値を混同していないか、その価値を顧客に納得させることはできるのか。

・AIの導入は、戦略に沿った持続可能なビジネスモデルの構築に役立っているか、それとも自社の価値提案への影響によって、収益性が損なわれるリスクはないか。

 これらの問いへの答えは、AIが成長や収益の新たな地平を開くか、それともネットバブルのように過大な期待というお馴染みの罠に企業を導くかを、大きく左右するだろう。


"Make Sure Your AI Strategy Actually Creates Value," HBR.org, September 05, 2025.