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どうすれば従業員はリスクを伴う行動を取るか
ある世界屈指の自動車部品メーカーは、社内で「ビッグイベント」と呼ばれる状況に2年に1回のペースで直面していた。大規模プロジェクトが計画通りに進まなくなり、そのたびに8000万~1億ドル程度の損害を被っていたのだ。同社の社長として新たに就任した人物は、このような莫大な損害を生むパターンが繰り返されている原因を調査したいと考えた。
その調査によると、問題は、社内で働く人たちが組織階層で上位の人たちへのフィードバックという、リスクを伴う行動を取りたがらないことにあるとわかった。フィードバックがなされないうちに、状況が手遅れになってしまうのだ。問題がエスカレートして工場内では解決できなくなり、ついには上層部に助けを求めるしか選択肢がなくなる。
他の多くの企業と同様、この会社でも言わば「CEO病」が蔓延していた。つまり、リーダーが組織で高い地位に昇進すればするほど、部下から率直なフィードバックと情報を得にくくなるのだ。
このように、働き手がリスクを伴う行動──この場合で言えば、発言すること──を取ろうとしないために、チームと組織にとてつもなく深刻な悪影響が及ぶ場合がある。
チームや組織が高い成果を挙げようと思えば、人々がリスクを冒すことは不可欠だ。人々がある戦略やプロダクトについて不都合な真実を指摘したり、難しい決断を下したり、何らかの問題に声を上げたりしなければ、企業が過去に達成されたことを上回る成果を挙げ、競合企業と差別化されたプロダクトを開発することは難しい。
しかし問題は、リスクを伴う行動を取ることが人間の基本的な行動パターンに反していることだ。人間には生物学的に、自分を守ろうとする性質が備わっている。そのような傾向は、成果を挙げなくてはならないという重圧を感じている時に、とりわけ強まる。
私たちがリスクを伴う行動を取ろうとすると、高い成果を挙げるために必要とされる行動と、自衛のために必要だと脳が指示する行動がぶつかり合う。筆者はこの衝突を「成果を挙げることについて回る根本的な対立関係」と呼んでいる。企業が人々にリスクを取らせ、戦略を実行するために素早く行動させる必要がある時に、脳はその人たちに、自分を守るための行動を取らせようとするのだ。
では、企業はどうすれば、この対立関係に対処して、従業員にさらなるリスクを取らせることができるのか。
筆者がNFL(アメリカンフットボール)、NBA(全米バスケットボール協会)、五輪競技で好成績を挙げているチームのコーチたちに助言してきた経験と、筆者が所属するヘルス・アンド・ヒューマンポテンシャル研究所(IHHP)の研究を通じて、チームがよりリスクを取り、ライバルよりも速いペースで改善を成し遂げるために有効ないくつかの戦略が明らかになってきた。それらの戦略をめぐる議論は、ある一つの数値から出発する。その数値とは8%である。
最後の8%
ヘルス・アンド・ヒューマンポテンシャル研究所(IHHP)は、3万4000人を対象に、難しい決断を下すこと、不都合な真実を指摘すること、厳しい会話をすることなど、リスクを伴う行動について複数年にわたって調査を実施した。その調査によりわかったのは、ある状況で人々が取るべきだと考えるリスクと、実際に取るリスクの間には、ギャップがあるということだ。
たとえば、人々は会話の際にたいてい、言いたいことの平均7.56%──四捨五入すれば8%だ──を口にしない。それ以外の92%の内容を話している時はいたって快適だが、さらに難しい話題(他の人たちやプロジェクトにとりわけ大きな影響を及ぼす可能性のある話題)に関しては、相手がどのように反応しているか、あるいはどのように反応しているように見えるかが気になり、言いたいことすべてを話さないのだ。
同様のことは、難しい決定を下そうとする際にも起きる。ほとんどの人は、容易な選択をすることにはストレスを感じない。しかし、リスクを伴う決定、すなわち、誰を昇進させるか、どのプロジェクトを推進するかなど、他の人たちの気分を害する可能性がある決定を下す際には、決断を下すことを躊躇したり、先延ばししたりして、なかなか行動を起こせない。
            
    

  
  
  
          
          
          
          
          


