エントリーレベルの仕事をAIに代替させることの危険性
Illustration by Monika Jurczyk
サマリー:多くの企業はAIによる生産性の向上や効率化を理由に、エントリーレベルの職種を削減しようとしている。しかし、それは短期的なコスト削減にはなっても、長期的には組織と社会の力を蝕む近視眼的な判断だ。エントリーレベルの仕事は、次世代のリーダーを育て、イノベーションを生み出し、組織文化を豊かにし、社会全体を支える基盤である。本稿では、AI時代におけるエントリーレベル職種の再設計がなぜ必要なのか、そしてその社会的意義を示す。

エントリーレベルの仕事がAIに代替されている

 あなたも耳にしたがことがあり、おそらく実際にも体験しているだろうが、AIは私たちの働き方を変えている。十分な評判や地位、強固な人脈を持つ上級専門職なら、AIに職を奪われる危険性は比較的低いかもしれない。少なくとも現時点では。

 しかし、エントリーレベルの職種については事情が異なることを示す証拠が増えている。スタンフォード大学の研究によると、ソフトウェア開発や顧客サービスといった、最もAIの影響を受けやすい分野における米国での若手従業員の雇用は近年大幅に減少している。世界経済フォーラムの調査は、若手社員の典型的な業務(報告書の草稿作成、リサーチの要約、コードの修正、スケジュール管理、データのクレンジングなど)の50~60%が、すでにAIによって実行可能であることを示している。

組織がエントリーレベルの職種を再設計すべき理由

 単にコスト削減のためにエントリーレベルの職種を削減するのは、企業にとっても社会にとっても危険なほどに近視眼的だ。エントリーレベルの職種をいっせいに排除しようとする誘惑に抗うべきだという強い根拠がある。むしろ、それらの職種を再設計すべきなのだ。説得力のある理由は少なくとも4つある。

1. 将来の中堅専門職とリーダーを育成するため

 有能なマネジャーやプロフェッショナルは誰しもどこかでキャリアをスタートさせている。最高のリーダーや優れた専門家は、その分野の基礎から学ぶことで、リーダーシップや重要な問題を解決するために必要なスキルと視点を獲得する。どのような職業(あるいは活動)においても、人は時間をかけて「意識的に未熟」な状態から「有能」になり、最終的には価値あるスキルにおいて「無意識的に有能」になる。この段階で、より大きな全体像を捉え、リスクの高い決断を効果的に下すことができるようになる。エントリーレベルの職種をなくすことは、この育成の道筋を断ち切る行為だ。

 最前線で働いたことがなく、顧客からの苦情を処理したことも、重要な会議の議事録を作成したこともなく、業務の細かなことに苦労したこともないマネジャーを採用することを想像してみてほしい。そのようなリーダーシップは観念的で、現実からかけ離れ、危険なほど世間知らずになるだろう。自身のキャリアにおける「発見」の瞬間を思い出してほしい。似たようなパターンが繰り返されることで、重要な因果関係を垣間見ることができ、おそらくそれが、仕事や専門分野でより効果的に働くための洞察を確固たるものにしたはずだ。

 簡単に言えば、今日のエントリーレベルの職種のほとんどは、2つの本質的な機能を果たしている。1つは業務を遂行させることであり、もう1つは業務を実行する人々を、組織および社会のより有能な一員へと成長させることだ。

2. 草の根からのイノベーションを促進するため

 イノベーションは、しばしば業務に最も近い場所から生まれる。既成概念に囚われない若手従業員は、非効率性を見抜き、創造的な解決策を提案するのに独自の強みを持っている。テクノロジーの世界では、これを「ドッグフーディング」(自社製品を自社で試用すること)と呼ぶ。マイクロソフトが初期のワードやエクセルを社内でテストし、従業員のフィードバックを製品に反映させてから一般に公開したのは有名な話だ。

 エントリーレベルの従業員も、プロセスを実際に試しながら弱点を見つけ出すことで、同様の価値を生み出す。一貫した出力を提供するAIとは異なり、人間は変動性を生み出す。これは時に厄介だが、新しいアイデアや改善の提案、そしてブレークスルーの源泉となることが多い。誰もが使える同じ機械やツールにアイデア出しを任せ、非常に似通った、あるいは同一の結果を生み出すようなアプローチでは、競争優位性を生み出すことは期待できない。

3. 組織の文化を豊かにするため

 今日の労働力はかつてないほど多世代で、最大5世代がともに働いている。この年齢と視点の多様性は職場の文化を豊かにし、創造性を刺激する。若者を排除すると組織は新鮮なエネルギーを失い、視点の幅が狭まる。それは、既存の従業員同士が主に会話をし、刷新のサイクルが崩壊する、無味乾燥で画一的な文化を生み出すリスクを伴う。

4. 社会を守るため

 仕事は単なる収入源ではなく、目的や秩序、帰属意識をもたらす。エントリーレベルの職種がなければ、何百万もの若者が無為に過ごすおそれがある。歴史が示すように、多数の健康な若者が意味のある仕事を持たないと、社会は疎外、不安、さらには犯罪という形で代償を支払うことになる。エントリーレベルの職種を守ることは、企業の責任であるだけでなく、市民としての責任でもある。

エントリーレベルの職種を再設計する方法

 エントリーレベルの職種を守るためには、AIが導入された職場でも価値を発揮できるように、それらを再構築しなければならない。それには4つの主要なステップがある。

1. タスクを再設計する

 若手社員の役割は、AIがより速くより正確にこなせる反復的で自動化可能な業務によって定義されるべきではない。その業務の背景にある「なぜ」を彼らが理解できるように設計すべきである。

 会計を例に取ろう。AIは取引の照合や財務諸表の作成を行うことができ、ほとんどの会計事務所は、さまざまな形態のAIを導入して若手スタッフを異常検知、不正調査、クライアントへの助言といったより価値の高い活動に振り向けている。これにより、若手スタッフは業務の仕組みを学ぶ機会を維持しつつ、実際の業務は機械が生成した結果を解釈することに主眼を置いて働くことができる。

 同様に、筆者の1人(トマス)が従事してきた人材派遣や大量採用の世界でも、AIは何年も前からツールとして活用されており、何百万もの履歴書、応募書類、事前録画された面接をふるいにかけ、人材採用担当者が潜在能力の高い求職者を優先できるようにしている。しかし、若手の採用担当者も、AIにタスクを任せることによって時間を節約し、選考に残った候補者やクライアントとより価値のある人間同士のやり取りを行うことで、バリューチェーンの「ラストワンマイル」で重要な役割を果たしている。

 このような変化は、マッキンゼー・アンド・カンパニーの試算と一致する。それによると、職業の60%は少なくともその3分の1のタスクが自動化される可能性があるが、完全に自動化される職業はごくわずかだ。真の機会は、人間の判断力、協調性、創造性が求められる分野に時間を割けるよう、仕事を再考することにある。こうして人間の能力はAIによって増幅される。

2. 補完するスキルに焦点を当てる

 AIは、批判的思考と組み合わされて初めて役に立つ。生産性の向上は、専門的な判断を犠牲にするならば意味がない。『サイエンス』誌に掲載された最近の研究によると、生成AIはテキストベースのタスクにおいて生産性を最大40%向上させることができるが、機械の提案を無批判に受け入れる経験の浅い人は、自分で問題を考え抜く人よりもパフォーマンスが低いことがわかっている。

 銀行を考えてみよう。ほとんどのアナリストは、プレゼンや報告書の草稿作成に生成AIを使用している。これを補完するために、現在では「レッドチーム」演習が研修に導入されている。そこで若手社員は、仮定を検証し、弱点を特定し、生成AIが誤っている可能性がある理由を説明するよう求められる。目指すのはスピードだけではなく、判断力の養成である。若手アナリストは、懐疑論者や競合他社の視点で、AIの出力に誤った前提や欠落データ、論理的欠陥がないかを探るよう求められ、その批判を上級社員に説明しなければならない。これにより、AIは一種の知的なスパーリングパートナーとなる。高速で有能だが、間違いを犯す可能性もある存在だ。

3. 仕事を再設計する

 AIのデフォルトの使い方は代替だ。機械に仕事をさせ、人員を削減する。より賢明なアプローチは、ワークフローを再設計し、AIが反復的な作業を担い、人間が問題設定や、よりよい質問の提示、関係構築に集中できるようにすることだ。

 コンサルティングの分野では、AIが市場レポートを統合・分析することができる。一方で、企業は依然として若手コンサルタントをワークショップやインタビューに参加させ、アルゴリズムでは提供できない対人スキルや文脈の理解力を身につけさせている。ソフトウェア開発では、生成AIプラットフォームが定型コードの作成に広く使用されているが、若手エンジニアはデバッグ、システム設計、ペアプログラミング(ソフトウェア開発における協働手法)といった、コラボレーションと問題解決が最も重要となる領域に配属されている。

 これまでのところ、人間とAIのハイブリッド型ワークフローに関するほとんどの研究は、最高のパフォーマンスは「AIファースト、人間セカンド」ではなく、機械が定型業務を加速させ、人間が不確実性、斬新さ、説得に集中するという、慎重に構築された分業体制によって生まれると示唆している。これは、ラヴィン・ジェスターサンとジョン・ブードローの『仕事の未来×組織の未来』の研究と一致している。この研究は、組織が「役職名」や「職務担当者」を超え、より流動的で、スキル中心で、仕事主導の運営モデルを採用する方法を示している。

4. 人材を育成する

 おそらく最も重要な原則は、エントリーレベルの業務が単に仕事を完了するだけでなく、人を育成するためにも設計されるべきだということだ。プレッシャー、曖昧さ、時には失敗に早い段階でさらされることで、プロフェッショナルはレジリエンスと判断力を身につける。

 医療を考えてみよう。研修医はいまもなお、長時間にわたる過酷な勤務に耐えている。AIはいずれカルテ作成やスケジュール管理を自動化するかもしれないが、病院は若手を最前線に置き続ける。なぜなら、これらの経験がストレス下での臨床的直感と共感を育むからだ。ジャーナリズムでは、AIが記事の草稿を作成できるが、若手の記者たちは依然として退屈な地域の会議を取材したり、成果が出る可能性の低い情報を追いかけたりする。粘り強さやインタビューのスキルは実践を通じてのみ得られるからだ。

 同様に重要なのは、レジリエンスと粘り強さ(grit)の価値を再発見することだ。機械がすべての障害を取り除いてしまうと、仕事はあまりにも簡単になり、学習を意味のあるものにするための挑戦がなくなってしまう。筆者の一人(エイミー)が失敗に関する研究で主張したように、進歩は「知的な失敗」から生まれる。これは、困難で不確実な課題に取り組む際に起こる、誤った出発点、つまずき、そして失望の経験だ。エントリーレベルの職種は、よりリスクの低い環境で試行、失敗、再試行を行うための安全な環境を提供しており、適応力と自信を持ったプロフェッショナルを育てるために不可欠なのだ。

 教育を例に考えてみよう。学生がすべてのエッセイを生成AIに任せてしまえば、深い学習を生み出す知的努力を回避することになる。それはアイデアを電子レンジにかけるようなものだ。速くて便利だが、満足感はない。自分自身で考える努力や苦痛こそが、学生の能力を成長させる。これは仕事にも当てはまる。もし初期の仕事から成長に伴う負荷や不快感を取り除いてしまえば、将来のリーダーから、リーダーシップの役割における挑戦と困難に耐えることを可能にする形成的な成長機会を奪うことになる。

組織を超えた社会的な変化

 約100年前ジョン・メイナード・ケインズは、技術進歩によって、2030年までに週の労働時間が15時間になると予測した。彼の予測が正しかったと証明する日が来るかもしれないが、今日でも人々は(驚いたことに)週4日勤務でさえ短すぎると議論している。週4日勤務の利点(生産性、ウェルビーイング、定着率)に関する証拠は確固たるものがあるが、組織の規範(およびマインドセット)はそれに追いついていない。

 AIはリセットする機会をもたらす。まるで時給で働く機械であるかのように、すべての労働者から最大限の「利益」を搾り取るのではなく、組織は価値をより包括的に再定義できる。すなわち、成果の質、文化への貢献、そしてイノベーション能力だ。そのためには、単に労働時間を減らすだけでなく、より賢明で質の高い仕事が必要であり、この変革はエントリーレベルの職種を基盤として始めなければならない。

 エントリーレベルの職種を自動化でなくそうという本能的な衝動は理解できるが、それは近視眼的だ。それらは、排除されるべき非効率性ではない。リーダーシップ、イノベーション、文化、そして社会そのものの未来への投資である。AIが仕事を変革する中で、私たちの課題は人間の関与を最小限に抑えることではなく、その価値を最大限に高めることだ。そして、それはエントリーレベルの職種を保護し、再設計し、その尊厳を回復することから始まる。

 なお、この課題の一端(そして教授たちがAIによる地殻変動に合わせて授業内容を大きく変更していない理由の一端)は、誰もこれがどうなるかをわかっていないということだ。高等教育の究極の目的が、人々を社会の有能な貢献者として準備させることならば、明日の世界が必要とするものを映す水晶玉がなければ、それを実行するのは非常に困難だ。今日の学習内容はすぐに陳腐化するかもしれないが、将来を生き抜くために人々が必要とする努力、自己規律、システム思考といった習慣は、今日教えられている学習内容を凌駕する。

 これは企業にも当てはまる。組織は、5年後や10年後にどのような役割、スキル、ビジネスモデルが成功を定義するかについて不確かなまま運営されている。私たちが備えている未来について、完全に正しく理解している人は誰もいない。だからこそ、この古い格言がかつてないほど強く心に響く。「未来を予測する最良の方法は、未来を創造することである」

 そして、それこそが私たちの目の前にある責務だ。エントリーレベルの職種を守ることは、伝統を守ることではない。それは、仕事が成長とレジリエンス、人間がともに成し遂げる場所であり続ける未来を積極的に形作ることだ。私たちが想像力と勇気をもってこの瞬間を捉えれば、AI時代は機会の終焉ではなく、より賢明かつ公平で、充実した仕事の世界の始まりとなる。


"The Perils of Using AI to Replace Entry-Level Jobs," HBR.org, September 16, 2025.