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AIプロジェクトの成否を分けるもの
2025年8月に発表されたマサチューセッツ工科大学(MIT)のレポートによると、AIプロジェクトの実に95%が利益を生んでいないという。
この調査結果を受けて解説者の大半は、なぜこれほど多くの取り組みが失敗するのかを説明することに主眼を置いた。たとえばNSEAD教授のネイサン・ファーとアンドリュー・シピロフは先頃『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の記事で、「実験の落とし穴」の非常に現実的な危険性について強調している。すなわち、試験運用(パイロット)が顧客価値に結びつかない、もしくは実験環境を超えてスケール化されないという問題だ。
しかし筆者らはMITの調査結果を見た後、ある別の疑問に興味を抱いた。成功している5%は何が違うのだろうか。
答えを探るために、筆者らはフォーチュン50に属する企業、プライベートエクイティの投資先企業および非営利組織を横断して数十人の幹部らにインタビューを実施した。ほとんどの組織は似たような技術とデータにアクセスできることが判明しているため、それらが違いの理由にはなりえない。より優れたモデルや卓越した技術人材へのアクセスも、理由ではない。リソースが限られた企業でも、引く手あまたの専門人材を擁する企業をしのぐ場合があるからだ。
インタビューを進める過程で、差別化要因はリーダーシップであることがわかってきた。
53人の上級リーダーに対し、AIから利益を得るための最も重要な要因を順位づけるよう求めたところ、この結果が裏づけられた。AIのROI(投資利益率)を最大化する要因として、リーダーの47%がリーダーシップの有効性を1位に選んだ。これは他のすべての選択肢、たとえばワークフローへの統合(15%)や組織文化(11%)、エンジニア人材(8%)などよりも格段に多い。ただしインタビュー対象者の中で、5%の成功枠に入るための適切なリーダーが自社にいると考えている人は半分にも満たなかった。
本稿では、筆者らが調査および顧客との協働を通じて得た学びをもとに、企業がAIの取り組みで成功する要因について論じ、勝者とその他を分ける一連の具体的なリーダーシップ行動を特定する。
アーキテクトとシェイパー
幹部はAIリーダーについて考える時、筆者らの言う「アーキテクト」(設計者)を最初に思い浮かべることが多い。つまり、モデルを構築し、アルゴリズムを改善し、AIの取り組みの推進に必要なインフラを立ち上げる技術者である。こうした人材の市場は昨今、かつてない水準にまで高騰しており、トップクラスの人材はNBA(全米バスケットボール協会)選手並みの給与を得ている。
しかし、エンタープライズAIの成否をスター技術者に委ねるのは、高くつくうえに不十分だ。アーキテクトは不可欠だが、AIで成功している5%の企業は必ずしも最高の技術陣を擁しているわけではない。中核的戦略に沿った形で自社の技術人材を増強する組織能力を築いた企業が、成功しているのだ。
では、それをどのように実現したのか。成功企業は、技術的可能性を価値に変換できるビジネスリーダーが必要であることに気づいた。具体的には、AIをワークフローと戦略に組み込み、組織全体に信頼を築き、導入を大規模に推進するリーダーである。筆者らはこのような人材をAIの「シェイパー」(形成者)と呼ぶ。






