あなたの会社はCHROとCTOの役割を統合すべきか
HBR Staff; The Good Brigade/Getty Images; Unsplash
サマリー:AIの価値創造には従業員や人材に関する考え方の変革が不可欠であり、HRとテクノロジー部門の在り方が問われている。モデルナのように両部門を統合し、一人のリーダーの下に組織を据えるという企業も現れたが、それが... もっと見る唯一の最適解とは限らない。企業はAI時代に即した新しいアプローチを模索しなければならない。本稿では、HRとテクノロジーのあるべき関係について、3人の専門家による、必ずしも一致しない多様な見解を紹介する。 閉じる

専門家に聞くHRとテクノロジー部門を統合させる意義

 この数年間、企業は新しいAIツールとシステムへの期待から、あらゆることについて問い直すようになった。だが、こうした新しいツールで真の価値を創造する方法を見つけることは、けっして容易でないとわかってきた。生産性向上やプロセス変革への過度な期待とは裏腹に、投資や実験は実を結ばなかった。いら立ちを覚えた多くのリーダーは、似たような結論にたどりついた。AIから価値を引き出すためには、従業員や人材についての考え方を変える必要がある、と。だが、どのように変えるのか。ここから話は複雑になる。

 モデルナをはじめとするいくつかの企業が選んだ解決策は、一人のリーダーの下にテクノロジーとHRの部門を統合させることだった。その考え方は、まったく異なる2つの分野の人々に連携させようとするものではなく、両者の仕事を再検討し、AI時代に即した新しいアプローチをつくり出すというものだ。

 だが、統合だけが唯一の答えではない。あなたの会社にとっては、これが最適解ではない可能性も十分にある。テクノロジーとHRのあるべき関係や、リーダーが今後の道筋を立てるうえで問うべき問題について理解を深めるために、『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)では、3人の専門家から話を聞いた(ネタバレになるが、企業がいますぐ取り組むべきことについて、3人の主張は一致する点と同じくらい相違点もあった)。本稿では、以下にそれぞれの見解を紹介する。

HRとテクノロジーの部門は統合すべきではない。ともにリーダーシップを発揮すべき

 キース・フェラッジは、ロサンゼルスを本拠とし、チームを対象とするコンサルティングおよびコーチングを手がけるグローバル企業、フェラッジ・グリーンライトの会長兼創業者である。共著書にCompeting in the New World of Work(未訳)がある。

 今春の初頭、モデルナはデジタルと人事のリーダーシップを統合して、一つの最高経営幹部の役職にすることを決定した。それはAIと自動化の波の中で仕事の設計を再考する態勢に入ったというシグナルだった。モデルナはこの取り組みの中で、多くの企業がいままさに直面している問題、つまり技術革新と人材の定着率の間にある根強い断絶を認識した。だが、組織図を統合したからといって、生産性の向上や市場投入までにかかる時間の短縮、従業員体験と顧客体験の向上など、事業成果の向上をもたらす変革が保証されるわけではない。企業がいますぐすべきことは、共通のパーパス、信頼、スピード感を伴う、共同による機能横断的なリーダーシップのあり方をリーダーに教育することだ。

 私のチームは、フォーチュン500や急成長中のスタートアップを対象に企業変革の仕事をしてきたが、その一環として、さまざまな業界のAIトランスフォーメーションの飛躍的な成功と失敗について研究も行ってきた。その中で、AI統合の試みの成否は「チームシップ」への関わりにかかっていることに気づいた。チームシップとは、率直さ、信頼、共同の責任を基盤に、ともにリードし、目標を追求しながら互いに高め合う姿勢だ。

 たとえば、購買のリーダーが単独で、AIを活用したサプライチェーンを再設計しようとしても、たいてい失敗する。だが、販売予測、購買、製造、財務の各部門が協働して同じタスクに取り組めば、何十億ドルもの成長を推進し、大規模なコスト削減を実行できる。要するに、相互依存の関係から価値を創造できるかどうかが分かれ目なのだ。

 チームシップは、リーダーが縦割り構造にとらわれることをやめ、ともに価値を創造し始める時に生まれる。たとえば、米国のアパレル大手ギャップの最高人事責任者(CHRO)のエイミー・トンプソンと最高技術責任者(CTO)のスヴェン・ガージェッツは、チームシップのあり方を示す素晴らしいモデルだ。私が彼らの仕事を知ったのは、ギャップの従業員に基調講演をした後だった。