AIの導入は組織のサイロ化を加速させる
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サマリー:AIは生産性を向上させる半面、組織のサイロ化を加速させる危険をはらんでいる。部門が「テクノロジーファースト」でAIを導入すると、ツール間の重複や矛盾が生じ、部門最適に陥るからだ。その結果、顧客満足度のよう... もっと見るな全社的な目標を達成できなくなるおそれがある。本稿では、こうしたAIによるサイロ化の影響を分析し、「ハブ・アンド・スポーク」モデルの構築や、共通のパーパスから始めるアプローチなどの対策を提案する。 閉じる

AIによってサイロ化が加速している

 世界中の企業の取締役会やチームミーティングにおいて、AIの存在感が高まっている。リーダーたちは、AIがオペレーションを効率化し、意思決定の質を高め、生産性を飛躍的に向上させると聞かされている。しかし、多くの組織がAIのメリットを得ている一方で、目立たないもう一つのトレンドが生まれている。AIは組織のサイロ化という、企業が長年苦しんできた問題を悪化させているのだ。AIによって各部門がそれぞれの世界に閉じこもるようになれば、パフォーマンスにマイナスの影響が生じるおそれがある。各部門のオペレーションは改善しても、組織全体としては企業戦略の成果を挙げられなくなる。

 本稿では、筆者らが調査・助言してきた企業の事例をもとに、AIが部門中心で導入された時のパフォーマンスへの影響を分析し、対策を提案する(守秘義務により、登場する企業はすべて仮名とした)。

影響1:「テクノロジーファースト」の罠

 部門責任者は、とにかくAIを導入して、それからAIを使って解決する課題を特定しようとすることが実に多い。AIツールは既存の枠に収まらないため、相互運用が極めて難しく、たいていのチームは自分たちのパフォーマンス以外に目を向けるべき理由がない。ベンダーもAIツールを各部門専用のソリューションとして売り込むため、いちだんと孤立化が進む。

 部門内でのみ機能するAIツールは、現代の企業が直面する最も差し迫った課題(顧客体験や持続可能性、イノベーションなど)に対処しにくい。必要なのは、複数の部門にまたがるインサイトと行動だ。

 オーストラリアのメーカー「エマコム」(仮名)を例に考えてみよう。同社のIT部門は、AIを使った予知保全を導入していたが、サプライチェーン部門は別のAIツールで需要予測をしていた。また、営業部門は顧客対応にAIを使い、人事部門は履歴書のスクリーニングにAIを使うといったように、各部門が独自にAIを活用していた。

 このようなサイロ化したAI導入は、エマコムにとって最大の課題である遅延の解消にはつながらなかった。各部門の効率改善をもたらしても、保守、サプライチェーン、営業、人員計画の連携を要する問題は解決できなかった。

解決方法:「ハブ・アンド・スポーク」モデルの構築

 AI中核研究拠点(CoE:センター・オブ・エクセレンス)を設置して、統合的なガバナンスと分散した実行のバランスを取ろう。CoEは、組織内のトップクラスのAI専門家、戦略リーダー、共通リソースが集まるハブとして機能する。その目的は、ガバナンスやベストプラクティス、そしてAI能力を拡張する共有インフラを提供して、すべてのAIイニシアティブを会社の目標と一致させることだ。一方、各事業部門に置かれたAIチームは、実行部隊であるスポークの役割を果たす。それらがCoEのリソースと基準を活用して、深い専門知識を当てはめ、ビジネス上の具体的な課題を迅速に解決する。

 オーストラリアのバサースト保険(仮名)を例に考えてみよう。同社のAI CoEは中核的なハブの役割を果たし、営業と引き受け業務を統合する機会を特定した。するとスポーク、すなわち営業部門と引き受け部門のAIチームが、CoEの共通プラットフォームとガバナンスの枠組み、そしてリソースを活用して、リアルタイムで保険契約を事前承認し、即座に営業チームと共有するAIモデルを構築した。

影響2:重複と矛盾

 同じような問題を解決するのに、部門によって異なるデータセットやモデルを使用しているため、矛盾する結果が生じることがよくある。これは非効率であるだけでなく、統一的なビジネス戦略を直接脅かすことになる。