社内のイノベーションを活発にする3つのアプローチ
Illustration by Andy Goodman
サマリー:企業のイノベーション停滞の真因は、アイデアの欠如にあると考えられがちだ。しかし実際は、多くの組織が埋もれた従業員の知見を活用できずにいるだけである。社内のニーズと解決策を結びつける「アイデア・マーケッ... もっと見るトプレース」を正しく機能させれば、イノベーションは加速する。本稿では、大規模な調査に基づき、アイデアの共有と実行を阻む構造的な要因を分析し、プロセス、組織、文化の3つの側面から、社内の潜在能力を競争優位に変える具体的な処方箋を提示する。 閉じる

新しいアイデアがイノベーションにつながらない理由

 イノベーションを求める圧力が高まる中、多くの企業にとって新しいアイデアを形にすることは、これまで以上に困難でコストのかかる課題になっている。こうした停滞の原因としてよく挙げられるのが、R&D費の上昇、開発期間の長期化、市場の不確実性などだ。しかし、筆者らの調査は異なる事実を示している。多くの組織は、すでに必要なアイデアを持っているのだ。真の課題は、それらのアイデアを掘り起こして結びつける仕組み、すなわち「アイデア・マーケットプレース」が、適切に機能していないことにある。

 筆者らがこの問題を最初に明らかにしたのは、8年にわたり行ってきたイントラプレナーシップ(社内起業)に関する研究である。調査では、組織内で新しい製品やサービス、新規事業の立ち上げや推進を担ってきた従業員、すなわち社内イノベーター150人以上と、さまざまな業界の戦略リーダー約100人に話を聞いた。そして、従業員がビジネスの課題について革新的な解決策を持っていても、上層部の意思決定者の目にとまらない要因が複数あることがわかった。

 この事実から、より本質的な疑問が浮かび上がった。企業はイノベーションを求めていると言うのにもかかわらず、なぜ有望なアイデアを持つ従業員が前進することはこれほど難しいのか。こうした障壁は、単にリーダーが注意を払っていないことによるのか。それとも多くの企業が当たり前として受け入れてきた、より根深い構造的な非効率が生み出す問題なのだろうか。

調査結果から学んだこと

 これらの答えを探るために、組織がアイデアを共有して実行に移すシステムに注目して新たな調査を実施した。この調査では、複雑な組織構造と意思決定プロセスを持つ大規模な多国籍企業の最高イノベーション責任者(CIO)25人に、自由回答形式のインタビューを行った。対象にはマイクロソフト、レゴ、コカ・コーラ、シスコシステムズなど大手企業の他に、世界保健機関(WHO)や赤十字などの国際機関も含まれている。また、企業系ベンチャーキャピタルプログラムのリーダー35人にもインタビューと調査を行った。

 彼らには次のような質問を投げかけた。

・自社は、ニーズと解決策をうまく結びつけていると感じるか。
・それを改善するために、現在どのような取り組みを行っているか、あるいはこれまでどのようなことを試みたか。
・有望なニーズを見出し、それを組織内で広く周知した際に、すでに有望な解決策が存在しているケースはどのくらいの頻度であるか。

 リーダーが口を揃えて認めたのは、社内のチームに課題を探求する時間や裁量を与えた場合、約70%の確率で解決策がすでに存在しているということだ。それは過重な業務を抱えるエンジニアのコードの中に、コールセンター担当者の断片的なアイデアの中に、あるいは活用されていない技術データベースの中に埋もれている。それにもかかわらず、従業員が共有するアイデアのうち正式に検討されるのは、10%程度だろうという。

 こうした結果をもとに、筆者らは「アイデア・マーケットプレース」という概念を使って考察した。アイデア・マーケットプレースとは、組織内で新たなニーズを掘り起こす人と、その解決策を持っている人を結びつける公式・非公式の仕組みを指す。理論上は、こうした仕組みがイノベーションを加速させるはずだ。しかし現実には、その仕組みが形骸化しているか、そもそも存在しないとリーダーたちは語っている。

 職種を問わず250人の従業員を対象に実施した追加調査でも、この点が裏づけられた。回答者は1年間に平均75件のアイデアを創出しているが、そのうち社内で共有するのは30%未満で、回答者の70%が阻害する要因として企業文化を挙げた。

見過ごせないリスク

 強固で効率的なアイデア・マーケットプレースがない企業は、明らかに不利な立場に置かれる。ニーズを顕在化させ、それを潜在的な解決策と結びつける体系的な仕組みがなければ、多くの組織は、より成功している競合他社のイノベーションを模倣するか、既存のものを「再発明」することに無駄な資金を費やすことになる。こうしたパターンは成長の減速を招き、財務パフォーマンスを損なう。