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上級幹部になると、中間管理職の時にあった支援がなくなる
見事にトップの座を手に入れた人たち──SVP(シニアバイスプレジデント)であれ、EVP(エグゼクティブバイスプレジデント)であれ、Cレベルの幹部であれ、上級幹部のポストに上り詰めた人へのイメージは明白だ。彼らは専門領域を極めた達人であり、もはやサポートを必要としない一人前のリーダーである。
しかし、そこに上級幹部をめぐる逆説がある。山の頂上に近づくほど、支援という「空気」が薄くなるのだ。
中間管理職には、体系的なオンボーディングプログラム、上司との頻繁な関わりや1on1ミーティング、その上の上司との1on1ミーティング、正式なメンタリングなどが提供されることが多い。一方、上級幹部の場合、新しい役職に就いたり、新しい組織に着任しても、待ち受けるのは静寂の世界だ。育成され、評価される対象から、基本的に自分一人で行動し、慣れない環境でも完璧に業務を遂行するよう期待される立場に変わる。彼らは、ビジョンを示し、他者を導き、早期かつ継続的に成果を出すことが求められる存在なのである。
エグゼクティブコーチングを提供してきた筆者の経験からいえば、この「見えない断絶」は、今日の組織において最も認識されにくいリスクの一つだ。しかも、彼らへの支援が欠如すれば、組織の方向性を決めるべき立場の人々のパフォーマンスやメンタルヘルスに多大な影響が生じる。
本稿では、そうした事態が生じる理由、さらに、就任したばかりの幹部──そして組織全体──を成功に導くために、HR部門のリーダーや組織の最上級幹部がすべきことを紹介する。
なぜ上級幹部は必要な支援を得られないのか
最もリスクの高い層であるにもかかわらず、組織が最上位層の幹部の能力開発への投資をやめてしまうのは、直観に反するように思える。SVPやそれ以上の幹部は、新たな権限を手にし、責任範囲が広がり、かつてないほどの注目を浴びる環境を、セーフティネットなしで進まなくてはならない。筆者の観察によれば、「上級幹部には若手のような育成は必要ない」と組織が考える理由はいくつかある。
・熟達という神話:SVP以上の幹部は「頂上に到達した人」と見なされており、頂点を極めたのだから「自分のすべきことを完璧にわかっている」と思われている。
・プログラムの優先順位:企業はリーダー育成のパイプラインであり、離職率がより高いディレクター層やVP(バイスプレジデント)層にリソースを集中させる。
・ストイックさを重んじる文化:幹部は登用に当たって自力で問題を解決することを期待されるため、不確実性を認めることは弱さの表れと見なされる。
・需要の欠如:上級幹部自身も自分は答えを知っていると思っており、能力開発やサポートを求めない。






