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特定の人に仕事が集中することの弊害
チーム会議の後、筆者のクライアントは鋭い指摘をした。私立の研究大学でシニアエグゼクティブを務めるマリアンは、上司と目が合っただけで新しい仕事が舞い込んでくると冗談を言った。しかし、そのユーモアの裏には、切実な不満があった。彼女の上司は、他の同僚が能力不足だからではなく、マリアンが仕事をやり遂げることで知られているために、彼女ばかりに仕事を与えていたのだ。この信頼性の高さが、いまや彼女をバーンアウト(燃え尽き症候群)へと追い詰めていた。
マリアンのような状況をエグゼクティブチームにおいて目にすることが増えている。多くの組織がレイオフや予算削減を進めているが、従業員に対する期待値は下がっていない。シニアリーダーは、人員やリソースが削減された中で、依然として野心的な目標達成を求められている。追加の仕事が発生し、担当者が明確でない場合、上司は最も頼りにできるリーダーに任せることが多い。
筆者はこの現象を、仕事の「マグネット効果」と呼んでいる。パフォーマンスの高いチームメンバーが、仕事を極めて優秀にこなすことで、意図せず追加の仕事を引き寄せてしまう状況だ。マリアンの事例がそうだったように、この問題はプロジェクトの過負荷を引き起こし、リーダーの戦略的な集中力を低下させ、結果として彼らの全体的な有効性を損なう可能性がある。
仕事の「マグネット効果」への対処法
もしあなたがそうした信頼できるリーダーで、このマグネット効果が自身に起きていると思うのであれば、対処する方法がある。その第一歩は、この問題を引き起こしている要因を特定することだ。この課題に直面するリーダーとの協働を通じ、筆者はその要因が個人の強みと組織の弱点の組み合わせであることを発見した。
個人の強み:
・仕事の質:確かな実績があり、優秀な成果を出している。
・コミュニケーション:上司や他のリーダーと強固で信頼に基づく関係を築いている。
・献身性:最後までやり遂げ、納期が厳しい状況でも引き受ける。
組織の弱点:
・可視性の欠如:上司や同僚があなたの仕事量を正確に把握していない。
・委任の欠如:上司が新しいタスクを委任するための明確なプロセスを持っていない。
・認識の欠如:プロジェクトの担当が偏っていることに上司が気づいていない。
マリアンの場合、これらの複合的な要因が問題を悪化させていたことが明らかになり、私たちはこれらの要因をいかに変化させられるかを探った。単にプロジェクトを人に任せるだけではなく、上司やエグゼクティブの同僚を巻き込み、より戦略的なアプローチをともにつくり上げることを目指した。
その具体的な方法と、読者が実践できる対処法を以下に解説する。
1. 過剰に引き受けずに優先順位のつけ方を学ぶ
マグネット効果は、キャパシティの問題によって悪化することが多い。仕事を分担できる人員が不足している状況では、業務量の可視性、委任、認識の欠如といった組織の弱点がより顕著になる。人員不足の問題を一夜で解決することはできないが、自分の時間の配分についてより賢明な選択をすることはできる。
新しいプロジェクトを任されたら、それを組織のより広範な目標と照らし合わせて検討すべきだ。そのうえで、他の職務と比較して、そのプロジェクトをどのように優先すべきかを上司に提案する。受け身で追加の仕事を引き受けるのではなく、率先して今後の進め方を提言し、自分の取り組みが最も大きなインパクトをもたらす領域に一貫して焦点を合わせるようにするのだ。
たとえば、上司が短期間のうちに、次回の取締役会の資料の準備と会社の財務予測の更新という2つの成果物を依頼してきたとする。組織の短期的な目標やリーダーシップのニーズに最も合致するのはどちらか、また延期しても問題ないのはどちらかを検討する。このケースでは、取締役会は期限が定められており、注目度が高く、リーダーシップの意思決定を形成するうえで極めて重要なため、その資料の準備のほうが緊急性が高いと判断できる。
次のように述べることができる。「次の取締役会には時間的制約があり、新たな資料を作成する必要があることを考慮し、今週はプレゼン準備を終えることに集中するつもりです。そのため、財務予測の完成は翌週となります。この優先順位を変更したほうがよければ、ご意見をいただきたいです」
この伝え方は、不満を述べたり自己弁護的になったりすることなく、自身の優先順位を明らかにし、自分の時間の使い方について上司に確認ができている。
2. 責任の所在を明確にし、部門横断的に協働する
組織の中で階層が上がるにつれて、プロジェクトが単一の部門内に限定される可能性は低くなり、複数のチームや部門にまたがる傾向が強くなる。部門や専門分野を横断してリードする方法を学ばなければならないということだ。しかし、「横断してリードする」ことは、すべてを自分で引き受けるという意味ではない。特にプロジェクトをより効果的に主導できる専門知識を持つ人が他にいる場合は、適切な人材を集め、責任の所在を明確にすることが重要だ。
自分の職務範囲や能力を超えた仕事を割り当てられた場合、別の方法を提案することができる。たとえば、そのプロジェクトをリードするのにより適した人物を推薦する、あるいは別のシニアエグゼクティブに共同でリードするよう依頼してもよい。これは、責任を分担するためのバランスの取れた方法を示す模範となり、トップダウンによる委任の問題を解決するのに役立つ。
たとえば、全社的な価格設定の監督を依頼されたとする。あなたの専門知識はオペレーションや財務についてだが、その仕事の大部分は顧客調査や市場トレンドに依存している。その場合、消費者行動やブランド戦略に関する知見を持つ最高マーケティング責任者(CMO)に共同でリードしてもらうよう依頼することができる。
次のように述べることができる。「この取り組みは私たちの両部門にまたがっており、互いの専門知識を共有することで、より優れた成果が得られると確信しています。この戦略を共同で担当していただけますか」
部門を横断した協働は、シニアエグゼクティブの同僚の直属のチームメンバーも関与する可能性がある。ただし、他部門のチームにプロジェクトの担当を依頼する際には、慎重な配慮が必要だ。他のリーダーのチームを直接指揮したり、自分が処理すべき仕事を割り当てたりして、越権行為をしてはいけない。重要なのは、そのチームの専門知識がその仕事に真に利益をもたらすようにすることであり、そのプロジェクトを、組織の優先事項を推進する方法であると同時に彼らの成長の機会として位置づけることだ。
任せたい仕事がこの基準に合致する場合、他のリーダーに次のようにアプローチすることができる。「これは会社にとって重要なプロジェクトだと考えています。[チームメンバーの名前]の注目度を高めることについて議論してきましたが、これは彼の能力開発において貴重な一歩となります。私たちのチームが求める方法で完了できるよう、私が彼の管理面であなたをサポートします」
3. キャパシティの問題について戦略的な議論を行う
期限を変更したり、責任を共有したりすることができない時もある。プロジェクトの日程が変更不可能であるとか、同僚がすでに最大限のキャパシティに達しているといった場合だ。こうしたケースでは、自分のキャパシティと集中力を犠牲にして、黙って追加の仕事を引き受けてしまう誘惑に抵抗しなければならない。エグゼクティブレベルでは、あなたの業務量は自分だけでなく組織の成果にも影響を及ぼし、あなたの負担が大きすぎることがチームに波及するおそれがある。それを防ぐためには、問題に正面から取り組む必要がある。
上司と率直な話し合いの場を設けるべきだ。この対話は、仕事に対して「ノー」ということではなく、明確な解決策がない場合に期待値を明確化するためのものである。最終的に、スケジュールの調整や担当者の変更という結果になるかもしれないが、ともに実現できる戦略的なトレードオフを定義するという目的を持って話し合いをしなければならない。同僚として、好奇心を持って議論に臨むことが重要だ。
個人的な話し合いの場で、次のように述べるとよいだろう。「ここ数週間で、優先度の高いプロジェクトを複数任せていただいています。信頼していただいていることに感謝していますし、引き続き最大のインパクトを生む領域に力をそそぎたいと考えています。同時に、新たに割り当てられる仕事のペースと量が、私の能力の限界まで達しており、持続可能ではないと考えています。どのプロジェクトが組織の目標にとって最も重要か、私が時間と意識をどこに最もそそぐべきかを明確にしたいです」
根本的な問題がリソースにあることが明らかになった場合、議論の幅を広げるのが適切だ。自身の限界について学んだことを活かし、より大きなパターンを明確にし、解決策を提案することができる。「現在、人員不足であることは承知しており、この不足を埋めるために尽力します。各チームの既存のプロジェクトと期限を見直し、互いに支援し合いながら能力を評価し、今四半期の最も重要な業務にリソースを再配分することを提案します」
4.「頼れる人」であることとの向き合い方を再定義する
仕事の割り当てを管理し、期待値を設定することは、この問題の半分にすぎない。もう半分は、自分の行動がどのように「マグネット効果」を強めているかを分析することだ。そのため、「頼れる人」であることに自分がどう向き合っているか、時間をかけて内省することが大切である。
皆に頼りにされるリーダーであることは、自己肯定感につながり、賛辞のように感じられることさえある。しかし、あなたの信頼性を支える本能が、エゴを肥大化させる可能性もある。自分の価値が「不可欠な存在」であることと結びつくと、常に業務に関与している状態を、影響力があることだと誤解しやすい。あなたが「イエス」と答える理由は、目標達成のためなのか、それとも自己価値を再確認するためなのかを見極めるべきだ。
自身の役割、成長、あるいは組織の優先事項と合致するかどうかを考慮せずに新しいプロジェクトを引き受けているなら、あなたは自身を停滞させているパターンを強化している可能性がある。その時は信頼されていると感じて気分がよいかもしれないが、長期的には「頼れる人」であり続けることは、組織内で昇進する能力を低下させる。
プロジェクトの実行に終始していると、戦略的なリーダーとして見なされにくい。物事を実現するためにエネルギーを使いすぎると、強力なビジョンを生み出し、影響力を構築し、チームを指導するための余裕が失われてしまう。
あなたの役割は、適切な仕事が、適切な人によって実行されることであると忘れてはならない。自分の能力を守ることは、自分自身を支えるだけでなく、組織内における強力なリーダーシップの基準を設定する。優先順位、役割、および期待値を明確にすることで、自身の勢いを犠牲にすることなく組織の勢いを維持するという最も重要なことにエネルギーをそそぐことができる。
"When You're the Executive Everyone Relies On - and You're Burning Out," HBR.org, October 09, 2025.






