マネジャーに公平な採用判断を促す行動科学的アプローチ
Illustration by Jason Schneider
サマリー:政治的な反発を受け、多くの企業がDEIプログラムを縮小する動きを見せる中でも、最適な人材を採用することの重要性は変わらない。最新の研究では、採用直前に短い研修動画を視聴させるという簡単な工夫が、採用における公平性と多様性を高める効果を持つことが示された。本稿では、行動科学的アプローチがどのように無意識のバイアスを抑え、公正で多様な採用を実現するかを探る。

公平な採用を実現するには

 現在の風潮では、多様性、公平性、包摂性を促進する手段として、コストのかかる形式的なプログラム(研修など)は支持を失いつつある。実際、既存の研究の大半は、そうした研修が行動変容や、企業が誰を採用するかという結果に目に見える成果が出ていないことを示している。しかし、可能な限り広範な人材プールを活用し、最適な人材を適切な職務にタイミングよく採用するという企業のニーズは変わっていない。そのため、採用の質と公平性を継続的に向上させる、効果的でハードルの低い方法はないものかとリーダーたちは頭を悩ませている。

 この問いに答えるため、筆者らは、多国籍企業2社と共同調査を実施した。行動科学に基づくある新たなアプローチに、採用における公平性を向上させる効果があるかどうかを検証したのである。そのアプローチとは、採用担当者が候補者の履歴書を審査し、面接対象者を決定する直前に、ある目的とタイミングに特化した短い動画を視聴する、というものである。2社とも、既存の採用プロセスにこのわずかな変更を加えただけで、(女性が多い職場での男性の採用増加を含め)より多様な人材を見出し採用することが可能になった。

 リーダーや組織にとって、この調査結果は、採用およびそれ以外の今後の活動の方向性を示す、エビデンスに基づいたロードマップを提供する。持続性を最大化するには、エビデンスを無視した汎用的な研修に投資するのではなく、「効果が実証された手法」に基づいて公平性を組み込む必要がある。組織文化、つまり「ここでのやり方」を変えるためには、公平な競争環境へのコミットメントを強調することによって、公平さを当たり前のものにしなければならない。そして、その改善策が真の結果につながるよう、テストし効果を測定する必要がある。

動画の誘導効果の実地検証

 行動科学に基づく研修の初回テストは、世界的な通信技術企業で実施した。2022年の6カ月間、1万人以上の採用を担当する同社の管理職3000人超を無作為に2つのグループに分け、一方のグループには応募書類の審査と面接対象者の選考を行う前段階で短い研修動画を視聴させ、他方のグループには従来通りのプロセスを辿らせた。

 同社と共同制作したこの動画には、同社の3人の社員(うち2人は上級管理職)が、チームに不足している視点や特性を考慮し、候補者の能力に注目して審査するよう採用担当者に呼びかけている。「似た特性や経験を持つ人材ばかりを採用すると、重要な視点が欠落し、グループの思考力や意思決定力が損なわれます。考え方の多様性は強みです。チームと会社にその人ならではの貢献をする人材を採用してください」。また、採用判断と企業全体の文化や価値観とを結びつけ、影響の大きさや、組織としていかに「現在および今後の社会の多様性」を反映したいかを強調した。そして具体的に、「現在チーム内で過小評価されているバックグラウンドや経験、視点を持つ人材を迎える」よう求めた。

 重要なのは、この研修動画が、企業がふだん実施する研修とは大きく異なる点である。短く(7分)、特定の行動(候補者を絞り、最終的に採用者を選考する)とタイミング(担当者が決定する直前)に特化したものであった。これらはすべて、行動科学者である筆者らが先行研究に基づき、研修の効果を高めると推測した要素である。

 調査の結果は、最近『サイエンス』に掲載されたが、研修を受けた管理職は、受けていない管理職よりも、女性候補者を面接に進める確率が12%高かった。同様に、外国籍(求人の国とは異なる国籍)の応募者が面接対象者に選ばれる確率が13%、採用される確率が20%高かった。それまで採用率が最も低かった「外国籍の女性」では、最終選考に進む確率が28%、採用される確率が41%と最も大幅な増加が見られた。これらの影響はすべて統計的に有意である。行動設計に基づく研修は、実際に面接対象者ひいては企業へより多様な人材をもたらすという具体的な変化を起こしたのである。

第2の実験

 2024年秋、行動コンサルティング会社モアザンナウ(MoreThanNow)のチームは、これらの結果の再現性を確認するため、世界的な製薬企業と共同で第2の実験を実施した。同様の条件で、3700人以上の採用を行う2000人余の管理職を2つのグループに分け、一方には応募書類の審査前に3分の動画を視聴させ、もう一方には通常通りの採用を行わせた。この動画では、選考基準の具体的な変更を求めた。つまり、求人要項から候補者を不要に限定するような必須でない条件を削除し、求人広告の対象を広げ、異なるバックグラウンドや視点を持つ社員を審査に加わらせるよう求めた。さらに、「すべての応募者に公平に採用機会を保証すること」が組織の使命と全社のビジョン、さらには高業績を達成する鍵であることを強調した。「採用において多様性を促進することは、職場の包摂性を高めるだけでなく、チームおよび会社全体の成功を推進するのです」