リーダーが感情労働による疲弊から抜け出す方法
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サマリー:リーダーが感情を偽って振る舞う「表層演技」は、エネルギーを枯渇させ、疲労の悪循環を生み出す主因となる。研究によれば、このループは翌日の活力も奪うが、適切な休息と感情の再構築によって悪循環を断ち切れることがわかった。本稿では、表層演技がもたらす弊害のメカニズムを解明し、多忙なリーダーが日々の疲労から回復し、チームと有意義な関係を築くための、科学的根拠に基づく実践的な戦略を紹介する。

感情労働を「表層演技」で乗り切ろうとしていないか

 水曜日の午後。あなたはトラブルの火消しに追われ、延々と続くミーティングに出席し、厄介な人事問題に対処して、ようやく一日の半分が終わったところだ。

 さて、次はチームミーティングの時間。会社の新しい経費削減策を発表しなければならない。個人的には疑問もあるが、チームに会社の方針を伝えるのがあなたの仕事だ。感情的な余裕が乏しい中、新しい方針について質問が殺到すると、熱意があるような態度を装う程度のことしかできない。あなたの身の入らない発表は、チームを鼓舞することも、絆を生み出すこともない。木曜日の朝を迎えても、あなたはエネルギー不足の状態で走り出さなければならない。もはやガス欠状態のあなたは、いら立ちを隠し、必要に迫られればつくり笑顔を浮かべながら、同じような一日をどうにか乗り切ろうとする。

 こうした状況を聞いて「ああ、わかる」と思うのは、あなただけではない。すべてのリーダーは仕事をこなし続けるために、自分と周囲の感情を管理しなければならない(いわゆる感情労働だ)。だが、競合する優先課題がひしめく中、感情面での要求に慎重に対処するエネルギーを維持するのは難しい場合がある。

 従来の研究では、この種の労働に対処する方法は主に2つあることがわかっている。一つは、冒頭に紹介したマネジャーのように、感情を押し殺して、自分が見せるべき感情を装う「表層演技」。もう一つは「深層演技」と呼ばれるもので、自分の感情的な反応を再構築する作業を伴う。具体的には、自分がワクワクできる側面を探したり、会社の方針が恐怖や不安を引き起こす可能性を想像してチームの懸念に対処する準備をしたりといった行動が含まれる。

 深層演技のほうがよい結果をもたらすという事実は、おそらく驚きではないだろう。表層演技は、パフォーマンスの低下や仕事への満足度やウェルビーイングの低下、精神的な疲労、仕事とプライベートのバランスの悪化、そして仕事を辞めたいという願望の増加につながりやすい。しかし、経営幹部が厳しい要求をしてくる可能性を考えると、表層演技によってその日その日を乗り切ろうとするリーダーがいるのも理解できる。

 筆者らは最新の研究で、表層演技と深層演技の経時的なインパクトを探るとともに、表層演技に気づいて対処することにより、優れたリーダーさえも蝕む疲弊の悪循環を断ち切る方法を探った。本稿では、リーダーが前日の疲れから回復し、気持ちを入れ替え、チームと有意義なつながりをつくるための戦略を提供する。

研究

 表層演技と深層演技のインパクトを経時的に調べるために、従業員を10営業日にわたり調査した。まず、毎朝その日のエネルギーレベルを聞き、毎晩、その日職場でどのような感情労働戦略を取ったかを聞いた。

 その結果、一日の始まりのエネルギーレベルが低いと、感情労働に従事する時の選択肢が限定されることがわかった。一般的に、深層演技のほうがプラス効果は大きいが、自分の感情を積極的に調整する努力が必要になる。疲れ果てた状態で一日を始めると、深層演技に必要な努力を払うのが難しくなる。そして、表層演技によって感情労働に対処しようとする。

 だが、この選択はその日だけでなく、数日にわたり影響を及ぼす。表層演技は感情面での負担が大きいため、表層演技をした従業員は、翌朝、エネルギーレベルが低いと答えることが多かった。すると何が起きるのか。悪循環に陥るのである。表層演技によってエネルギーが消耗すると、翌朝も疲れ果てており、またも表層演技に走ることになる。つまり、つくり笑顔と、それに伴う疲労のループから抜け出せなくなるのだ。