生成AIを人間的なリーダーシップスキルの向上ツールとして活用する
HBR Staff; Anna Blazhuk/fatido/Getty Images
サマリー:信頼とエンゲージメントが過去最低水準にあるいま、企業はリーダーが気づく力、明確なコミュニケーション、思いやりといった人間的スキルを強化できるよう支援する必要がある。AIの導入は職場の変化に対する不確実性... もっと見るを生み出しているものの、同時に、リーダーがこうした人間的スキルを発揮するための大きな機会も提供している。本稿では、IBMがどのようにAIを業務効率化の手段に留めず、人間的リーダーシップを高めるためのツールとして活用しているのか、その取り組みを紹介する。 閉じる

生成AIの活用によって生まれた時間を何に使うべきか

 今日の企業におけるリーダーは、従業員エンゲージメントと経営陣への信頼をめぐる危機に直面している。ギャラップによると、米国の従業員エンゲージメントは2024年に31%まで下がり、過去10年間で最も低い水準となったうえに、仕事に意欲を持とうとしない人(actively disengaged)は17%に上った。2025年のエデルマン・トラスト・バロメーターでは、世界の従業員のうち、自分の雇用主は誠実に行動するはずだと信じている人は75%に留まり、前年から3ポイント下がっている。

 こうした傾向によってリーダーは、リーダーシップの人間的要素──気づく力、明確なコミュニケーション、思いやりなど──への注力の強化をますます迫られている。ところが、筆者らが300人以上のリーダーを対象に先頃実施した調査では(こちらで近日公開予定)、エンゲージメントの強化、信頼の醸成、高業績を上げるチームの構築を可能にするこの種の人間的資質を持つリーダーは、わずか16%に留まっていた。

 その影響は甚大だ。これらの資質のスコアが低いリーダーの下で働く従業員は、スコアが高いリーダーの下で働く場合に比べて経営陣に対する信頼が49%低く、組織へのコミットメントが39%低く、離職意向は59%高い。そして大きなメリットもある。優れた人間的リーダーシップの資質のスコアが高いリーダーは低いリーダーに比べ、従業員の信頼が97%高く、組織へのコミットメントが65%高く、離職意向が37%低い職場環境を享受している。

 筆者らは先進的企業との協働を通じて次のことに気づいた。たしかにAIの導入は、職場の破壊的変化をめぐる不確実性と不安を高め、エンゲージメントと信頼が低下する傾向の一因となっている。一方で、むしろAIを活用して、いまこそ切実に必要とされている人間的スキルをリーダーが発揮できるよう支援する大きなチャンスもある。組織のAI導入における焦点の大部分は技術に置かれているが、筆者らの経験では、職場で急激に進化しているAI環境は、組織の人間的リーダーシップを向上させる可能性を秘めているのだ。

 このアプローチを取り入れている企業の一つがIBMである。ご想像のように、IBMは効率と有効性を高めるために、リーダーにAIのシステムとツールを提供することを大いに重要視している。しかし同時に、AI導入の機会を利用して、リーダーシップの人間的側面にリーダーがより注力できるよう支援している。筆者らはIBMとの協働およびその他の企業で見てきたことを通じて、この新たなAI時代に成功を目指す企業に推奨したい3つのステップを特定した。

1. AIによる時短戦略を、人間的リーダーシップにあらためて焦点を当てる機会として再構成する。

2. 節約した時間をリーダーのソフトスキルの育成に充て、自社における「優れたリーダーシップ」とは何かを再定義する。

3. 生成AIを活用して自身の人間的リーダーシップを強化できるよう、リーダーを支援する。

 これらのステップが実際にどう機能するのかを、以下で説明しよう。

時短戦略を再構成する

 IBMの人事部における生成AIの一連の取り組みは、多くの組織と同じように、プロセスの簡略化から始まった。最初のターゲットの一つは昇進プロセスであった。