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生成AIの活用によって生まれた時間を何に使うべきか
今日の企業におけるリーダーは、従業員エンゲージメントと経営陣への信頼をめぐる危機に直面している。ギャラップによると、米国の従業員エンゲージメントは2024年に31%まで下がり、過去10年間で最も低い水準となったうえに、仕事に意欲を持とうとしない人(actively disengaged)は17%に上った。2025年のエデルマン・トラスト・バロメーターでは、世界の従業員のうち、自分の雇用主は誠実に行動するはずだと信じている人は75%に留まり、前年から3ポイント下がっている。
こうした傾向によってリーダーは、リーダーシップの人間的要素──気づく力、明確なコミュニケーション、思いやりなど──への注力の強化をますます迫られている。ところが、筆者らが300人以上のリーダーを対象に先頃実施した調査では(こちらで近日公開予定)、エンゲージメントの強化、信頼の醸成、高業績を上げるチームの構築を可能にするこの種の人間的資質を持つリーダーは、わずか16%に留まっていた。
その影響は甚大だ。これらの資質のスコアが低いリーダーの下で働く従業員は、スコアが高いリーダーの下で働く場合に比べて経営陣に対する信頼が49%低く、組織へのコミットメントが39%低く、離職意向は59%高い。そして大きなメリットもある。優れた人間的リーダーシップの資質のスコアが高いリーダーは低いリーダーに比べ、従業員の信頼が97%高く、組織へのコミットメントが65%高く、離職意向が37%低い職場環境を享受している。
筆者らは先進的企業との協働を通じて次のことに気づいた。たしかにAIの導入は、職場の破壊的変化をめぐる不確実性と不安を高め、エンゲージメントと信頼が低下する傾向の一因となっている。一方で、むしろAIを活用して、いまこそ切実に必要とされている人間的スキルをリーダーが発揮できるよう支援する大きなチャンスもある。組織のAI導入における焦点の大部分は技術に置かれているが、筆者らの経験では、職場で急激に進化しているAI環境は、組織の人間的リーダーシップを向上させる可能性を秘めているのだ。
このアプローチを取り入れている企業の一つがIBMである。ご想像のように、IBMは効率と有効性を高めるために、リーダーにAIのシステムとツールを提供することを大いに重要視している。しかし同時に、AI導入の機会を利用して、リーダーシップの人間的側面にリーダーがより注力できるよう支援している。筆者らはIBMとの協働およびその他の企業で見てきたことを通じて、この新たなAI時代に成功を目指す企業に推奨したい3つのステップを特定した。
1. AIによる時短戦略を、人間的リーダーシップにあらためて焦点を当てる機会として再構成する。
2. 節約した時間をリーダーのソフトスキルの育成に充て、自社における「優れたリーダーシップ」とは何かを再定義する。
3. 生成AIを活用して自身の人間的リーダーシップを強化できるよう、リーダーを支援する。
これらのステップが実際にどう機能するのかを、以下で説明しよう。
時短戦略を再構成する
IBMの人事部における生成AIの一連の取り組みは、多くの組織と同じように、プロセスの簡略化から始まった。最初のターゲットの一つは昇進プロセスであった。
多くの組織と同様に、これまでIBMのリーダーたちは従業員を昇進させるために、情報収集やフォームの記入、書類の提出に膨大な時間を費やしており、そのプロセスはあまりに官僚的で手間がかかると多くの人が感じていた。シニアバイスプレジデント兼最高人事責任者のニックル・ラモローと彼女のチームは、このプロセスをAIによる自動化の初期の候補に決めた。
しかし、自動化が始まる前の初期段階での話し合いで、リーダーの一人がこのプロジェクトの重要性に対する思いをラモローに説明した。「私がこれらの手続きに費やす時間はすべて、チームと一緒にいられない時間なのです」。この言葉が昇進プロセスの再設計におけるターニングポイントとなり、目標は単なる時間節約から、より有意義に時間を使うことへと変わった。
「私はリーダーたちに、データ入力をしてほしいのか」と、ラモローはこの変更を受け入れた理由を説明した。「それとも、なぜ昇進したのか、またはしなかったのか、能力開発における次のステップは何かについて、従業員と顔を向き合わせて話し合ってもらいたいのか」
人事部におけるAI導入の焦点は、単なる事務作業の削減ではなく、部下を導くための時間と機会をリーダーにより多くもたらすことへと変わった。たとえば現在、同社の「AskHR」と呼ばれるAIエージェントのおかげで、マネジャーは昇進関連の書類仕事や従業員を別のマネジャーの下に異動させる手続きなどの事務作業を、既存の人事システムよりも75%速く完了できる、とラモローはいう。新たに生まれた時間を部下への対応に充てるよう促すために、同社はリーダーへの新たな期待事項を設けるというラモローの計画を受け入れた。
ソフトスキルに焦点を当て直すために時間を使う
長年にわたり、リーダーシップにおけるソフトスキルの重要性については多くの議論がなされてきたものの、筆者らが多くの企業との協働を通じて観察してきたところ、この分野の研修は口先だけ賛同されて実行されないことが多い。しかし私たちは現在、リーダーであることの意味をめぐる大きな転換点を迎えている。AIが仕事の本質を変革する中、人間本来のスキルの重要性はいっそう高まっているのだ。したがって、企業はこの変化に対してリーダーを十分に備えさせるために、ソフトスキルの育成方法を具体的に改善する必要がある。
IBMは人間的スキルを中核的な期待事項に据え、全階層のリーダーをそれらに基づいて評価し、業績評価の議論に組み込んでいる。これは実際には、ビジネス成果を推進する能力、部下のスキルを育成する能力という評価尺度に加え、第3の期待事項として「リーダーシップ行動」が追加されたことを意味する。
このリーダーシップ行動は、人材、実行、戦略の3つを柱とする。第1の柱である人材の焦点は、テクノロジーによって拡張される未来で成功するために必要な人間的リーダーシップ能力の開発だ。これは真正性、勇気、共感を持って導く能力であり、価値観をみずから体現し、他者をエンパワーし、多様な意見が活発に生まれる一体感の強い文化を育むことを意味する。そのためには心からの配慮を通じて信頼を得ることが求められる。
AIで自動化され簡略化された人事プロセスの導入に伴い、ラモローとチームは浮いた時間の使い方をリーダーたちに明確に示した。人事チームは業績管理プロセスの時間を節約したリーダーに対し、昇進しなかった人との対話に浮いた時間を充て、今後の改善方法などについて話し合うよう促した。これらの対話に関するガイドラインは、節約された時間の活用と明確に結びつけられている。
これらすべてのリーダーシップ行動が重要であることを強調するために、2024年にはIBMの幹部の70%以上を対象に360度フィードバックが実施された。この取り組みの狙いは、今後の評価の基準を確立し、リーダーの自己認識を高め、人間中心のリーダーシップはIBMの将来を支える基盤であるという明確なメッセージを伝えることであった。
マネジャーに関しては、IBMは単なるタスク管理よりも人を導くことに重点が置かれるよう、すべての役割を再定義した。この活動に取り組むリーダーを支援するために、人事部は適切なタイミングで効果的なフィードバックを与えるなどの形で、人間的リーダーシップ能力を強化するためのツールキットとコーチングを提供した。また、個人とチームの優先事項を組織の中核目標と結びつけるための対話を、リーダーが定期的に実施できるよう支援するガイドラインとリソースも導入した。
IBMの特徴的な新任マネジャー研修もアップデートされ、AIを活用した難しい対話の練習や、フィードバックの提供に関する実践的ガイダンスが盛り込まれている。加えて、AIを活用する職場で効果的に舵取りし導けるよう支援するために、「生成AI時代のリーダーシップ」と題した新たなオンラインモジュールが全リーダー向けに公開されている。さらに、在職6~18カ月のマネジャー全員が、これらの具体的なリーダーシップ行動の実践に関するフィードバックを得るための360度評価を受ける。
360度評価とエンゲージメント調査の両方から得られるデータが、IBMのリーダーシップ開発戦略における継続的な情報源および改善手段として用いられる。
AIをリーダーシップのコーチとして活用できるようリーダーを支援する
筆者らはこの3年にわたりAIがリーダーシップに与える影響を調査する中で、人工知能は賢く使えば、逆説的にリーダーが「より人間的」になるための役に立つことを知り、驚かされてきた。
広く利用可能な生成AIシステムの多くは、人間の行動のあらゆる側面に関する知見を組み込んでプログラムされている。このため、リーダーが部下とよりよい関係を築くための貴重なリソースとして機能する。リーダーはコーチング、ロールプレー、困難な状況で推奨される言葉遣いなど、さまざまなことを生成AIに求めることができる。
ただし組織は、リーダーが人との関わりを自動化するためではなく、自身の存在価値を高めるためにAIを使うよう後押しすべきだ。筆者らの調査では、成功しているリーダーはAIでみずからのリーダーシップを補強することを目指す。ボットの言葉をただコピー・アンド・ペーストしたり真似たりするのではなく、ボットからの助言をもとに、部下が「自分に真剣に目がそそがれ、耳が傾けられ、価値を認められている」と実感できるようにしている。
ツールに過度に依存せず、自身の人間的貢献を減じない形で活用する方法をリーダーが理解できるよう、組織はガイドラインを確立すべきである。
IBMはリーダーに対し、難しい対話に向けて準備をしたり、自身の強化すべき部分や潜在的バイアスを検討したりするためのコーチとしてAIを活用するよう促している。同時に、AIによって真正性が損なわれることがないよう注意を払っている。リーダーがAI生成コンテンツを不注意に用いると、その結果は真実味に欠けるという印象を与えかねない。「人間参加型のAI活用が常に求められます」とラモローは言う。「目標は、完璧らしく聞こえることではありません。自分らしい言葉で表現し、コミュニケーションの中で明確性とつながりの両方を強めることです」
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これらの取り組みの効果を立証するのは時期尚早だが、IBMが人間的なリーダーシップスキルの力に賭け、AIで解放された時間を使ってそれらに注力する方法を見出していることは明らかだ。
「リーダーシップとAIについて、私たちはすべてを解明したわけではありません」とラモローは言う。「この領域は常に変化しています。ただ、AI時代にはこれまでとは異なるタイプのリーダーが求められることはわかっています。リーダーがこの状況にうまく対処し、真に人間中心のリーダーになれるよう支援するために、私たちは最善を尽くしています」
企業は効率性向上のためにAIのシステムとツールに投資する際、
"How Gen AI Can Create More Time for Leadership," HBR.org, October 20, 2025.






