組織の変革期に人が辞める会社と残る会社の決定的な違い
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サマリー:買収や事業転換といった組織の変革期は、従業員の不安から離職や業績悪化を招きやすい。こうした局面で、一時金などの金銭的施策による引き留めには限界がある。真に求められるのは、変革そのものに人材育成を組み込む「育成ファースト」の戦略だ。これが離職を抑制し、エンゲージメントと将来必要なスキルの獲得を同時に実現する。本稿では、リーダー育成や社内流動性の向上など、持続的な成果を導くための4つの柱を紹介する。

組織変革を進めるうえで、人材戦略を切り離してはならない

 買収や戦略的な事業転換、組織再編など、組織の変革期は、リーダーにとってある矛盾を生み出す。リーダーが大きな変革を導くことに集中している一方で、従業員は自分の将来に不安を感じている。たとえば、KPMGの調査によると、買収発表後に離職率が倍増するケースがあるという。コスト削減圧力やスキル需要の変化に直面している業界では、この不確実性は士気だけでなく業績にも直接的な影響を及ぼし、変革を台無しにしかねない。

 企業は、変革時だからこそ、必要な人材を失う危険にさらされ、同時に将来必要となるスキルを従業員に身につけさせなければならないという、厳しい局面に立たされる。残留特別手当や金銭的インセンティブなど従来の人材定着策は一時的な対策にはなるが、費用がかかり、拡張が難しく「変革後に自分の居場所はあるのか」「いまあるスキルで活躍できるのか」といった従業員の深い懸念を払拭するわけではない。

 労働力の順応性を高めるには、育成中心の人事戦略が効果的である。人材育成戦略を変革の取り組みに組み入れることによって、離職率を低減し、エンゲージメントを高め、従業員に将来必要となるスキルを身につけさせることができる。本稿では、これらを実現するために、人事部門や経営者にできることを紹介する。

育成ファーストの人材定着戦略の構築

 ギャラップの調査によると、成長機会を与えられている従業員のエンゲージメントは3.6倍高い傾向があるという。混乱の時期においては、透明性と成長機会が安定剤の働きをする。従業員は、自分の立ち位置と、新組織でどうすれば活躍できるのかを知りたがっているからだ。

 成長ファーストの定着戦略では、以下の点を優先することが欠かせない。従業員に一貫して信頼性のあるメッセージを発信するために、リーダーに変革を導く能力を与えること。従業員に自身の業務との関連性や達成可能性、やりがいを感じさせる成長機会を提供すること。そして、成長を実際のビジネス成果に結びつけるため、社内の流動性を高める制度を構築することである。

 これらの要素が揃った暁には、士気の向上だけでなく、ビジネスに明確な効果が生まれる。2024年9月、ベライゾンが筆者らが所属するフロンティア・コミュニケーションズの買収計画を発表した際、この難局に直面した。買収にはさまざまな承認が下りるまで1年以上かかることがわかっていた。その間、従業員の士気を保つために、すでに進行中だった「フロンティア・フォワード」という取り組みを加速化させた。これは、アップスキリング、内部の流動性、エンゲージメントに焦点を当てた全社プログラムであり、人材育成をすべての階層における従業員体験に組み入れ、買収に伴う大きな変化の最中にあっても、業績向上と人材定着の両方を促進することを狙いとしている。

 実現に向け、4つの柱に基づいてアプローチが構築された。

1. リーダーの育成

 人材の定着とエンゲージメントは、リーダーから始まる。従業員は、上司や経営陣が不確実性にどう対処するかにヒントを得るため、強いリーダーの育成は重要な優先課題である。

 筆者らが所属する企業では、変革期の従業員の期待と従業員へのコミュニケーションを整合させるために、階層別のリーダー研修を開発した。経営幹部はアセスメント、コーチング、数日にわたる変革サミットに参加し、部課長は変革と信頼に関する研修を受講した。「従業員インパクトグループ」のリーダーは、反転授業(フリップドクラスルーム)を試行した。反転授業とは、受講者が授業内容を動画などで個別に予習し、対面の時間を共同の問題解決に用いる手法である。