-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
「ゆとりの時間」こそ、消費者が行動を起こすチャンス
マーケターは、知名度や話題性を基準にすれば、消費者が新しいテクノロジーを試す準備ができているかどうかを判断できると考えがちだ。しかし、それだけで全貌を語ることはできない。消費者が新しいものに手を出す引き金となるのは好奇心であり、それが生まれるのは、突然、ある程度の余裕が手に入った時なのである。
筆者らの調査によると、人は「思いがけない時間」、つまり正真正銘の予期せぬ自由時間を得ると、どんな宣伝が急増した時よりも効果的に、複雑で理解しにくいアイデアについて知ろうと一歩を踏み出すことがわかった。最新テクノロジーをはじめとするイノベーションのマーケターにとって、この発見は重大な示唆になる。
ブロックチェーンに関する筆者らの調査を例に取ろう。このテクノロジーは2020年代初めに勢いを増し始めた。5年前の当時でさえ、大半の人は「ブロックチェーン」という用語を認識していたが、それについて深く知るための最初の一歩を踏み出すには、話題性に加えて、精神面の余力も必要だった。
新型コロナウイルスのパンデミックが始まった当初の数カ月間、自然実験のような状況が生まれた。外出する必要性が減って余暇の時間が増える中、カリフォルニア州とニューヨーク州の118郡で、在宅の増加と歩調を合わせるように、ブロックチェーン関連用語の検索数が増加したのだ。検索したからといって、実際に使用するとは限らないが、検索は低リスクで踏み出せる第一歩であり、好奇心が行動へと変わるサインとなる。
その後、暗号資産の相場とメディアの喧騒が高騰すると、ゆとりある時間のおかげで高まっていた好奇心は薄れていった。大騒ぎに飲まれて、熟考を要する探究的な活動が脇に追いやられたのだ。また、コロナによる死亡率が高い地域でも、人々の好奇心は落ち込んだ。時間のゆとりによって好奇心が高まるのは、それが可能な精神的ゆとりのある時だけ──つまり、理屈の上だけでなく、実際に時間に余裕がある状況に限られる。
マーケターにとっての実践的なメッセージはシンプルだ。複雑なものを売りたいからといって時間を創り出すのは無理な話だが、ふいにゆとりの時間が生まれた時に備えて準備を整えておく必要がある。
消費者の好奇心の窓が開くのは、次の3つの要素が揃った時だ。関心を持つ理由(動機)、精神的な余力(実際に使える時間の獲得によって生まれる関心)、そして明確な入り口(アクセスしやすい情報)である。このうち、どれか一つでも欠ければ、チャンスは通り過ぎてしまう。動機があっても、関心がなければ雑音にすぎず、関心があっても情報がなければ無駄であり、情報があっても動機がなければ読まれずに終わる。
一方、3つの要素が重なると、どれほど複雑なアイデアでも「聞いたことがある」状態から「最初の一歩を踏み出した」状態へと移行できる。マーケターの仕事は、3番目の要素である「アクセスしやすい情報」を最適なタイミングで提供することによって、消費者が受動的な認知から探究の第一段階へと進めるようにすることだ。消費者に時間が生まれた時に、適切な情報が手に入らないという障壁をつくってはならない。
企業も、こうした「好奇心の窓」を活用する方向に舵を切っている。語学学習アプリのデュオリンゴは、スーパーのレジ待ちの時間を学習時間に回すよう誘導する。デルタ航空は、デジタルIDや荷物のリアルタイム追跡、ターゲット型提案によって、空港での待ち時間の体験を刷新した。ポップマートは、ティックトックとショッピーの消費者フィードバックを活用して、短いスクロールを購買行動につなげている。
とはいえ、ブロックチェーンや税務計画、新たなB2Bソフトウェアなど、より複雑なトピックについては、小さな好奇心の窓を叩いただけで、消費者が「興味がある段階」から「探究の段階」に移行することはめったにない。
幸い、獲得したゆとり時間の中には一瞬で終わらないものもある。サマータイムの期間中や荒天、旅行の遅延、会議の中止などのタイミングは、好奇心の窓が長めに開くかもしれないサインだ。
本稿では、実際に使える長めの時間の存在が、深い探究への扉を開くことを例示する。そうした状況下においては、理解しにくいテクノロジーに関しても、消費者がみずから検索し、学び始める可能性がある。
ゆとりの時間を取り込む
マーケターにとって、消費者が獲得したゆとりの時間を活かすには、効果的な戦略マニュアルを整えておくことが重要だ。具体的には、チュートリアルやトライアル体験、長尺コンテンツなど、消費者が探究の旅に乗り出すためのリソースを用意しておき、消費者との接点をつくる必要がある。
そのためには、好奇心の窓が長めに開いているチャンスを、事前に用意した導線に結びつける必要がある。この導線とは、簡潔な解説から入って、短いガイドつきプロジェクトや体験の機会につながる流れであり、それによって、ゆとりの時間が生んだ好奇心を実際の理解に変えることができる。







