なぜリーダーは自分の成功を祝えないのか
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サマリー:多くのシニアエグゼクティブは成功を称えることに居心地の悪さを感じ、立ち止まってみずからの進歩を認めない。その結果、レジリエンスやモチベーション、判断力が低下し、リーダーとしての有効性を損なうおそれがある。本稿では、成功を祝うことを妨げる「価値観」「圧力」「文化的規範」という3つの障壁を明らかにし、研究や実例に基づき、これらを乗り越えて持続可能なリーダーシップを築くための具体的な処方箋を提示する。

リーダーはなぜ自分を称えることに居心地の悪さを感じるのか

 成功を祝うことは、多くのシニアエグゼクティブが直面する静かな難題だ。現実的な進歩を遂げ、恒久的なレジリエンスを構築するには、うまくいっていることを認める必要がある。だが、経営やリーダーシップの文献は長年、失敗から学ぶこと(挫折後にいかに立ち直り、適応し、成長するか)を強調するばかりだった。成功を認め、さらに成長するにはどうすればよいかは、あまり研究がなされていない。容赦のない今日の経営環境で大きなプレッシャーにさらされている、シニアエグゼクティブに焦点を当てた文献もほとんどない。

 筆者は、さまざまな業界のリーダーとの会話や、コーチングの仕事を通じて、リーダーが自分を称えることは稀なだけでなく、純粋に居心地が悪いと感じていることを知った。多くのリーダーは、自分の成果を称えるために仕事のペースを落とすのは不自然で、恥ずかしいとさえ感じている。 

 この居心地の悪さには代償が伴う。立ち止まって自分の進歩を明確にしないリーダーは、燃え尽き症候群(バーンアウト)以上のリスクにさらされる。ストレスに対する緩衝材(自己肯定)や継続的なモチベーションの源泉(自己報酬)、創造性や良質な判断を促す気分の高揚(進歩の法則)を自分から奪うことになるからだ。やがてレジリエンスが低下し、やる気が失われ、意思決定の質が低下し、彼らがまさに追い求めているリーダーとしての有効性を損なうおそれがある。

 なぜ、そのようなことが起こるのか。表面的には、その理由は単純に見える。トップが自分の功績に注意を集めることは、気まずいか、リスクを伴うか、尊大に感じられる。しかし、そのような消極的な姿勢の原因は、エゴや外見を気にする性質よりも深いものであることが多い。その根本原因と対処方法をよりよく理解するために、筆者は教育、コミュニケーション、コンサルティング、広報、人材管理など多様な分野のエグゼクティブ10人の話を聞いた。筆者の専門分野以外の人を意図的に探し、デロイトの元CMOから建設会社の起業家、長年のエグゼクティブからコンサルタントに転身した人まで、幅広いリーダーが共感できる経験を聞いた。

 本稿では、これらの話と既存の研究、そして筆者が直接経験したことに基づき、リーダーが勝利を祝うことを妨げる3つの障壁と、それを克服する具体的な対策を紹介しよう。

障壁1:価値観の違い

 たとえ客観的に見てよい仕事をしたとしても、自分には祝福する資格がないと感じると、複数のエグゼクティブは語った。この自己疑念は、多くのリーダーがほぼ常に感じているプレッシャーや危機モードと相まって、少しばかり立ち止まり、うまくいっていることを認めるのを困難にする。複数の中堅サービス企業でCEOを務めた経験がある、チザム・コンサルティング・グループのCEO、マイク・チザムは「経営が厳しい時期は、当然ながら目先の問題を解決することに注視しがちだ。ビジネスを守るとか、従業員をサポートするとか、オペレーションを維持するとかいったことだ」と語る。「この絶え間ない危機意識のために、進歩を祝う余裕はほとんどなくなってしまう。あまりにも多くの火を消そうと忙しくて、うまくいっていることを称賛している場合ではないと感じる」

 ストラテジートレーニング・ドットコム(StrategyTraining.com)のCEOクリス・サファロバは、この葛藤を別の切り口で説明してくれた。「私はこれまでの人生で3回移住した」と彼女は言う。「そんな私にとって、いかに多くのことを成し遂げてきたかを認めるのは難しい。休む暇がないことや、おそらく健康なレベルを超えて働きまくることに慣れすぎている。立ち止まって祝福するなんてやったことがない気がするし、そんな余裕もないと感じる」

対策:進捗を「見える化」する

 課題が積み重なり、その重要性が高まり、自己疑念が忍び寄ってくると、自分の勝利に注意を向けるなんて不当だとか、無責任だと感じられる場合がある。だが、重要なのは、すべての問題が解決した振りをすることではなく、うまくいっていることを軸に、自分のインパクトを強化することだ。この地に足のついた行為は、その先を乗り切るのに必要な自信とレジリエンスを与えてくれる。

 リンクトインのシニアエグゼクティブを務めた経験があり、現在はネクストプレーの創業者兼CEOであるフランク・クーは、カレンダーに自分の成し遂げたことを記録し、タスクに完了マークを入れて進捗を認めることで、インポスター症候群(自分を過小評価する癖)を克服している。自分とチームが達成したことを目に見える形で記録すると、「まだ十分でない」という内面から湧き上がるナラティブに対抗して、困難な時期にも地に足を着けると同時に、内省と成長の文化を強化する役に立つという。

 あなたも同じことができる。まず、自分が抱えている最大の課題や期待をいくつか(取締役会の優先課題、成長目標、チームのニーズなど)リストアップしよう。次に、各項目の横に、それを進めるために今週講じた具体的な措置を書き込む。投資家からの難しい電話に対応したのかもしれないし、批判的なリーダーを採用したり、プレッシャーにさらされたりしながらチームの軌道修正を手伝ったのかもしれない。そのリストを見える場所に置こう。メモアプリを使ってもよいし、付箋やプランナーを使ってもよい。

 このリストを確認して更新する時間を毎週5分間スケジュールしよう。これは、立ち止まって、進捗を価値のあるものとして扱うよう自分を訓練するシンプルだがパワフルな方法だ。

障壁2:外部からの圧力

 多くのエグゼクティブは、たえず前進するマインドセットがどのようなものか説明してくれた。マイルストーンは意味ある「小さな勝利」ではなく、無限に続く道のりの一部と見なされる。それはステークホルダーや顧客、取締役会からの絶え間ない要求によっていちだんと悪化し、内省の時間や余裕はほとんどなくなってしまう。その結果、筆者が話をしたリーダーたちは、しばしば自分の成果を見落としたり、無視したりした。

 S.I. コンテナ・ビルズのCEOロリー・ルービンは、「次は何をする必要があるか」「どうすれば改善と成長を続けて、他人を満足させ続けられるか」を常に自問するよう条件づけられていると語った。いつも先を見据えているため、過去を振り返ったり、その過程で勝利を称えたりする機会はめったにない。

対策:現実のプレッシャーと自己プレッシャーを見分ける

 プレッシャーは、いつも外からもたらされるわけではない。トップリーダーは、おそらくその地位にたどり着くまでに執拗に自分を追い込んできただろう。だが、その衝動が内向きに作用し、逆効果をもたらすこともある。多くのハイパフォーマーは、不要な締め切りを設定したり、休憩を取ることに罪悪感を覚えたり、「常時オン」でなければいけないと思い込んでいる。 本当に自分に求められていることを明らかにし、想像上の要求を捨てると、進歩を認めて、熟考し、自分の時間やエネルギーや期待にもっと持続可能な境界線を引く余裕ができる。

 まず、外からの期待と自分の基準という2つのレンズを通して仕事を精査しよう。チザムは、現実のものであれ、自分の想像上のものであれ、あらゆる要求を大きなプロジェクトの一部と考えるようにしていると言っていた。すると、一歩引いて物事を眺めたり、優先課題を比較検討したり、すべてのリクエストに同じ緊急性を持って対応しないようにする必要性が見えてくる。エネルギーを投入する前に、取締役会やクライアント、またはチームとの間で期待を明確にする。すると驚くべき真実が明らかになることが多い。「期限」の多くは、自分が自分に課したものにすぎない。チザムは、自分が感じているプレッシャーの原因を指摘することで、不要なストレスを減らすだけでなく、立ち止まって、チーム全体でうまくいっていることを認識する精神的な余裕ができたと言う。すると、このインサイトを活用して、新たな課題が生じた時、より意図的にリーダーシップを発揮できる。

 ルービンも似たような変化を経験した。エンドレスな要求で大きなプレッシャーにさらされている業界で働いている彼女は、常に対応可能で、常に動いていることをステークホルダーに期待されていると思っていた。このような激しいペースで仕事をすると、疲れ果てて、私生活での有意義な出来事を逃してしまうと、彼女は認める。だが、自分で自分に大きなプレッシャーをかけていたことがわかると、もっとしっかりした境界線を引けるようになった。週末を守り、チームの休みを尊重し、重要性の低い仕事は優先順位を下げた。新しいルールは、明らかに緊急でない場合は、緊急として扱わないこと、だ。

 要するに、必ずしも仕事の量を変える必要はない。ただ、マインドセットを変える必要はある。反省は仕事の一部であるべきであり、仕事を終わらせたことに対する報酬ではない。

障壁3:文化的な規範に反することへの恐怖

 筆者が話を聞いたリーダーの中には、トップがあからさまに自分を祝福することは、文化的に不適切か、自慢をしているように聞こえるか、政治的にリスクがあると感じられると語った人たちもいた。謙虚な姿勢の模範を示し、チームにスポットライトを当てたいリーダーにとって、自分の功績を認めることは、他人を高めるどころか、他人を目立たなくしているように感じられる場合がある。

対策:祝福とはどういうものか再定義する

 成功を称えるのにスポットライトは必要ない。日記を書いたり、フィードバックを噛み締めたり、メンターとプライベートな時間を持ったりといった、小さな個人的な儀式も同じくらいパワフルな効果になりうる。

 教育部門のシニアリーダーであるデボラ・ローダー・ジョンは、「(リーダーが)大成功していると、他者よりも自分と競争するようになる。こうした勝利はより個人的なものに感じられ、個人的に祝福するのにふさわしい」と語る。

 PRおよびエグゼクティブコミュニケーション会社トリプルAメディアのCEO、ジェニファー・マロニー・アダブは、このことを身をもって学んだ。「祝福は、多くの場合、正式な発表や宣伝の形を取る。これは外から見てもよいことだし、オーディエンスへのリーチには効果的だ」とアダブは言う。「でも、私自身の成長にとって、最も有意義なマイルストーンは、静かに称えられること。これが最善であると学んだ」。最初に立ち上げた会社を売却した時、アダブはすぐにプレスリリースを出すのではなく、一人で散歩をして、このマイルストーンとその意味を考える余地を自分に与えた。

 デロイトのCMOを務めたことがあるノースウェスタン大学の非常勤教授、ジョナサン・コプルスキーは、さらに内省的なアプローチを採用している。毎年、親しい友人や家族に、自分が達成したことや学んだことをまとめた短い手紙を書いているのだ。この儀式は、日々の出来事から一歩引いて、全体を見る役に立っているという。デロイトの幹部だった時代は、きちんと同僚を祝うことも心がけていた。夕食会を開いたり、共同の体験や外出を企画したりした。彼にとって、チームを祝うことはリーダーとしての自分の成長を称える方法でもあった。チームの進歩は、彼が寄与した文化と方向性を反映していた。

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 自分の功績を祝うことは身勝手ではなく、不透明で、詳細に監視され、エンドレスな要求に追われる現代の経営環境において安定をもたらす手段になる。リーダーが、少ない失敗で、多くの成果をスピーディに上げることを期待されている時、最小の勝利でも認める時間を持つと、自分を安定させ、次に起こることに備えてエネルギッシュで、明晰な思考を維持できる。そのようなチャンスを逃さないようにすることだ。それに気づくことは、あなたが前進を続けるのに必要な自信を築くのを助けてくれるのだから。


"Most Leaders Don't Celebrate Their Wins - But They Should," HBR.org, November 10, 2025.