なぜリーダーは自分の成功を祝えないのか
Noel Hendrickson/Getty Images
サマリー:多くのシニアエグゼクティブは成功を称えることに居心地の悪さを感じ、立ち止まってみずからの進歩を認めない。その結果、レジリエンスやモチベーション、判断力が低下し、リーダーとしての有効性を損なうおそれがある。本稿では、成功を祝うことを妨げる「価値観」「圧力」「文化的規範」という3つの障壁を明らかにし、研究や実例に基づき、これらを乗り越えて持続可能なリーダーシップを築くための具体的な処方箋を提示する。

リーダーはなぜ自分を称えることに居心地の悪さを感じるのか

 成功を祝うことは、多くのシニアエグゼクティブが直面する静かな難題だ。現実的な進歩を遂げ、恒久的なレジリエンスを構築するには、うまくいっていることを認める必要がある。だが、経営やリーダーシップの文献は長年、失敗から学ぶこと(挫折後にいかに立ち直り、適応し、成長するか)を強調するばかりだった。成功を認め、さらに成長するにはどうすればよいかは、あまり研究がなされていない。容赦のない今日の経営環境で大きなプレッシャーにさらされている、シニアエグゼクティブに焦点を当てた文献もほとんどない。

 筆者は、さまざまな業界のリーダーとの会話や、コーチングの仕事を通じて、リーダーが自分を称えることは稀なだけでなく、純粋に居心地が悪いと感じていることを知った。多くのリーダーは、自分の成果を称えるために仕事のペースを落とすのは不自然で、恥ずかしいとさえ感じている。 

 この居心地の悪さには代償が伴う。立ち止まって自分の進歩を明確にしないリーダーは、燃え尽き症候群(バーンアウト)以上のリスクにさらされる。ストレスに対する緩衝材(自己肯定)や継続的なモチベーションの源泉(自己報酬)、創造性や良質な判断を促す気分の高揚(進歩の法則)を自分から奪うことになるからだ。やがてレジリエンスが低下し、やる気が失われ、意思決定の質が低下し、彼らがまさに追い求めているリーダーとしての有効性を損なうおそれがある。

 なぜ、そのようなことが起こるのか。表面的には、その理由は単純に見える。トップが自分の功績に注意を集めることは、気まずいか、リスクを伴うか、尊大に感じられる。しかし、そのような消極的な姿勢の原因は、エゴや外見を気にする性質よりも深いものであることが多い。その根本原因と対処方法をよりよく理解するために、筆者は教育、コミュニケーション、コンサルティング、広報、人材管理など多様な分野のエグゼクティブ10人の話を聞いた。筆者の専門分野以外の人を意図的に探し、デロイトの元CMOから建設会社の起業家、長年のエグゼクティブからコンサルタントに転身した人まで、幅広いリーダーが共感できる経験を聞いた。

 本稿では、これらの話と既存の研究、そして筆者が直接経験したことに基づき、リーダーが勝利を祝うことを妨げる3つの障壁と、それを克服する具体的な対策を紹介しよう。

障壁1:価値観の違い

 たとえ客観的に見てよい仕事をしたとしても、自分には祝福する資格がないと感じると、複数のエグゼクティブは語った。この自己疑念は、多くのリーダーがほぼ常に感じているプレッシャーや危機モードと相まって、少しばかり立ち止まり、うまくいっていることを認めるのを困難にする。複数の中堅サービス企業でCEOを務めた経験がある、チザム・コンサルティング・グループのCEO、マイク・チザムは「経営が厳しい時期は、当然ながら目先の問題を解決することに注視しがちだ。ビジネスを守るとか、従業員をサポートするとか、オペレーションを維持するとかいったことだ」と語る。「この絶え間ない危機意識のために、進歩を祝う余裕はほとんどなくなってしまう。あまりにも多くの火を消そうと忙しくて、うまくいっていることを称賛している場合ではないと感じる」

 ストラテジートレーニング・ドットコム(StrategyTraining.com)のCEOクリス・サファロバは、この葛藤を別の切り口で説明してくれた。「私はこれまでの人生で3回移住した」と彼女は言う。「そんな私にとって、いかに多くのことを成し遂げてきたかを認めるのは難しい。休む暇がないことや、おそらく健康なレベルを超えて働きまくることに慣れすぎている。立ち止まって祝福するなんてやったことがない気がするし、そんな余裕もないと感じる」

対策:進捗を「見える化」する

 課題が積み重なり、その重要性が高まり、自己疑念が忍び寄ってくると、自分の勝利に注意を向けるなんて不当だとか、無責任だと感じられる場合がある。だが、重要なのは、すべての問題が解決した振りをすることではなく、うまくいっていることを軸に、自分のインパクトを強化することだ。この地に足のついた行為は、その先を乗り切るのに必要な自信とレジリエンスを与えてくれる。

 リンクトインのシニアエグゼクティブを務めた経験があり、現在はネクストプレーの創業者兼CEOであるフランク・クーは、カレンダーに自分の成し遂げたことを記録し、タスクに完了マークを入れて進捗を認めることで、インポスター症候群(自分を過小評価する癖)を克服している。自分とチームが達成したことを目に見える形で記録すると、「まだ十分でない」という内面から湧き上がるナラティブに対抗して、困難な時期にも地に足を着けると同時に、内省と成長の文化を強化する役に立つという。