「従業員はAIに肯定的」というリーダーの勘違い
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サマリー:AI導入を巡り、経営層と現場の間には深刻な認識の隔たりが存在する。調査では、従業員がAIに熱意を持っていると考える経営幹部が76%に上るのに対し、現場の実務担当者は31%に留まる。また、自社を「従業員中心」と自負する幹部は75%だが、同意する現場は23%に過ぎない。この乖離はAI活用の成否に直結し、従業員中心の組織はそうでない組織に比べ、成功確率が7倍も高い。本稿では、この「盲点」を解消し、AI導入を加速させるための傾聴と共創のあり方を紹介する。

AI導入に対する経営層と現場の認識のずれ

 多くの組織において、シニアリーダーは従業員がAIを活用する能力と意欲を前向きに評価している。米国に拠点を置く企業の従業員1400人を対象にした最近の筆者らの調査では、経営幹部の76%が、従業員は組織におけるAI導入に対して熱意を示していると回答した。しかし、現場はそれほど楽観的ではない。実務担当者のうち、熱意を示したのは31%にすぎず、リーダー側の認識は実際の倍以上だったのだ。

 この認識のずれは、より広範な経営層の盲点を示唆している。経営陣は従業員の考えを十分に把握しておらず、そのこと自体に気づいていないのだ。実際、経営幹部の75%が、すでに従業員中心の組織となっていると考えている一方で、それに同意した実務担当者は23%に留まった。

 ここには2つのギャップがあるだけではない。従業員の声を聞き、ニーズを深く理解し、それに応じて投資することが、大きな効果をもたらすことを調査結果は明らかにしている。従業員中心の組織は、そうでない組織に比べてAI活用で成功する確率が7倍高いのだ。

役職が上がるほど楽観的になる

 組織の業務にAIを組み込むことについて、人々がどのように感じているかを把握するため、回答者に自分の考えを最もよく表す感情を選んでもらった。経営幹部の96%は、エンパワーメント、希望、開放感などの肯定的な感情を上位3つのうちの少なくとも1つに挙げた。一方、実務担当者ではその割合は63%に減る。逆に、否定的な感情のほうが多い回答者は実務担当者で33%に上り、最も多いのは抵抗感、不安、職を失う恐怖だった。経営幹部で同様の回答をしたのはわずか4%だ。

 また、従業員は自社のAI戦略やツールについて十分情報を得ていると思うかどうかを尋ねると、実務担当者で同意したのは30%だが、中間管理職は58%、経営幹部では80%に達した。組織の最上層と最下層の間には約50%ポイントもの差があるのだ。また、AIに関する意思決定に従業員の視点が反映されていると考えているのは、経営幹部は80%だが、実務担当者は27%、中間管理職でも半数に留まった。

 要するに、役職が上になるほど、従業員がAIについてどれだけ情報を得ていて、それに対してどれだけ熱意があるかを過大評価してしまうのだ。この楽観バイアスは、従業員中心主義そのものにも及ぶ。リーダーの認識と従業員の現実が乖離すると、どれほど優れたAI戦略であっても失敗してしまう。従業員が見ている組織の姿を理解できなければ、変革を主導し、業績を向上させることはできない。

コミュニケーションと共創の力

 筆者らの調査は、実務担当者、マネジャー、経営幹部を対象に行われた。各回答者には、自社のAI成熟度を10項目で、従業員中心主義の成熟度を12項目で評価してもらい、両方の特性の指数を作成した。すると、参加者の中で際立ったグループ(リーダーと従業員の両方を含む)がおり、AI成熟度も従業員中心主義のレベルも高いと回答した。そこで、彼らがどのようにしてそれを実現したのかを探ることにした。彼らの組織では何が起きているのだろうか。

 従業員中心主義の実践は、顧客中心の組織が最も成功していた時代にも通じる。個人が本当に必要としていることを深く、緻密に聞き取る力だ。顧客中心の企業は、顧客を深く巻き込みながら製品を設計し、顧客を喜ばせるだけでなく、顧客自身が気づいていないニーズまで先取りする。同様に、従業員中心の組織は、従業員と深く関わり合い、彼らの期待やニーズを上回る形で仕事を設計する。

 こうした取り組みがイノベーションや業績向上に寄与することはよく知られているが、AI成熟度の向上にも不可欠であることを筆者らの研究は示している。前述の通り、従業員中心主義の組織は、AI成熟度が高くなる確率が7倍高い。実際、従業員中心主義は、AI成熟度を予測する最も強力な単一の要因として浮かび上がり、その理由を示すデータも得られた。

 AI導入を、効率や生産性の追求ではなく、従業員の働き方をより良くする手段として捉える組織では、AIの取り組みが進みやすい。こうした組織は、共通のパーパスを伝え、プロセスの形成に従業員を関与させ、彼らの抵抗を熱意へと変える。