各国特有の強みを活かした「多国籍AI戦略」を策定する方法
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サマリー:AI競争の主役は米国と中国だけではない。日本はロボティクス、カナダは研究、UAEはインフラといった具合に、各国は独自の強みを持つエコシステムを有している。経営幹部は「AIはどこでも同じ」という固定観念を捨て、各国の文化的規範や法的環境に即したローカライズ戦略を立てるべきである。本稿では、国のAI能力を形づくる主要な領域について説明し、多国籍企業が国ごとに異なるアプローチからどのように恩恵を得られるのかを述べる。

国ごとの強みを引き出す「多国籍AI戦略」の展開

 経営幹部らが集う場で、AIの次なる大波はどこから来るのかと尋ねれば、大半は米国か中国と答えるだろう。

 これら2つの国がAIで大きく優位に立つのは事実だ。米国のAI企業は、ベンチャーキャピタルと緩やかな規制による恩恵を受けている。中国では政府の投資と、AIを活用した政府の監視がAI企業に恩恵をもたらし、膨大なデータとAIソリューションの需要を同時に生み出している。どちらの国にも大量のデータを持つ巨大テック企業がある。両国──およびどちらかを本拠地と呼ぶ企業──が、AIの重要な側面において先頭に立ち続けると推測するのは妥当だ。

 しかし、彼らはAIの未来を独占しているわけではない。

 企業が自社のAI能力の強化に努める中で、リーダーはAIの異なる側面に秀でている他の多くの国々を見落としてはならない。具体的には、自社のニーズに基づき、諸国のAIの強みを積極的に探して活用すべきである。

 日本を例に考えてみよう。この国はAIの産業利用、ロボティクスの統合、そして高齢者介護のような社会志向のAIのユースケースにおいて秀でている。エヌビディアと世界有数のロボティクス企業である富士通は先頃、AIとロボティクスの分野で協業し、AI駆動型ロボットシステムの開発と産業横断的な普及の加速を目指すことで合意した。米国に本拠を置く配膳ロボットメーカーのベア・ロボティクスは、2024年に東京に日本法人を設立。ホスピタリティ市場でのリーチ拡大と、配膳ロボットによる現地の人手不足への対処を目指している。

 同様の例は数多くある。企業はカナダに目を向けてもよい。同国はディープラーニング(深層学習)を開拓してきた第一級の研究者たち、優秀なAI開発者を多数輩出する大学、1500社以上のAIスタートアップを擁する。グーグルはAIのR&D拠点をトロント、モントリオール、ウォータールー、エドモントン、オタワに構えている。

 フランスも同様の強みを持ち、カナダと同じように複数の米大手テック企業のAI拠点を誘致することに成功し、ミストラルという優れた言語モデルを生み出した。

 アラブ首長国連邦(UAE)は、政府の投資、データセンターのキャパシティ、ベンチャーキャピタルの面でAIに巨額の資金を投じている。エヌビディア、オープンAI、マイクロソフトはインフラと技術の開発でUAEと提携している。

 ナイジェリアは国民のAIリテラシーと信頼度が最も高い国の一つであり、国内の組織はAI技術の導入を急速に進めている。国内には50以上のAIスタートアップがあり、マイクロソフトとグーグルがさらなるスキル開発に投資している。

 重要な点として、AIを国レベルで捉えるためにはその国の政府だけでなく、企業、人材、大学、文化的規範を含めたエコシステムと向き合うことが求められる。言い換えれば、その国における産業、スキル、インセンティブの独特な組み合わせが、特定のAI提携(現地のスタートアップや研究所との協業など)に適した土壌を形成するのだ。賢いリーダーはこの視点をもとに、特定のAI目標に向けてどの現地プレーヤーと協業すべきかを見極める。

 さまざまな市場でAIに取り組むリーダーは、「AIはどこでも同じ」という前提を捨てる必要がある。同じではなく、そこにこそチャンスがあるのだ。本稿では、国のAI能力を形づくる主要な領域について説明し、多国籍企業が国ごとに異なるアプローチからどのように恩恵を得られるのかを述べる。

国レベルでのAI能力を考える

 国のAI能力に影響を及ぼす要因は、数多くある。なかには政府の投資のように、短期間で変化しやすいものもあれば、強い研究志向を持つ大学のように、育成に長い年月を要するものもある。また、異なる影響要因が異なる結果をもたらす点にも留意することが重要だ。たとえば高いエネルギー供給力は、基盤となる生成モデルの訓練を支えるが、企業や組織によるAIモデルの活用との関連性はかなり低い。AI技術人材の不足は、AIのコード生成ツールによって緩和されるかもしれない。

 国のAI能力は、以下のようにさまざまな要因に左右される。