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オーセンティシティの形成に必要な5要素
インフルエンサーマーケティングは現在、240億ドル規模の産業へと成長した。しかし、最高マーケティング責任者(CMO)たちは矛盾した状況に直面している。インフルエンサーマーケティングが活況を呈する一方で、信頼が損なわれつつあるのだ。ある調査によれば、消費者の88%がオーセンティシティ(真正性)が重要であると回答する一方で、半数近くが「ほとんどのインフルエンサーは偽っている」と考えている。また、3分の1以上が、インフルエンサーは自分自身や推薦する製品について事実をゆがめて伝えていると考えている。その結果、インフルエンサーのエコシステムが機能不全に陥っている。消費者は欺かれていると感じ、インフルエンサーは自分らしくいることに苦労し、マネジャーはオーセンティシティがどのように形成されるのかを十分に理解していないのだ。
この問題を解決するために、CMOはまず、インフルエンサーのオーセンティシティの真の意味を理解する必要がある。筆者らの研究では、世界5大陸のブランドマネジャー、代理店、インフルエンサー、消費者へのインタビュー185件を実施し、オーセンティシティとは固定的な特性ではないことを明らかにした。それは、インフルエンサー、ブランド、フォロワー、代理店の間の相互作用を通じて共同でつくり出されるものだ。重要なのは、オーセンティシティは次の5つの要素の整合性が取れた時に生まれるということである。
・専門性:インフルエンサーがその領域において信頼性があると見なされている。
・つながり:フォロワーがインフルエンサーに対して感情的な結びつきや親近感を抱いている。
・誠実さ:インフルエンサーが金銭的利益だけでなく、オーディエンスへの真摯な配慮を持って行動している。
・独創性:コンテンツに独自の個人的な視点や声が反映されている。
・透明性:インフルエンサーが有料パートナーシップや実際の体験について、包み隠さず公開している。
これらの要素は、ステークホルダーごとに重視するものが異なる。消費者は主に、誠実さと透明性を重視する。インフルエンサーは、独創性と専門性を尊ぶ。ブランドは消費者との双方向のつながりよりも、リーチやメッセージのコントロールに焦点を当てる傾向がある。しかし、各者の優先事項が一致しないと、オーセンティシティは崩壊する。ブランドがコンテンツに過度な指示を出したり、短期的なROI(投資利益率)を追求したりする一方で、インフルエンサーは「魂を売った」と思われるのを恐れて金銭的な動機を隠そうとする。透明性こそがオーセンティシティを築くにもかかわらずだ。
多くの企業がピアマーケティングへの投資を増やしているいま、この教訓は特に重要といえる。スタティスタのデータによれば、世界のインフルエンサーマーケティングの市場規模は2020年から3倍に拡大しており、企業はクリエイターエコノミーに積極的に投資している。筆者らの研究は、適合性よりもリーチを、ストーリーテリングよりも台本を、透明性よりも洗練を優先してしまうといった潜在的な弊害を、企業がいかに回避できるかを探究している。こうした破綻がどこで生じるかを理解することは、顧客の信頼という極めて重要な要素をブランドが損なうのを防ぐ一助となる。
専門性:権威から一貫性へ
ブランドは専門性を公的な資格や受賞歴と同一視しがちだが、ソーシャルメディアのフォロワーは、インフルエンサーが製品やサービスに対して継続的に共有してきた体験を重視する傾向がある。オーディエンスにとってのオーセンティシティは、肩書きから生まれるのではなく、特定の領域において定期的かつ信頼できる姿を見せ続けるクリエイターから生まれる。たとえば、筆者らの調査に応じた消費者の多くは、10キロマラソンのトレーニングに励むアマチュアランナーのほうが、オリンピック選手よりも信頼できると述べている。アマチュアのほうがより身近に感じられるからだ。
美容やファッション分野のインフルエンサーであるジャッキー・アイナは、この好例といえる。彼女は公的な資格ではなく、製品の深い知識と率直なレビューを通じて専門性を高め、美容業界への長年の献身と、透明性、包摂性を推進する姿勢によって、信頼と信憑性を築いている。その結果、彼女が約200万人のフォロワーに推奨するブランドは、多大な恩恵を享受している。彼女の成功は、一貫した実体験が持つ力を示している。
一部のブランドは、新たなオーディエンスにリーチすることを目的に、そのインフルエンサーが本来活動している領域以外の分野で提携を試みることがある。たとえばボルボは、ラグジュアリーコンテンツで知られるファッションクリエイターのクリセル・リムを起用し、エコフレンドリーなラインのプロモーションを行った。しかし、彼女がそれまで持続可能性やモビリティに関する発信を継続して行っていなかったため、このキャンペーンはフォロワーや業界評論家からオーセンティシティに欠けるとの批判を浴びた。
対照的にキヤノンが、プロの写真家ではないものの同社のカメラを愛用していたライフスタイルブイロガーのエマ・チェンバレンとコラボレーションした際は、エンドースメント(推奨)が彼女の既存のコンテンツや経験と合致していたため、自然で信頼できるものとして受け止められた。筆者らの研究の一環で行ったインタビューによれば、このキャンペーンは成功を収めた。業界関係者も、彼女の率直なエンドースメントが「キャンペーンに信頼性とオーセンティシティを与え、フォロワーの共感を呼んだ」と評価した。
つながり:指標から双方向性へ
ブランドはインフルエンサーの価値を、「いいね」やシェア数、フォロワー数といった表面的な指標で測定しがちだが、双方向のつながりの重要性を見落としている。高いパフォーマンスを発揮するインフルエンサーは、単にコンテンツを配信するのではなく、ダイレクトメッセージへの返信やQ&Aライブの開催などを通じて、継続的な対話を行い、コミュニティを形成している。ある代理店の幹部は、「インフルエンサーを、崇拝の対象である『彫像』のように扱うのは非常に危険だ。彫像の行き着く先は博物館だ」と指摘している。
サプリメントメーカーのシュガーベアヘアが2016年にカイリー・ジェンナーと提携した事例は、リーチとつながりのトレードオフを象徴している。ジェンナーのセレブリティとしての知名度は数百万件のインプレッション(リーチ)をもたらした一方で、彼女にはウェルネスやサプリメントに関してオーディエンスと交流した実績(つながり)がほとんどなかった。フォロワーはこれに冷ややかな反応を示し(レディットでは「あらゆるセレブがシュガーベアヘアのビタミンを宣伝していた時代」としてミーム化した)、キャンペーンには真実味がなく、取引的だと捉えられた。このキャンペーンは数百万人にリーチしたが、結果としてオーセンティシティを犠牲にしたといえる。
より効果的な戦略は、能動的な双方向の交流を通じてコミュニティを構築しているクリエイターと提携することだ。たとえばセフォラは、「セフォラ・スクワッド」を通じてインスタグラムでQ&Aライブを主催しており、インフルエンサーがリアルタイムで個別の質問に答え、アドバイスを提供している。これによりフォロワーは、受動的な視聴者ではなく能動的な参加者になる。日常の美容愛好家をコンテンツクリエイターへと変えるこの手法は、さまざまなプラットフォームで数千件もの製品レビューやチュートリアルを生み出し、表面的な数値だけでは捉えきれない信頼と信憑性を築いている。
誠実さ:隠された動機から明確な開示へ
オーディエンスは、クリエイターが信念を持たずに製品を「宣伝」しているのを即座に見抜く。しかし、意外なことに、透明性が保たれていれば、消費者は必ずしもインフルエンサーがみずからの利益を追求することを否定しない。
マーケティング幹部へのインタビューでは、成功しているインフルエンサーによるポッドキャストの多くは、パトレオンなどのプラットフォームを活用して、金銭的なインセンティブを完全に透明化していることが明らかになった。偽りのない透明性はオーディエンスの共感を呼び、インフルエンサーのオーセンティシティを高めると幹部らは考えている。また、自分たちの立場を認める姿勢を少し見せるだけで、ブランドをより人間的で信頼できる存在に感じさせる。それはメッセージを弱めるどころか、ブランド、インフルエンサー、オーディエンスの結びつきを強固にする。
筆者らの研究によれば、インフルエンサーのフォロワーが否定的な反応を示すのは、単なるカテゴリーのミスマッチだけでなく、価値観の妥協を感じ取った時だ。誠実さを見せる、つまり価値観やフォロワーの最善の利益に沿って行動することは、オーセンティシティの重要な要素だ。
もう一つの好例は、美容インフルエンサーのサマンサ・ラブンダールである。彼女は自身の価値観にそぐわない契約は拒否している。「たしかに、他のことをすればもっと稼げるだろう。でも、それはいまの活動よりも私を幸せにするだろうか。私の答えはノーだ」と彼女は説明している。彼女は業界のベストプラクティスに従い、製品が提供されたものか、アフィリエイト報酬を得ているかを明示している。これは、オーディエンスを単なる収益化の対象ではなく、コミュニティとして扱っていることの表れだ。
独創性:台本によるコントロールからストーリーテリングの自由へ
インフルエンサーは、独自の語り口と表現のスタイルによってオーセンティシティを構築していることがわかった。ストーリーテリングにおける独創性はオーセンティシティのカギとなる要素だが、ブランドは硬直した台本を押しつけたり、セールスポイントを詰め込みすぎたりしがちだ。あるインフルエンサーは、動画に多数の宣伝文句を盛り込んでほしいというクライアントの要求を断った理由について、「自分たちのクリエイティブの方向性に沿わなかった」と語った。問題は単なるクリエイティブ面での不満ではなく、自分たちの本当の声やスタイルとの乖離を感じたことにあった。
守秘義務のため名前は明かせないが、別のインフルエンサーは、スターバックスに対して従来の広告ではなく、自宅でのコーヒーの淹れ方を紹介するインスタグラムのストーリーを提案した。自分のスタイルを貫くことで独創性を維持した結果、このオーガニックなコンセプトは最終的に期待を上回る成果を挙げた。「それは広告ではなく、コンテンツだ」とこのインフルエンサーは語った。
米日用品大手コルゲートもまた、ティックトックコメディアンのサブリナ・ブライアーをキャンペーンに起用し、独創性を効果的に活用した。彼女のトレードマークである皮肉をコンテンツに注入することで、ブランドイメージを保ちつつ、記憶に残るものをつくった。
ブランドが、インフルエンサー主導のキャンペーンに自社のメッセージや商品を過剰に入れ込もうとすると、逆効果になることがある。炭酸飲料ブランドのポッピは、スーパーボウルのキャンペーンでこの手痛い教訓を得た。彼らは複数のインフルエンサーの自宅に自動販売機を送ったが、結果として投稿された内容はどれも似通ったものだった。
メディアは、個人の自宅に自販機を送るという手法を「贅沢すぎる」「現実離れしている」「演出が過剰」と批判した。あるティックトックユーザーはこのパフォーマンスを「消費者の感覚を無視した茶番」と呼び、「アイコニックなマーケティング」には、見せかけの豪華さ以上の純粋な努力が必要だと主張した。ポッピの共同創設者であるアリソン・エルズワースは、この論争を受けてティックトックに投稿し、コミュニティからの正直なフィードバックに感謝を述べた。
生成AIの時代においても、独創性が損なわれるとは限らない。筆者らの研究対象のあるポッドキャスターは、カスタムGPTを使用してインタビュー用のブリーフを作成したり、ゲストについて素早く学んだりするなど、コンテンツを強化するためにAIを活用していることを明かした。独創性を際立たせつつ、価値を高めているのだ。クリエイターがクリエイティブ面の主導権を握ることで、優れたストーリーテリングだけでなく、より信頼性が高く持続的なブランドとのつながりが生まれる。
透明性:完璧なメッセージから現実的な反応へ
消費者は完璧さを期待してはいないが、正直であることは期待している。しかし、多くのブランドは、欠点を認めたり競合他社の商品を見せたりすればメッセージが弱まるといまだに恐れている。皮肉なことに、このように過度に洗練させようとする本能は、しばしば裏目に出て、インフルエンサーの信頼性とブランドの信憑性の両方を損なう。
インフルエンサーのビクトリア・マグラスは、ヘアケアブランドのレッドケンのヘアアイロンを宣伝しつつも、私物のダイソンのドライヤーも使い続けるという柔軟なスタイルを取り、どちらも自身の日常に欠かせないことを示した。それにより、メッセージがよりリアルで信頼できるものになった。
小さな欠点を認めることで、肯定的な主張の信憑性が高まることもある。筆者らの研究では、消費者が些細で重要性の低い否定的な情報に触れると、それ以上に欠点を探し続けようとしなくなることが示されている。つまり、逆説的ではあるが、小さな不完全さが不確実性を減らし、オーセンティシティを構築するのだ。
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専門性、つながり、誠実さ、独創性、透明性という5つの特性が整合性を失うと、オーセンティシティと信頼が損なわれる。しかし、ブランドがこうした緊張関係を認識し、意図的に管理すれば、インフルエンサーマーケティングは単なる取引を超え、変革をもたらすものになる。オーセンティシティこそが価値を左右する環境において、こうした不一致を管理することは不可欠だ。
"How to Do Influencer Marketing That Customers Actually Trust," HBR.org, December 08, 2025.







