CEOの不適切な決定にうまく異議を唱える方法
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サマリー:不確実な環境下では、CEOは短期的施策に傾きがちだが、それは長期的な競争力を損なうリスクを伴う。重要なのは方針に従うことではなく、将来の優位性を守りながら現在の効率性を実現することである。本稿では、短期的プレッシャーの中で長期的価値を守るための実践的なアプローチを提示する。

CEOが短期的利益を優先しすぎる時

 CEOの使命の軸が「将来を見据えて構築する」ことから「今四半期の結果を出す」ことへと移ると、非常に優れた戦略でさえ、組織の長期的競争力を損なうことがある。投資家、取締役会、そしてすぐに結果を出すことを求めるインセンティブ構造のプレッシャーにさらされる中で、善意のCEOはしっかりと手を打っていることを示すために、ついコスト削減や組織再編、新商品の発売延期などの目に見える短期的施策に走りがちになる。こうした対策は短期的には収益を向上させるかもしれないが、時間とともに累積する、勢いの喪失、信頼の低下、トップ人材の静かな離職などの隠れたコストをしばしば発生させる。

 マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によると、長期的視点を持つ企業は短期的利益を優先する企業に比べて、収益の成長速度が約50%高く、雇用の創出もはるかに多い。だが、こうした利点は、当座の要求を何とか乗り切ろうとするリーダーの目には映りにくい。短期的な切迫感はCEO個人にとどまらず、組織全体に連鎖的に伝わっていく。はざまに立たされるシニアリーダーにとって、問題はCEOに従うかどうかではなく、当面の制約の中で業務を遂行しながら、どのようにして組織の未来を守るかということだ。

 筆者らのクライアントのグローバルメディア企業で最高プロダクト責任者を務めるトム(仮名)は、まさにその問題に直面した。彼の会社のCEOが四半期目標の収益を達成するために、R&D予算を削減し、雇用凍結を発表し、主力商品の発売を延期した時、トムは差し迫ったリスクを察知した。それはイノベーションのパイプライン、顧客の信頼感、会社が競争を勝ち抜くために必要な能力の低下である。

 筆者らは似たような状況の企業に助言を提供しながら(フェルナンデスはエグゼクティブアドバイザーとL&D〈人材開発〉専門家として、ランディスはエグゼクティブとチームのコーチとして)、リーダーが短期的プレッシャーの下で業務を遂行しつつ、長期的価値を守るために役立つ、4つの戦略を特定した。

1. 長期的な影響を短期的な指標に置き換える

 経営幹部は、測定可能で収益化できるものに反応する。予算引き締めの際、最初に削減の対象になりやすいのは、R&D、L&D、ブランドマーケティング、イノベーションなどの「長期的視点」に立つ取り組みだ。だが、マッキンゼーの「成長の3つの展望」のフレームワークが示すように、短期・中期・長期の各目標に継続的に投資する企業は、収益性とレジリエンスの両面で他の企業を上回っている。

 CEOが新商品発売の一時停止を命じた際、トムはその決定をコスト節約の手段ではなく収益性のリスクとして捉え直した。彼は過去2年間の商品と販売のデータを用いて、発売を1四半期遅らせると顧客維持率が12%低下し、離れた顧客を取り戻すためのマーケティングコストが15%増加することを実証した。この知見によって、話の軸が「イノベーションは必ずしも必要ない」という見方から「商品の勢いが収益を守る」という見方へと変化した。トムは顧客満足度や商品開発のスピードといった先行指標を、市場占有率や顧客維持率などの遅行指標のアウトカムと関連づけることによって、現在の尺度で未来を可視化したのである。

 またトムはシナリオモデリングによって、イノベーションの遅れ、ブランド価値の低下、人材の流出が、短期的な「ストレス指標」になりうることを示した。それによって、イノベーションをコストセンターから企業価値を高める資産として位置づけ直すことができた。

プロのアドバイス:長期的な優先事項を短期的な成果指標に変換しよう。顧客維持率、従業員の離職率、予測精度、納期の信頼性などの指標を用いて、今日の規律が明日のリスクを軽減することを示し、未来を可視化する。

2. 抵抗勢力ではなく、リアリストの連合を形成する

 プレッシャーが高まる時期は、異議を唱えることが忠誠心の欠如と誤解されやすい。こうした局面で影響力を生むのは、議論ではなく、足並みを揃えることだ。あなたの信用は、長期的リスクによってCEOが最も重視するアウトカムを脅かす可能性を示せるかどうかにかかっている。それを成功させるカギとなるのは、共通のパーパスと説明責任に基づく連合を形成することだ。

 効果的な連合は、足並みの一致、信用、タイミングの指針となる5つの原則に依拠している。

1. 参加者の選別:企業の決定をコントロールしたり影響を与えたりする人だけを巻き込む。問うべきこと:「このアウトカムに本当に影響力を持つのは誰か、貴重な異なる視点を持ち込めるのは誰か」

2. 共通の利害関係:個人的な優先事項ではなく、共通のリスクを軸にして課題を捉える。問うべきこと:「私たちを結びつける共通のアウトカムは何か、どうすれば、私の関心事を彼らにとって重要な結果に関連づけられるか」

3. 意識的なタイミング:計画立案や予算のサイクルで、影響力が最大になるタイミングに合わせて訴えかける。問うべきこと:「実際の決定がなされるのはいつか、どうすればそれまでに足並みを揃えられるか」

4. 多層的なアクション:部門にとっての意味を投資家や顧客のアウトカムに関連づける。問うべきこと:「この取り組みは、どのように私たちの戦略的優先事項、投資家のナラティブ、顧客への約束を進展させるか」

5. 強力な連携:安定していて、データに裏づけられ、見える形でのコミュニケーションを維持する。問うべきこと:「状況が変化する中で、連合のメンバーの足並みを揃え、情報を共有し、モチベーションを維持するためにはどうすればよいか」

 リーダーがこれらの原則を適用すると、フラストレーションを抱えた集団は「統一戦線」になる。CEOはばらばらな異論ではなく、エビデンスに基づく一つのメッセージを受け取ることになる。

 筆者らは、グローバル消費財企業のCOOをコーチしたことがある。同社では利益目標の達成のために、CEOが複数年にわたるデジタル・トランスフォーメーション(DX)を休止していた。COOはその決定に対するフラストレーションをエスカレートさせないで、CFO、CHRO(最高人事責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)を集めて機能横断的な連合をつくった。それぞれのリーダーが異なる視点からリスクを指摘した。財務の視点からは自動化の遅れによるコストを数値化し、人事の視点からはテクノロジー職の離職率の増加を予測し、マーケティングの視点からは顧客獲得への影響を提示した。

 総合すると、彼らの分析はDXの休止を財務目標の達成ではなく、競争上のリスクとして、捉え直していた。この分析に刺激されたCEOは、一部署に限定して規模を縮小した、第1段階のパイロットプロジェクトを承認した。この歩み寄りによって、必要不可欠な能力が維持され、勢いが失われることなく、予算とチームへの短期的なプレッシャーが緩和された。

 トムも似たような方法を取った。財務、オペレーション、販売の各部門と足並みを揃えるために、初期のデータを共有し、各部門にそれぞれのリスクを特定するよう依頼した。そして、その知見を統合し、顧客離反から収益目標の未達に至るまで、発売延期による下流コストを数値化した。トムの連合の統合的な分析は、商品を減らすことを節約のチャンスではなく戦略的負債として位置づけた。

プロのアドバイス:連合は、企業のリスクを個人的な優先事項ではなく、共通の目標と結びつけることで信用を獲得する。あなたのメッセージを強化し、共通のアウトカムで一致できるステークホルダーを見極めよう。

3. 人材とイノベーションのエンジンを守る

 企業がイノベーションや能力構築への投資を大幅に削ると、短期的な負担軽減と引き換えに長期的な衰退を招くという事実は、研究で一貫して示されている。マッキンゼーによる業績上位企業の分析では、景気低迷期でもイノベーションへの投資を継続した企業は、次の景気サイクルで、他の企業を30%以上も上回る業績を上げている。同様に、世界経済フォーラムもCEOに対して、市場の不安定期に「何としてもイノベーション人員を守る」ことを勧め、最終的に回復を促進するのは、資本ではなく能力だと強調している。

 とはいえ、プレッシャーがかかる局面では、コアビジネス以外の投資が最初に切り捨てられやすい。商品開発、マーケティング、L&Dは「必ずしも必要ではない」と位置づけられている。だが、これらは、状況が安定した局面で、企業の成功を左右するシステムなのだ。

 トムは、R&Dの削減は短期的プレッシャーを緩和するかもしれないが、企業の競争力を損なうことを理解していた。彼は自分の役割をプロダクト責任者から、企業の競争力となる知識・人材・創造性を守る、能力の守護者へと、捉え直した。トムは制約の中でも社員が能力開発を続けられるように、FRAMEモデルに従った。このモデルは、筆者らがコーチングとアドバイザリー業務を通して開発したもので、リソースに焦点を当て、エンゲージメントを維持し、長期的価値を守るための5つのステップを説明している。

 左端の列はこのモデルのステップを示しており、内容は常に変わらない。他の列は、トムがどのように各ステップを自分の状況に応用したかを記している。あなたも同じ原則を自分の置かれた状況に応用できるだろう。

 トムはコスト削減の命令を、能力構築の機会に転換した。トムのチームもトムが連携したリーダーたちも、安定とはただじっとしていることではなく、最も重要なことにいっそう力をそそぐことであると、はっきりと理解した。人材とイノベーションのキャパシティを保護することによって、四半期をただ乗り切るだけでなく、市場が回復した時に主導的な立場を維持できるようにした。

プロのアドバイス:コストのプレッシャーが強まる時期は、組織の核となる能力を保護しよう。価値を創造するスキル・システム・文化を維持することは、未来の不安定性に対する最大の保険なのだ。

4. 数値指標とストーリーテリングによって、戦略的忍耐を強化する

 経営幹部が長期的展望を明確に伝えるならば、短期的に不安定な状況においても自信を示すことができる。マッキンゼーエデルマンの調査は、長期的な優先事項を一貫して強化する企業は、より高い信頼、より強い投資家の信頼、より高い従業員エンゲージメントを得られると強調している。データは信頼性を生み、ナラティブは確信を生む。

 トムが新商品の発売中止に代わる案をCEOに提案しに行った時、どのようにこのことを実践したかを思い出してほしい。彼は議論するのではなく、CEOの目標である利益率の保護とリスク緩和を軸にして、自分の計画を捉え直した。いくつかの明確なデータを使って、範囲とタイミングを少し調整すれば、同じだけの節約が可能であり、顧客の信頼と将来の収益も維持できることを示した。トムはそのストーリーを、イノベーションの保護としてではなく、収益性の規律ある道筋として語った。この転換が功を奏し、CEOは修正された発売計画を承認した。トムのチームは長期的な優先事項を諦めずに計画を遂行する余地を与えられ、それと同時にCEOも財務的に先を見据えた慎重な判断だと自信を持って説明できるナラティブを手に入れた。

 リーダーは、ストーリーテリングを通して今日の規律を明日の成功に結びつけることで、トムと同じことを実現できる。

CEOの関心に合わせて進捗状況を示す。顧客ロイヤルティやオペレーショナル・エクセレンスなど、CEOの優先事項に関連する具体的なアウトカムを強調する。問うべきこと:「今日の私たちの決定が、明日に成果をもたらすことを実証するエビデンスは何か」

指標のバランスを取る。パフォーマンスと持続可能性の両方が明らかになる先行指標と遅行指標を追跡する。問うべきこと:「短期的な結果と長期的な健全性を同じ厳密さで測定しているか」

行動にスポットライトを当てる。組織のレジリエンスを高める行動を称賛する。組織の壁を超えた協働、着実な改善、決めたことを最後まで遂行する規律など。問うべきこと:「私たちが、成功するかどうかだけではなく、どのように成功するかに投資していることを示す行動は何か」

 指標とナラティブを組み合わせてパフォーマンスとパーパスの両方を提示することによって、リーダーは長期的展望を可視化し、それを感情的にも納得できるものにすることができる。そうなれば、組織は四半期を超えた視点で思考できるようになる。

プロのアドバイス:パフォーマンスのデータとナラティブを組み合わせて、信頼を形成しよう。数値は説得力を与え、ストーリーはリーダーシップチーム全体に一致と信頼感を生み出す。

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 短期志向が支配的になった時、最も有能なリーダーは継続性の守護者になる。学習、イノベーション、顧客価値が消滅しないように保護するのだ。守り抜くことは反抗する行為ではない。企業の未来に対する規律ある忠誠心だ。問われているのは、CEOの指示に従うかどうかではなく、今日の効率性が明日の競争優位を破壊するのをいかにして防ぐかということである。


"How to Push Back Against Your CEO’s Bad Decision," HBR.org, December 15, 2025.