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業績回復を牽引した「グローバル・シャープトップ」戦略に込めた意味
編集部(以下色文字):花王は、2019年12月期まで7期連続で過去最高の営業利益を達成するなど、好調な業績を維持してきましたが、2020年12月期には営業減益へと転じました。長谷部さんはその直後の2021年1月に社長に就任され、構造改革の舵取りを担われています。当時の花王はどのような課題に直面していたのでしょうか。
長谷部(以下略):当時は中国人観光客によるインバウンド需要がサニタリーや化粧品事業を牽引し、業績は極めて堅調でした。花王は、研究開発力とマーケティング戦略の二大看板で成長を遂げてきましたし、よい商品をつくっているという自負もありました。しかし、いま振り返れば、その好調さに甘んじ、なかでもマーケティングに関しては本来の役割である「自然に売れる仕組みづくり」を疎かにしていた面があったかもしれません。
そうした中、コロナ禍でインバウンド需要が失われ、さらにはウクライナ情勢の悪化による物価高が追い打ちをかけました。私たちの商品は多くの原材料から成るため、コストの増加は避けられません。本来であれば、コスト上昇分を価格転嫁すべきですが、日本には日用品の値上げを躊躇する商習慣があり、それが業績回復の大きな壁となりました。外的要因による危機でしたが、こうした事態への準備を怠っていたと言わざるをえません。
また、当時の私たちは国内市場への依存度が高く、日本の事情を一身に受けてしまう体質にありました。世界中の消費者に商品が届く体制が整っていれば、グローバル市場が経営を支える強固な基盤になっていたはずです。そこで、これを機に、グローバルでの事業展開を柱とする抜本的な構造改革へ踏み出す決意を固めました。
2023年以降の構造改革を経て、業績は右肩上がりとなり、V字回復を実現されています。社長就任後、グローバル展開を含め、具体的にどのような改革に取り組んできたのでしょうか。
さまざまな施策を講じましたが、根底にあるのは「人の力の再構築」です。社員一人ひとりの力が結集できていないのだとすれば、それは経営の責任に他なりません。組織のあり方や進むべき方向が明確でなければ、現場は迷い、立ち止まったまま時を過ごしてしまいます。どうすれば社員の心をつかむことができ、それを花王の力へと変えていけるのか。まずはその点を突き詰めました。
そのうえで柱に据えたのが「グローバル・シャープトップ」戦略です。私の経営の先輩に「ニッチトップ」戦略を掲げられた方がいらっしゃいます。ニッチトップとは、誰も関心を寄せなかった隙間(ニッチ)に光を当て、そこで頂点を目指す素晴らしい考え方です。ただ、その方は本来、単なる隙間を狙うだけでなく、市場のど真ん中の領域を狙う重要性も表現したかったとのことでした。
そこで同じ志を持っていた私は、「シャープトップ」という言葉でこれを定義し直すことにしました。「シャープ」は、狙いを定めた領域に対して切り口を鋭角に研ぎ澄まし、そこでは絶対に負けない領域を築くという考えを示しています。その領域で必ずトップを取り、かつその視座を世界規模へ広げていくという決意を込めて、「グローバル・シャープトップ」という造語を掲げました。
「グローバル・シャープトップ」に関して、なぜ「グローバル」の後に中黒(・)があるのかと不思議に思われる方もいるかもしれません。ただ、これには明確な理由があります。「シャープトップ」という考え方は、展開する場所をグローバル、日本国内など、状況に応じて柔軟に選択できます。戦う場所がどこであれ、定めた領域で確実にナンバーワンを獲りにいく。そうした戦略の機動性を表現したかったのです。
導入当初、社員が皆、この言葉を見て戸惑ったのは間違いありません。しかし、社員それぞれが、この言葉を自分なりに受け止めて、事業ごとに目指すべき方向性は何かを考え始めてくれました。
ありふれた言葉、聞き流されてしまうような言葉では、人は深く考えません。対して、一見すると難解な言葉を投じることで、各部門がその意味を自分たちの組織に適した言葉に「変換」する作業が起きました。そのプロセスこそが、結果としてグローバル展開を着実に進展させる原動力になったと考えています。







