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ファミリービジネスの強みを活かしきれていない
ファミリービジネスの経営者は、自分たちのビジネスを「プロフェッショナル化」しなければならないという重圧を感じ、非親族経営の企業の組織構造や行動様式を取り入れようとしがちだ。ただし、これをやりすぎると、自分たちの最も特徴的な競争優位を意図せずに破壊しかねない。すなわち、親族経営において自然に生まれる信頼、長期的なコミットメント、世代を超えた関係性である。「ファミリネス」と呼ばれるこれらの特性は、しばしば過小評価され、克服すべき弱点として扱われがちだ。親族の関与が、強みではなく負債であるかのように見なされている。
しかし、ファミリービジネスに関する筆者らの研究から、別の針路が浮かび上がった。ファミリービジネスがみずからのアイデンティティを意図的に活用し、他の親族経営の事業パートナーとの関係を深めていく時、強力な戦略的優位が生まれるのだ。筆者らはこれを「ファミリー・トゥ・ファミリー(F2F)戦略」と呼ぶ。これは、競合には容易に模倣できない方法で、親族経営同士の信頼と、世代を超えた協働を強化する体系的なアプローチである。
親族経営のパテック・フィリップは、時計は所有するものではなく「次の世代のために預かっているにすぎない」という有名な言葉で、この理念と家族に仕える姿勢を体現している。この世代をまたぐ論理を、F2Fはビジネスエコシステム内の関係性へと拡張する。
筆者らが2年におよぶ調査で70回以上のインタビューを行ったギリシャの塗料メーカー、ヴィテックス(筆者の一人がCEOを務めている)は、この概念を実践している。2014年にギリシャが経済危機に陥った時、ヴィテックスの2代目CEOアルモディオス・ヤニディスと兄弟のジョンは、経営の「プロフェッショナル化」を目指すアプローチから父スタブロスの創業理念に回帰すべきだと悟った。
経営陣は、販売チャネルの99%を占める親族経営のディーラーと、供給基盤の60%を構成する親族経営のサプライヤーとの関係を再構築した。このF2F戦略は、その後の10年間で目覚ましい成果を上げた。売上高は3倍になり、黒字化を果たして、市場のリーダーの地位を確立したのだ。これは経営の専門性を後退させたからではなく、ファミリービジネスに特有の強みを、より意図的に活用した結果である。
この事例は、世界のビジネスの大部分を占めるファミリービジネス(国連によると世界の雇用の60%、GDPの70%を担う)が成功するためには、企業型組織へと進化しなければならないという通説に疑問を投げかける。意図的なリーダーシップの下で、「ファミリネス」は高いパフォーマンスを生み出すケイパビリティとなり、顧客やサプライヤーとの信頼関係を構築し活用することによって成長とレジリエンスを促進する。F2F戦略は、ファミリービジネスが非親族経営の企業に対して潜在的に持つ信頼の優位を、実践的に活用する基盤となる。
28カ国3万人以上を対象としたエデルマンのトラスト・バロメーター調査では、70%の人がファミリービジネスを「正しいことをする」と信頼している一方で、上場企業への信頼は58%だった。一方、PwCのファミリービジネス調査によると、多くのファミリービジネスが、この持って生まれた優位性を信頼の構築に活かしきれていない。具体的には、米国のファミリービジネスの78%が信頼の重要性を認識しているが、「自分たちは顧客から全面的に信頼されていると確信している」のは52%に留まる。
F2F戦略を通じてファミリーのアイデンティティを前向きに受け入れることは、このギャップを埋めて、ファミリービジネスが競争優位の中核となる要素を活用しやすくする。
F2F戦略ガイド:ファミリネスを戦略的優位に転換する
この優位性を実際に活用するカギは、企業の親族的な性質を負債ではなく資産として扱い、顧客やサプライヤーとの間に拡張された家族関係を築くことだ。世界の企業の大半が親族経営である以上、ファミリービジネスの顧客やサプライヤーの中にもファミリービジネスが一定数ある可能性は極めて高い。ファミリネスという共通の基盤を活用することで、共有された価値観と長期的思考に基づく、相互に利益のある関係を構築できる。そのためには主に4つの行動が必要になる。
1. ファミリーのアイデンティティを前面に出す
信頼がますます稀少なものになる時代において、ファミリービジネスは自分たちのアイデンティティを明確に打ち出すことで差別化を図るべきだ。まず、顧客とサプライヤーのうち、どこが親族経営かを確認して、複数世代にわたり事業を継続していて価値観が一致する相手を優先する。過去の世代が関係を築いたものの、途切れている「休眠状態」のファミリー間のつながりは、隠れた戦略的資産であることが多い。こうしたつながりを組織全体で体系的に復活させることは、新規に市場を開拓するより迅速に成果をもたらしうる。
他のファミリービジネスと関わる際、リーダーは真摯なやり取りを通じて誠実な親族的コミットメントを示し、価値観を行動で裏づけて、偽りの「ファミリーウォッシング」に陥らないようにする。取引の長さ、後継世代の参加、取引を超えた協働といった指標で、関係性の深さを測る。
2. F2Fの価値観をエコシステム全体に浸透させる
従来のビジネスモデルは、パートナーを犠牲にして利益を優先してきた。これに対し、F2F戦略を採用する企業は、すべてのタッチポイント(顧客接点)でファミリーの原則を一貫して伝えるように従業員を教育する。顧客やサプライヤーは、取引相手ではなく、長期的なイノベーションの協働者として扱われる。そのためにはCSR(企業の社会的責任)プロジェクトから知識共有まで、売上げを超えたイニシアティブを共同で設計し、共通のビジネスファミリーの一員であるという帰属意識を育む必要がある。
3. 多世代にわたる絆を育む
強固なF2F関係は、世代間の架け橋を積極的に構築することにより、経営陣の世代交代を乗り越えて持続する。たとえば、パートナーであるファミリービジネスの後継者を育成したり、ファミリー間でインターンシップを提供したりできる。こうしてパートナー企業の後継者に実戦的な経験を積ませ、自社の次世代も相手企業から学ぶ機会を得る。このような実践は、早期に信頼を育み、競合が模倣できない世代間の連続性を強化する。
4. ファミリネスを保ちつつ経営をプロフェッショナル化する
F2Fの規模を拡大するには、ファミリーの価値観を受け入れ、ファミリーを代表して信頼を拡張できるプロフェッショナルな経営者が必要である。つまり、技術的スキルだけでなく、F2Fの原則を真に体現できる経営幹部を採用するのだ。重要なパートナーシップに関する意思決定の権限を、彼らプロフェッショナルな経営者に委ねることで、信頼はファミリーの枠を超えて広がる。このように個人に権限を与えつつ、ファミリーの価値観、長期的思考、業務効率のバランスが取れた意思決定の構造を整えて、個人の接点を犠牲にすることなく規模の拡大を実現できる。
F2Fの実践:ヴィテックスにおける信頼の再構築と共有価値の創出
F2F戦略の中核は、顧客を取引先ではなく、多世代にわたるファミリーのパートナーとして再定義することだ。ヴィテックスでは、自社の販売チャネルのパートナーの多くが複数世代にわたり数十年の歴史を共有するファミリービジネスであるにもかかわらず、関係が途切れたり、単なる取引関係になったりしていたことに経営陣が気づいて、この転換が始まったのだ。
関係を再構築するために、アルモディオスは体系的なアウトリーチプログラムを主導し、深い関係を結んでいたが疎遠になったディーラーや、競合他社と提携している親族経営のディーラーとも再びつながる努力をした。それぞれと独自の対話を行い、調達のやり取りを共通のコミットメントへと発展させ、感情的な結びつきを再燃させて、長期的な支援をあらためて確認したのだ。
アルモディオスは3年をかけて1000回以上、顧客を訪問し、同時に商業部門の責任者を務めるバシリス・ブラホヤニスがF2Fのアプローチを拡大した。市場環境が苦しい中で売上高は50%増加し、疎遠になっていたパートナーが復帰して、新たなディーラーも加わった。会社は「ヴィテックス・デイ」のような取り組みを通じて、F2Fの考え方を制度化した。この日は年に1回、従業員がディーラーとともに過ごして知見を共有し、組織の複数部門をまたいでフィルターのかかっていない情報の流れと協働を可能にした。
あるディーラーは、ヴィテックスは単なるサプライヤーではなく「最良の相談相手」だと語る。製品だけでなく、ビジネスのあらゆる課題について信頼できるアドバイザーだ。こうした関係の構築には戦略以上のものが必要だった。すなわち、適切な人材が求められたのだ。ヴィテックスは営業チームの採用に当たり、まず人格とF2Fの価値観を重視し、続いて実績を評価する。顧客と接するすべての従業員が、その原則を真に体現できるようにするためだ。
信頼が深まるにつれ、パートナーはヴィテックスを自社の事業の延長として扱うようになった。地域社会の取り組みを共同で主導し、病院や学校へ抗ウイルス塗料を寄付する「ペイントバンク」プログラムを支援する。ある長年のディーラーが財政難に陥った際、ヴィテックスは取引関係から得られる10年分の利益に相当するつなぎ融資を提供した。経営を立て直したディーラーは融資を返済し、ヴィテックスのF2Fの強力な支持者になった。
こうした関係は具体的な戦略的利益をもたらす。パートナーは自分たちが取引を迂回されるかもしれないと心配することなく、ヴィテックスのプリセールスエンジニアを大型プロジェクトに迎えるようになった。F2Fパートナーは協働を通じて比類のない技術支援を提供しつつ、地域での関係を強化している。顧客の意見を反映して共同開発された製品は、いまやヴィテックスの売上げの67%を占める。つまり、F2Fの信頼が、共有された学びと部門横断的でオープンなコミュニケーションを通じてイノベーションを推進しているのだ。
ヴィテックスはF2Fのアプローチをサプライヤーにも拡大し、長年の関係をイノベーションの原動力に転換した。多くのサプライヤーも複数世代にわたるファミリービジネスであり、ヴィテックスは彼らの後継世代の育成の場にもなった。サプライヤー上位5社のうち3社は、次世代リーダーを1年間のインターンシップとしてヴィテックスに派遣し、世代を超えた結びつきを深めるとともに共有の学習機会を創出した。
あるインターンはヴィテックスのR&Dチームに加わり、自分の会社が供給している原材料を配合で最適に活用する方法を改善した。この商業的イノベーションは彼女の修士論文の基盤となり、共同執筆の学術論文も発表された。アルモディオス自身も重要なサプライヤーの前世代に指導を受けており、彼の父親もまた、そのサプライヤーの父親を指導していた。F2F戦略は、経営のプロフェッショナル化が進んだ時代に失われかけた、こうした関係を再生させる助けとなった。
ヴィテックスの環境に優しい塗料が高温の保管環境で劣化するという問題が生じた時、R&Dチームは、持続可能性を損なうが標準的な技術的解決策を見出した。しかし、ヴィテックスは妥協するのではなく、長年の取引があるプラスチック容器のサプライヤー(彼らも親族経営の企業である)に協力を求めた。サプライヤーはあえて契約を交わさずに、相互の信頼にもとづいて特注の包装ソリューションの開発に投資した。彼らが開発した革新的で持続可能なデザインは問題を解決し、F2Fパートナーシップに特有の力を実証した。
ここに、CEOにとって明確な原則がある。パートナーであるファミリービジネスの現世代と次世代に投資することは、形式的な合意だけでは実現できないイノベーションを生み出すのだ。こうした世代を超えた絆は、リスクテイク、迅速な問題解決、共同の創造を可能にし、競争優位の源泉となりうる。
F2Fの競争優位性
一般に企業は形式的なプロセスで関係を構築するのに対し、F2FはファミリービジネスのDNAを活用する。すなわち、個人の評判、世代を意識した思考、価値観に基づく意思決定である。
筆者らの調査では一貫して、模倣が困難な3つの特性が明らかになっている。
・親族レベルの相互のコミットメント。F2Fは契約を超えた絆を生む。ディーラーは単に製品を流通させるだけでなく、その積極的な支持者となる。この共有された当事者意識は、摩擦を減らし、協働を促進し、忠誠心を高める。これらの効果は、自律的に行動する従業員によってさらに高まる。ヴィテックスのネット・プロモーター・スコアは4年間で50%上昇し、新規ディーラーの獲得数は4倍に増えた。
・継承されるビジネス関係。F2Fの結びつきは世代を超えて続き、不確実な時代に安定をもたらす。コロナ禍に競合他社が沈黙する中、ディーラーは「ビジネスの家族」としてヴィテックスを頼った。家族的な雰囲気のオンライン会議では、ロックダウンの規制が、DIYブームに対応するディーラーをどのように制約しているかが明らかになった。ヴィテックスは彼らに代わって政府当局に働きかけ、営業時間の延長を実現させた。
・迅速な意思決定。F2Fのパートナーは官僚的な手続きを回避して、迅速に問題を解決する。このことは新しい容器の事例や、サプライヤーの次世代のインターンと共同開発したイノベーションが証明している。ヴィテックスは社内でもこのアジリティ(機敏性)を支援し、経営執行委員会を設置して、家族的価値観を維持しながら意思決定を加速させている。
これらの強みが相まって、競合には模倣が難しい関係資本を形成する。数十年にわたって共有された価値観を基盤とし、世代を超えて強化されるF2Fは、ファミリービジネスならではの強力な戦略的能力である。
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ファミリービジネスのCEOやシニアリーダーは、F2Fの関係性を持続可能な競争優位の源泉に転換できる。危機から市場のリーダーへと成長したヴィテックスの歩みは、戦略的に構築されるファミリネスが、成長、信頼、イノベーションを駆り立てる資産になることを証明している。
ファミリービジネスが世界の企業の大半を占めるいま、F2Fは産業全体に影響を及ぼしうる。ファミリービジネスのリーダーが問われているのは、もはやファミリネスを受け入れるかどうかではない。取引思考にとらわれている競合に勝るために、いかに迅速にF2Fを実践できるかが問われている。信頼が稀少なものになった現代の世界で、F2Fのリーダーシップの技を身につけた企業は、生き残るだけでなく繁栄するだろう。
"When Being a Family Business Becomes a Competitive Advantage," HBR.org, January 07, 2026.







