部下の成長を阻んでいるのは「器」か「スキル」か──成長段階の「現在地」を見極める方法
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サマリー:部下の現在地をどう見極めるか、成長を加速させる問いは何か、「器」と「能力」のアンバランスにどう向き合うべきか、そして未来のリーダー育成において何が決定的に重要となるのか──。本連載の第1回では、ハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガンとカート・フィッシャーによる成人発達理論をもとに、部下の成長段階を見極める際の2つの成長軸――「器」と「能力」を起点に、いかに部下育成とリーダー自身の発達を図るかについて解説した。今回からは4回にわたり、成人発達理論に基づいて、器と能力の発達プロセスを実践に落とし込むためのより具体的なアプローチを紹介していく。リーダーが明日から現場で使える視点と方法を、理論と実践の両面からわかりやすく解説する。

連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』第1回「部下の成長は『器』と『能力』の両面で考えよ」こちら

部下の「現在地」を見極めることから始まる

 リーダーとして部下たちの成長を支援する際、最初に直面する課題は、その部下が成長段階において「いま、どこにいるのか」という現在地を見極められるかどうかです。

 実際のところ、多くのリーダーは、部下の振る舞いや成果に対して違和感や課題感を持った時、すぐに助言を与えたり、スキル不足を補う研修に送り出したりしがちです。しかし、部下への成長支援が成果につながらない背景には、そもそも「何が原因なのか」を正確に捉えられていないという根本的な問題があります。上司であるリーダーが部下の現在地を誤って理解したまま介入すると、期待した変化は起こらず、部下のモチベーションが低下したり、リーダーへの信頼が揺らいだりすることすらあります。

 では、なぜ現在地の見極めが難しいのでしょうか。その背景には、人の成長に「器」と「能力」という2つの側面があることが関係しています。器とは、人としての認知構造の成熟度、物事への向き合い方、他者の見方、感情の保持力など、人格的な「度量」です。一方、能力とは、言語化できるスキル、業務遂行力、分析力、プレゼン力といった実務的・技術的な力を指します。この2つは互いに影響し合いますが、発達の仕方は異なるため、器と能力の成熟度や伸びしろを慎重に見極める必要があります。仮に両者を切り分けて評価できない場合、その人の現在地を見誤りやすくなります。

 たとえば、仕事のスピードが遅い部下に「もっと効率的にやってほしい」と指摘したとします。しかしその原因が、スキルの未習熟にあるのではなく、そもそも優先順位づけができない、あるいは曖昧な指示に対してみずから質問できないといった「器の発達課題」にあれば、いくらノウハウを教えても改善しません。一方で、器が十分成熟していても、業務に必要な知識や経験値が足りなければ、成果には結びつきません。

 このように、成長を妨げている要因がどこにあるのかを正しく把握することは、効果的な支援の前提条件なのです。「指示待ちなのか、自律的なのか」「他者視点を持てるのか、自己視点に固定されているのか」「スキルは備わっているのか、基礎から積み上げる必要があるのか」。これらをていねいに観察し、現在地を言語化できるリーダーは、部下育成の成功確率が格段に高まります。

 現在地を見極めるというのは、単に部下の長所・短所を把握することに留まりません。その人が「どの発達段階に立っているのか」「どのスキル階層にいるのか」を見抜き、その段階にふさわしい課題設定や支援方法を選ぶという、より精密な関わり方を指します。成長支援は、一律のアドバイスでできるものではなく、個々人の状態に合わせた発達課題の特定から始まるのです。

器の成熟度はどのように測れるのか

 器の成熟度を理解するための代表的な枠組みが、ハーバード大学教育大学院教授であるロバート・キーガンの「主体・客体理論」です。この理論では、人がどのように世界を理解し、自分や他者との関係を捉えているかを「発達段階」として説明します。成長とは、「いま主体として同一化しているものを客体として扱えるようになること」と定義されます。つまり、自分を縛っていた価値観や思い込みを、いったん外側から眺められるようになることが、器の拡大につながるという考え方です。

 ただし注意したいのは、成人発達理論はキーガンの理論だけを指すわけではないということです。成人発達研究には、ハーバード大学教育大学院教授のカート・フィッシャーによるダイナミックスキル理論、心理学者のローレンス・コールバーグの道徳発達理論、ジェーン・ロヴィンジャーの自我発達理論、スザンヌ・クック=グロイターとビル・トーバートのアクションロジックなど多くの系譜が存在します。キーガンはその中でも「意識の構造的発達」を扱う代表的な研究者であり、「器」という比喩を使う際には非常に相性がよいものの、本来は多様な理論の一角に位置づけられます。

 では、職場において人材の器の成熟度をどのように判断すればよいのでしょうか。ポイントは次のような観点です。