優秀な人材が定着する会社は何が違うのか
Rainer Puster/Getty Images
サマリー:人材が定着する企業と離職が続く企業の違いは、個別の施策や業界特性ではなく、人材マネジメントの一貫したシステムにある。シンガポールにある約1500社で働く100万人規模のデータ分析から、採用・報酬・昇進・定着が相互に補完し合う企業ほど、高い定着率と成果を実現していることが明らかになった。本稿では、人材定着を実現する統合的なシステムの設計原則を明らかにする。

人材マネジメントがシステムとして機能しているか

 優秀な人材が定着する企業と、そうでない企業を分かつものは何か。業界や企業規模、予算の違いではない。それは、人材マネジメントがシステムとして機能しているか否かにある。

 筆者らは、シンガポールの従業員100人以上の全企業を対象に、約1500社、100万人近い労働者の包括的な行政記録を分析し、この結論に至った。数年間にわたるすべての採用、昇進、賃金の変動を追跡したこの膨大なデータを用い、これらの企業を、雇用における以下の5つの重要な領域に関する12の具体的指標に基づいて評価し、スコアリングした。

・採用
・報酬水準
・昇進
・公平性
・定着率

 企業や個人による自己申告に基づく従来の調査とは異なり、このデータセットは労働者のキャリアの推移についての実態を浮き彫りにし、いつ、どのような経緯で離職に至るのかをかつてない精度で明らかにしている。

 分析結果が示すパターンは明確だ。同一職種の労働者であっても、雇用主の人材マネジメント次第で残留か離職かの判断は劇的に分かれる。筆者らのインデックスで上位20%に位置する企業の従業員は、下位20%の企業に比べ、1年を超えて定着する確率が2.2倍高く、賃金は3.4倍だった。この差を生んでいるのは外部環境ではなく、企業の選択だ。

 たとえば、定着率向上の手段として推奨されることの多い、学位要件の緩和を考えてみよう。これまでは、資格の上で劣っていても門戸を広げて採用すれば、一般的な採用基準に該当しない経歴の人材はその恩に報いて長く働き続けるという議論がなされ、筆者らの過去の研究もその相関を示唆していた。

 しかし、極めて詳細な今回の新たなデータは、より複雑な現実を示している。学位要件の緩和による定着率向上の恩恵を受けているのは、一部の企業に限定されていた。要件を緩和した企業の45%では、定期的な採用の後に急速な離職が続く「回転ドア現象」が起きており、高い定着率を実現できているのは22%にすぎない。

 同様に、雇用の他の側面で補完的な施策を講じずに競争力のある賃金のみを提供しても、従業員の長期的な忠誠心を得ることはできない。また、透明性のある基準を欠いたまま急速な昇進を推進すれば、むしろ定着率は低下する。

 データが明らかにした本質的な現実はこうだ。個々の施策を単独で実施しても、離職率の低下や経験豊富な人材の育成にはほとんど寄与しない。優れた成果を上げている企業とは、必ずしも最も進歩的な政策や最大の人事予算を持つ企業ではない。採用がオンボーディングの能力と整合し、報酬戦略がキャリアの可視性を補完し、昇進が定着を阻害するのではなく強化するような、一貫性のある統合されたシステムを持つ企業だ。

 データは、こうしたシステムを構築するための4つの教訓を示している。