リーダーが答えのない時代に持つべき「キャパシティ」とは何か
Illustration by Patrick Léger
サマリー:不確実性が高まる現代において、リーダーシップの成否を分けるのは、既存の「コンピタンス」(技能)ではなく「キャパシティ」である。これは、複雑で先が見えない状況下において、性急に解決策を示さず、メンバーとともに立ち止まり、不安や緊張といった感情を受け止めて意味づけを行う能力を指す。真のキャパシティを育むためには、スピードや統制が不可欠だという過去の成功体験や固定観念を学習棄却する必要がある。

チームでセンスメイキングに取り組む

 リーダーは多くの場合、戦略、実行、コミュニケーション、影響力といった面における高い技能を評価されて現在の地位に昇進している。しかし、複雑性が増した世界では、そうした強みだけでは壁にぶつかってしまう。

 コンサルティング大手デロイトが約1万4000人のリーダーを対象に実施した調査をもとにまとめた報告書「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024」では、効率性や成果量や予測可能な成果など、旧来の成果指標を見ているだけでは十分でないと指摘している。今日の企業は、人間的なつながり、レジリエンス、適応力、想像力を高めなくてはならない。不確実性の高い環境で活動するために、これらの要素が必要とされるのだ。

 コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーは、リーダーがこうした新しい環境に適応するための変化を、内面から出発する旅という言葉で表現している。その旅は、手持ちのツールやスキル、能力を増やすことよりも、メンバーの前でリーダーとして「存在する」ことから出発する。何が正解かが見えない時に、リーダーがメンバーとともにあり、いま起きていることをメンバーと一緒に読み解こうとすることが重要なのだ。

 時代が変わっても、技術面と対人関係面のスキルが重要でなくなったわけではない。しかし、今日の世界で有効なリーダーシップとそうでないリーダーシップの違いを分けるのは、前へ進むための道が明確に見えない状況で、内面の安定を維持し、メンバーと一緒にセンスメイキング(起きている出来事の意味づけ)に取り組めるかどうかだ。

 筆者が以前、コーチングを行っていた中に、ある多国籍サービス企業の地域担当ゼネラルマネジャーを務めていたダニという人物がいた。いつも慌てず騒がず、着実に成果を挙げることで知られていた人物だ。経験豊富で安定感のあるリーダーだったダニは、さまざまな市場で社内各部署の足並みを揃えさせ、多様性の高いチームをうまくマネジメントし、自社のグローバルな戦略をローカルな目標に的確に言い換えていた。

 ある時、年度途中で自社のグローバルな方針が変わり、予算と組織構造の大幅な修正を余儀なくされた際も、ダニは適切な行動を取った。物事の優先順位を見直し、それぞれのメンバーの責任範囲を明確化し、会議を効率化した。メンバーとの個人面談の際には、懸念材料を述べる機会も設けた。

 理屈のうえでは、強力なリーダーシップを発揮したように見えた。ところが、チームの勢いは失速し続けた。ベテランのメンバーがチームに積極的に関わろうとしなくなり、会議でも緊張が高まり始めた。メンバー同士が衝突するケースも目立つようになった。

「必要なことはすべて実行しています」と、ダニは筆者に説明した。「それなのに、誰も彼もが私にいら立ちをぶつけてくるように思えます。これ以上どうすればよいのか見当がつきません」