未来のパラダイムから市場機会を捉える
リチャード・ノーマンによると、ビジネスを取り巻く状況は3つの戦略的パラダイムに沿って進化してきました。ひとつめのパラダイムは「工業化」です。この時代の最も重要なコンピテンスは「製造」で、顧客は受け手、あるいは市場として認識されてきました。個人資産が増え、選択肢が広がり、顧客のパワーが高まるとパラダイムは「顧客ベースマネジメント」にシフトします。顧客は市場ではなく個人として認識され、資産として扱われるようになります。最も重要なコンピテンスは「製造」から「顧客関係」に移ります。
そしてIT技術を背景に、パラダイムは「価値を創造するしくみの再構成」にシフトします。「製造」や「顧客関係」ではなく、「価値の創造を組織化」する能力が最も重要なコンピテンスとなり、顧客は価値の共創者として位置づけられるようになります。

新しいパラダイムでは、価値は主観的である、価値は顧客と共同で創造される、あらゆる文脈に価値がある、顧客に提供する感情や意味が重要、といった考え方がベースにあります。スターバックスやIKEA、アップルといった企業は、こういった考え方を積極的に活用することで、意味レベルのイノベーションを実現しています。
対照的に、多くの業界ではいまだに「工業化」のパラダイムが市場を支配しています。古いパラダイムで次の成長市場を捉えようとしても、既存のルールや慣習がフィルターとなって革新的な機会を捉えることはできません。そこで、新しいパラダイムを通して現在のビジネスを取り巻く環境を見ることで、超えられないと思い込んでいる既存のルールや慣習を相対的に捉えます。
・ もし、顧客が価値創造に参画するとしたら、自分たちの業界はどうなるか?
・ もし、顧客が製品以外のあらゆる文脈に価値を見出したら、自分たちの業界はどうなるか?
・ もし、顧客にとって製品の機能や便益より感情や意味が重要だったら、自分たちの業界はどうなるか?
さらに、新しいパラダイムから潜在的な機会や脅威を捉えます。
・新しいパラダイムで事業を展開しそうなプレーヤーが業界内にいるか?どのような事業か?
・新しいパラダイムで事業を展開しそうなプレーヤーが業界外にいるか?どのような事業か?
・新しいパラダイムを自社が活用するとしたら、どのような事業が考えられるか?
過去の業界固有のパターンから市場機会を捉える
次に、業界固有のパターンから市場機会を捉えます。過去、業界がどのタイプのイノベーションを起こしてきたのか、その変遷を量的に把握します。米国のイノベーションコンサルティングファームのドブリングループは、過去に起こった業界毎のイノベーションのパターンを可視化する10タイプのイノベーションというフレームワークを提唱しています。
このフレームワークではイノベーションのタイプを、ファイナンス(ビジネスモデル/ネットワーク)、プロセス(コアプロセス/イネーブルプロセス)、プロダクト(プロダクトパフォーマンス/プロダクトシステム/サービス)、デリバリー(チャネル/ブランド/カスタマーエクスペリエンス)の4カテゴリー、10タイプに分類しています。
この分類に沿って業界の過去10年程度のイノベーションの実績を集計することで、業界固有の傾向が把握できます。例えば製薬業界ではイノベーションがプロダクトパフォーマンスやコアプロセスに集中しているなど、業界特有の偏りがわかります。偏りをもとに、業界が取り組んでこなかった領域を機会として捉えます。業界内の成功パターンに追随するという従来の考え方とは逆に、業界が注力してきた領域を避け、手薄な領域に意図的にシフトすることを検討します。

ちなみに、このフレームワークを使って分析すると、業界を問わずコアプロセスやプロダクトパフォーマンスに集中する傾向があります。これは多くの業界がいまだに工業化のパラダイムに支配されていることを反映しています。逆に、新しいパラダイムの活用に成功している企業は、両端のビジネスモデル、顧客経験を中心に、業界が取り組んでこなかった複数のタイプを組み合わせる、といったパターンが多く見られます。このように、他の業界で成功している企業のイノベーションのパターンを参照するのもよいでしょう。