シックス・シグマに基づくファーストチョイスの成果

 ファーストチョイスの理念は、「お客様に最初に選ばれる会社になる」というものだが、その方法論は「シックス・シグマ」をベースにしている。

 1980年代にモトローラで開発されたシックス・シグマは、品質管理や生産性向上のための手法。他の多くの製造業でも導入され、90年代半ば、当時すでにサービス分野の比重が高かったゼネラル・エレクトリック(GE)が採用した。これが、サービス分野への適用の先駆けといわれる。

 ドイツポストDHLがファーストチョイスを開始したのは、2006年のこと。私は社長就任以来、このファーストチョイスに真剣に取り組んできた。

 ファーストチョイスは当社にとって生命線だ。その理由は大きく3つある。

 第1に、昨年(2009年)実施したコスト構造改革により、事業インフラのスリム化を進めたこと。1つひとつの業務の生産性を高めなければ、今後の売上拡大に対応できなくなるだろう。

 第2に、コスト構造の優位性を長期的に持続させ、競争力をいっそう高めなければならない。

 第3に、組織に横串を通す必要がある。集荷から配送、請求まで、当社の業務には長いプロセスがあるが、各部門の社員は目の前のプロセスだけに集中しがちだ。隣のプロセス、さらにその先のプロセスに気を配る意識が高まれば、全体をよりスムーズに運営できるはずである。組織を貫く共通言語としての役割を、ファーストチョイスには期待している。

 現業部門と間接部門を含めて、当社では現在、約30のファーストチョイス案件が動いている。

 たとえば、請求書に対するお客様からの問い合わせ対応。通常、当社には月間約1万5000件の問い合わせが入る。担当部門のリソースに限界があるので、従来はそのうち約30%、4500本の電話が他部門に流れてしまっていた。不慣れな社員が受け答えするので、お客様に満足な答えができないことも多かった。

 そこで、ファーストチョイスを導入してプロセス改善を推進した。お客様の問い合わせ内容を記録するためのプログラムを改良して、入力時間を短縮。また、プロセス自体を見直して、ムダや重複作業などを取り除いた。細かい工夫の積み重ねによりプロセスは簡素化され、生産性が大幅に向上した。他部門へのオーバーフローは、現在では約330件(全体の7.2%)に改善されている。