橋本氏 一方で、財務的な視点でダメ出ししようと思えば、事業部がやろうとしていることに対していくらでもダメ出しができます。しかし、株主価値を創造しているのはあくまでも事業部なのですから、経理部門の人間としては事業部が生み出す株主価値、あるいはCFをどれだけ高められるか、そのためにどんなサポートができるか。そういったアクセルとしての役目も欠かせません。

 例えば、売上げを伸ばすためのリベートの仕組みが10年前からまったく変わっていない場合、そのリベート体系が本当に顧客とっての購買のインセンティブになっているのかを分析する。

 あるいは、売上げは伸びているけど在庫も滞留していて、その過剰在庫がCFを圧迫している場合、在庫の中身を分析して長期滞留在庫を圧縮し、CFを改善する。それと同時に、倉庫代も削減できるということを事業部にアドバイスする。そういったことができる人材になってほしいですね。

 最近では、S&OP(Sales & Operations Planning)を策定するプロセスに、ファイナンス部門の人間が直接関わって、製販のバランスをとるという役割が重要になっています。業績評価上、もともと、多くの日本企業のように生産(工場)在庫、販売在庫というような区別はしていないのですが、製販双方の思惑はどうしても異なるので、ファイナンス部門の人間が入って事業部門全体での在庫水準や、その先にあるキャッシュ・フローを改善するためのハンドリングをすることが重要になります。

日置氏 日本企業の場合は財務レポートを仕上げるといった定型業務に経理部門の人たちが追われていることが多いですが、デュポンのようなグローバル大手では定型レポートはITが仕上げるものというのが普通ですよね。むしろ、事業部門も経理部門も一つのデータベースを見ていますから、経理部門が事業部のためにレポート作成だけを行うという必要は、そもそもない。つまり、経理部門が事業部にアドバイスする、改善を促すといった非定型業務に時間を割ける仕組みができているわけで、その違いも非常に大きいですね。

デュポンは次の100年を見据え
事業ポートフォリを組んでいく

日置氏 従業員価値、顧客価値を重視して長期的視点で経営する日本企業に対して、米系企業は株主価値重視で四半期ごとの決算偏重、短期的視点が強すぎるとの批判がありますが、どう思いますか。

橋本氏 株主価値は従業員価値と顧客価値から生まれるもので、株主価値そのものが直接的に自己生成されるわけではありません。欧米の経営者は結果として株主価値を強調し、日本は従業員価値と顧客価値を強調している、それだけの違いだと思います。