橋本氏 短期目標だけを重視した経営で持続可能な成長を達成できるわけではありませんから、欧米経営者が四半期決算偏重かというと決してそうではありません。長期の目標がなければ短期目標だってあり得ないわけですし、欧米経営者だって従業員価値、顧客価値の重要さは十分にわかっています。

 当社の経営陣がよく言うのですが、短期目標は住宅ローンを返すのと同じで、これは期限ごとにきちっと支払い続けなければならない。同時に長期的視点に立った経営も断行しなくてはならない。

 デュポンは1802年創業の会社で、2002年に200周年を迎えました。そのとき、米国本社との電話会議が招集されたので、私は記念のボーナスでも出るのかと楽しみにして会議に臨んだのですが、その場で告げられたのがナイロンを中心とした繊維事業を分社化するという改革案でした(笑)。

 ナイロンといえば当時は保守本流の事業で、会社全体の売上高の約4分の1を占めていました。これを分社化し、IPOすると発表したのです。繊維事業はすでに成熟化しており、国際競争が激しく、新興国の追い上げもありました。デュポンとして期待されるリターンを上げることが難しくなっていたのです。当時のCEOとしても易しい決断ではなかったと思いますが、次の100年を考えた場合、やらざるを得ない。

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 これより少し前、1999年にはオイルショックの時に買収したコノコという石油会社を切り離しました。当時で売上高の半分くらいを占めていたと思います。いまはフィリップスと合併してコノコフィリップスとして石油メジャーの一画を占めていますが、コノコを売却した代わりに買収したのが、パイオニア・ハイブレッド・インターナショナルという種子の遺伝子組み換え技術を持つ会社です。

 ライフサイエンスやバイオといった新しい技術、事業分野への成長投資に舵を切ったわけです。昨年、ダニスコというデンマークの食品材料開発大手を買収しましたが、これもバイオ系の強化につなげるための投資です。

 デュポンは株主配当を1904年から100年以上続けていて減配したことはありません。四半期収益を上げて住宅ローンをきちんと返す、そういう株主に対する還元を続けながら、長期的な地球規模での大きな市場変化、つまりメガトレンドに対応する経営をしています。

 メガトレンドをにらみながら自分たちの事業領域を決め、足りないところは買収で補う。その一方で、メガトレンドから大きくはずれるものや期待リターンに届かない事業は分離し、次の100年を迎えるために事業ポートフォリオをダイナミックに組み替えています。長期的な経営判断の軸や方向性は日本の会社以上に一つの筋が通っていると自負しています。