橋本氏 そういう株式市場からの問いかけに対して、経営者はきちんとした見識と長期的な考え、同時にマーケットの指標を頭に入れながら、受け答えできなければならない。平均すれば日本の経営者よりかなり多くの報酬をもらっていますが、日本より厳しい環境の中で経営しているのも事実だと思います。

 例えば、米国では業績予想に一定の幅をもたせたレンジ形式で開示するのが一般的ですが、あるときデュポンの四半期の利益が予想幅を下回ったことがありました。決算発表の2日くらい前にそれを開示したところ、マーケットからかなり叩かれました。

 レンジを下回ったことよりも、それが2日前にならないとわからない、その経営管理の精度が問われたのです。ですから、仮に業績予想より上ぶれしていたとしても、同じように批判を受けたでしょう。

 日本では大幅な業績予想修正がわりと頻繁にあって、赤字予想だったのが一転して黒字になったりすると、会社側も市場側も嬉しい誤算のように捉えたりしていますが、米国なら袋だたきにあいますね(笑)。

 収益の見方でいえば、日本の会社は何十億とか何百億円といった利益の総額を見ますが、米国だと基本は1株当たり利益です。ですから、何ドル何セントの世界。そのほうが株主にとっても分かりやすい。年間の利益目標が1株当たり20ドルなら四半期で5ドル。四半期ごとに業績予想との差がどうなっているか、すぐにわかる。それは株主側だけでなく、会社側も同じ。両者が同じ指標、同じ目線で経営を見ているのです。

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日置氏 日本の場合、個人の業績評価でも事業部レベルでも、歴史的にトップライン(売上)主義が非常に色濃い。事業部門のトップでもトップライン主義でマネジメントしてきたのに、社長になった途端に株式市場からEPS(1株当たり純利益)だといわれてもピンとこない。

橋本氏 デュポンの場合は、全社レベルでの利益といえばEPSです。事業部毎に仮の資本金を割当てたり、社内融資をすることはしないで、事業部には事業用の資産・負債に責任を持たせ、正味資産の運用効率の目標をクリアすることによりSVAも増加します。

 日本は利益というと営業利益、経常利益を見ますが、EPSの分子は税引後の純利益。欧米の感覚でいえば税金は一番大きなコストで、実効税率をどれだけ下げられるかを考えます。

 あとはCFを事業の現場でも重視します。ボーナスなどの査定でもCFが大きな要素になります。在庫の回転、売掛金の回収、これをどれだけ早く行うかが厳しく問われます。