橋本氏 逆にその事業の存続ということを考えた場合、デュポンの中にいるよりは切り離してもらったほういいということもある。デュポンのSVA基準を下回っているので、追加の投資資金を割り振ることはできなくても、切り離して別の会社にいけば、その会社の投資基準には十分見合っていることだってあり得ます。

 事業ポートフォリオ・マネジメントもSVAに基づいて行っており、SVAとネットの資産の組み合わせから、足元の収益性は低いけれども将来の成長を期待できる「スター」、収益性は高いが成長性は低い「キャッシュカウ」といったように事業を位置づけます。

 「キャッシュカウ」で稼いだお金を、「スター」の投資に回すといったことが行われますが、事業部の独立色が強すぎると「自分で稼いだお金は自分たちの事業で使う」ということになってしまって、会社全体としてのポートフォリオ・マネジメントができない。

 そこで経営者はSVAのような共通指標を使って、ポートフォリオ全体の大きな絵を示し、事業部の位置づけがどこになるかを説明する。また、後でも触れさせていただきますが、メガトレンドに沿った全社の方向性と事業ごとの将来に対する使命、成長率や収益率について、シンプルで世界中の社員が理解しやすいコミュニケーションを繰返し行っています。それらのことを通じて、社員の納得感がないとポートフォリオ・マネジメントはできません。

ヒューマンスキルのうえに
ファイナンスの専門知識を

日置氏 日本では「赤字でもない事業をなぜ売却するのか」という話になりがちですが、赤字になってからでは売れるものも売れなくなる。ぎりぎりまで持ち続けた末に、二束三文で買い叩かれるといったケースもあります。

 単に利益が出ているということではなく、CF(キャッシュフロー)やSVAという基準で捉えれば、まったく違う判断になることがあり得るはずですが、経理部門としてはそのような基準が、事業部門での意思決定の規律として生かされ、運用されるよう啓発する、時には注意を発するといった役割も重要だと思います。

橋本氏 おっしゃる通りです。私が経理・財務部門の部下に言っているのは、経理やマーケティング、あるいは研究開発など特定の専門知識を持つことは大切だけれども、一定のポジションから上に行けば行くほどビジネスパーソンとしての素養、資質、スキルが大切になるということです。

 つまり、いつまでも“経理屋”、“財務屋”ではリーダーのポジションには就けない。ヒューマンスキル、ビジネススキルが重要だよと言っています。まずはビジネスパーソンありきで、ファイナンス分野に専門性を持っているということです。

 仮に財務的に見てあまりにもリスクの高いプロジェクトを事業部が進めようとしていることがわかったり、コンプライアンス上問題が生じる場合は、職を賭してでもそれを止める、そういったブレーキ役が会社には必要です。