米国の「繁栄の地図」が変わる中、企業が投資すべき場所はどこか
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サマリー:従来の企業戦略は、人口増加や雇用の集積など、固定的な地理観に依存してきたが、いまや人、技術、気候など複数のシステムの相互作用が繁栄を左右する時代に移行した。新たな指数は意外な都市の台頭を示し、直観のずれを浮き彫りにする。人口減少や気候変動、AIの影響が重なり、地域格差は加速している。にもかかわらず企業は部分最適で対応している。地理を戦略の中核に据える必要がある。

昔ながらの世界観を更新せよ

 20世紀の大部分、そして21世紀に入ってからも、企業の戦略は地理に関する昔ながらの思い込みに基づき構築されてきた。人口が増えて、優秀な人材が補充され、気候リスクは限定的で、保険で対処できると考えられていた。テクノロジーはゆっくりと普及し、組織には適応する時間があった。地理は重要だったが、それは昔ながらの型にはまっていた。ニューヨークは金融、シリコンバレーはテクノロジー、中西部は製造業、といった具合だ。成長は人がいる場所で起こる。そして人は、雇用がある場所にやってくる。

 その世界は変わりつつある。

 いまや豊かさで重要なのは、複数のシステム(人、場所、テクノロジー、機構など)のレベルの一致になってきた。リーダーたちが必要としているのは、新たな「最高の街」ランキングではなく、こうしたシステムが場所や時間を超えてどのように相互作用するかを理解する方法だ。そこで筆者らは、地域別に長期的な市民社会の持続可能性を評価する枠組み「繁栄の地理指数」(The Geography of Prosperity Index)を開発した。

 全米250の都市圏をカバーするこの指数づくりに着手した時、その結果は、多くの人たちがすでによく知っていることを確認するものになるだろうと、筆者らは思っていた。すなわちオースティン(テキサス州)、ナッシュビル(テネシー州)、デンバー(コロラド州)といったお馴染みの中心都市がトップにきて、ふだん話題にならないような街は、その地位に留まっているだろうと考えた。

 ところが、データが語るストーリーは違っていた。アナーバー(ミシガン州)やフレデリック(メリーランド州)などがトップ10に入った。このことを伝えると、業界を問わず最もよく聞かれるのは、「なぜフレデリックがトップ10に入ったのか」という趣旨の問いだった。こうした純粋な驚きは、それ自体がデータであり、ほとんどのリーダーの地理的直観がいかに現実に沿って調整されていないかを示している。

 かつては長期計画の要であった複数の基本システムが、現在、同時に崩壊しつつある。出生率は全米で歴史的低水準にあり、労働力の高齢化は企業や政府が対応できるスピードを超え、気候変動が保険市場やインフラやサプライチェーンを揺さぶっている。AIは、サンノゼ(カリフォルニア州)やシアトル(ワシントン州)、ボストン(マサチューセッツ州)といった高度な技術力がある都市を優位にしている。他方、型にはまったホワイトカラーの事務職が多い小規模都市圏では、適応が遅れ、人口流出のリスクが高まっている。

 変わったのは破壊のスケールだけではない。破壊の相互作用のあり方も変わった。人口減少により労働市場は逼迫し、消費者の増加ペースは鈍化する。気候変動リスクは、運営コストを押し上げ、インフラに負荷をかけ、人口移動のパターンを変える。AIと自動化の恩恵は、強力なデジタルインフラや、技術系の人材、適応力の高い機構がある地域にもたらされる。こうした要因も一つなら管理可能だが、すべてが合わさると、非直線的な結果をもたらす。ある地域では成長が加速し、別の地域では衰退が加速する。たとえば、オースティンとサンノゼは、AIハブとして投資と人材を引きつけているが、スプリングフィールド(イリノイ州)やカーソン(ネバダ州)のような中規模の行政中心地は、再訓練やキャリアチェンジが限定的な労働力が集中しているという脆弱性を抱えている。

 筆者らは、業界を超えたリーダーシップチームと仕事をしてきた経験から、ほとんどの組織は依然として、これらのリスクを部門別に分析していることに気がついた。人材責任者は採用と人材の定着に注力し、リスク責任者は気候リスクに注目し、技術リーダーは自動化の計画を練っている。不動産やロケーション戦略は、取締役会が扱う戦略的な課題ではなく、下流の現場に近い課題として扱われがちだ。

 こうした考え方はますます危険になっている。

 人手不足と環境の激変を特徴とする時代には、地理はもはや戦略の背景情報ではなく、レジリエンスやコスト構造、長期的な価値創造に直接影響を与えるようになった。どこにオペレーションを置き、どこにサプライチェーンを構築し、どこで人材を採用し、どこで設備投資をするかは、価格や製品構成と同じくらい、組織が衝撃に耐えられるかどうかに影響を与える。

環境をシステムとして見る

「繁栄の地理指数」は、国内総生産(GDP)や雇用創出のような短期的な成長指標に注目するのではなく、ある地域が繁栄を維持できるかどうかを決定する5つの相互に結びついたシステムを分析する。

人口の若返り:出生率、移住パターン、高齢化のダイナミクスを含む。

気候変動へのレジリエンス:高温、洪水、森林火災、保険リスクへの曝露と適応能力によって測定。

自動化への準備状況:デジタルインフラ、技術系人材、AIを生産性向上につなげる能力によって測定。

社会のまとまり:信頼、市民社会の関与、インクルージョン、帰属意識など人材の定着と行政の有効性にとって極めて重要な要因を反映。

ガバナンスと先見性:財政の安定、長期計画、そして物事に反応するのではなく適応する能力を評価。

 それぞれのシステムは、それぞれに重要なストーリーを形づくっているが、それらを合わせると、ショックを吸収し、優位性を高める地域と、立ち直りに苦労する地域が見えてくる。ここで目指すのは、勝ち組と負け組を予測することではなく、リスクが集中している場所や、持続的な機会がある場所、戦略的介入が最も効果的な場所などを明らかにすることだ。「繁栄の地理指数」のトップに輝いたのは、ニューヨーク・ジャージーシティ・ニューアーク都市圏だった。その最大の理由は「社会のまとまり」における飛び抜けたスコア(0.95で、全米第1位)で、「ガバナンスと先見性」のスコアはふるわなかった。

 リタイア層の居住エリアも同じくらい衝撃的な結果を示した。ザ・ビレッジズやスプリングヒル(どちらもフロリダ州)のような都市圏は、低税率で、温暖で、一見したところ安定しているようだが、「繁栄の地理指数」では最下位圏だったのだ。どれか一つの要因が壊滅的にひどかったからではなく、従来の指標では明らかにならない構造的な弱点が重なっていた。たとえば人口の高齢化や、労働力のパイプラインが最小限であること、気候変動リスクへの曝露、そして限定的な行政の適応力などだ。こうした都市圏は、隠れたマイナス面がようやく明らかになってきたばかりである。

 しかし、現実にロケーションを決めるエグゼクティブにとって、より示唆に富むのは、5つの項目すべてで同等のスコアを得た都市の違いだ。ダーラム(ノースカロライナ州)は、5つの項目のいずれかで飛び抜けたスコアを獲得したわけではないが、総合第2位だった。インディオ・パームデザート・パームスプリングス(カリフォルニア州)都市圏は、5つの項目すべてでスコアが低く、250都市圏中244位だった。この2つの都市圏について、この結果が何を示しているのか考えてみよう。

ダーラム(ノースカロライナ州)

 ダーラムは「繁栄の地理指数」で、全米250都市圏中、第2位だった。これを牽引したのは「自動化への準備状況」で、スコアは0.82(全米2位)だった。これはリサーチトライアングル(訳注:ノースカロライナ州で大学や研究機関が集まるローリー、ダーラム、チャペルヒルの3都市圏からなる学術都市圏)の一角として、STEM(科学、技術、工学、数学)人材が密集していること、ブロードバンドがほぼ完全に普及していること、高等教育の学位保有者が多いことを反映している。

 気候レジリエンスも0.83(全米42位)と堅実で、災害リスクは低く、暑さによる健康リスクも最小限だ。戦略的な課題は人口動態だ。人口の若返りのスコアは0.53で、成長が有機的な労働力の補充ではなく、継続的な移民流入に依存している。沿岸部のコストやリスクがなく、技術的優位を持続したい企業にとって、ダーラムには、すでに足並みの揃ったシステムと、課題の残る領域が明確になっているという、稀有な組み合わせを備えている。

インディオ・パームデザート・パームスプリングス(カリフォルニア州)

 インディオ・パームデザート・パームスプリングス都市圏のランキングは、全米250都市中244位だった。そしてデータは、ほぼすべての要因で一貫したストーリーを持つ。猛暑への曝露と深刻な水不足、そしてゼロに近い緑地率が最大の原因となって、気候レジリエンスは0.34(全米で249位)となった。人口の若返りは0.40(227位)だ。これは人口の高齢化が全米でも有数の水準で進んでいること、労働年齢の移民の流入が限られていることを反映している。自動化への準備状況とガバナンスも、それぞれ0.41(200位)と0.32(203位)だった。長期的なオペレーション上のリスクを評価する企業にとって、パームスプリングスは一見したところ安定感があり、構造的リスクの収れんを隠している地域の典型だ。そのリスクのコストはいま、ようやく感じられるようになってきたばかりだ。

エグゼクティブが見落としていること

 筆者らの研究では、地理的な死角は一貫したパターンをたどっていることがわかった。エグゼクティブたちがこの指数に驚くのは、その基礎となるデータが不明瞭だからではない。ほとんどの組織がロケーションを評価する時に使う枠組みが、システミックリスクを可視化するよう設計されておらず、過去10年の状況に沿って最適化されているからだ。こうした指標は未来を照らすよりも、過去を説明している。また、ゆっくりと展開しているが、一定のレベルを超えると急加速する人口動態や気候リスクも捉えられていない。

 こうした見落としは、予測可能な結果が伴う。

・労働力が縮小する地域に多額の投資をする企業は、数年で慢性的な採用難に陥る。

・保険料やインフラコストが価格に完全に反映されていないため、企業は気候リスクを過小評価していることになる。

・技術系人材やデジタル能力が不足している地域に自動化策を導入すると、停滞する。

・従業員は、雇用主の適応力を超えるスピードで、高コスト・高リスクの都市圏から流出するため、人材戦略は頓挫する。

・郊外からさらに外縁部への拡大が、学校や公共サービス、インフラを維持する地域の能力を上回り、急激な増税やサービスの質の低下を招いている。

 いずれの場合も、失敗は実行することが悪いのではなく、先見の明が欠けていたために起こる。

リーダーのための5つのポイント

 成長やリスク、長期的価値を担当するエグゼクティブは何をすればよいのか。

ロケーション戦略をポートフォリオの決定として見直す

 ヘッジファンドのシタデルが本社をシカゴからマイアミに移すというニュースは、大きな資金が動くことを示唆していた。だが、2つの街を「繁栄の地理指数」に照らしてみると、より複雑な構図が浮かび上がってくる。シカゴは総合ランキング31位で、マイアミは109位なのだ。シカゴの社会的まとまりのスコア(0.72、全米3位)は、何世代にもわたって築き上げられた深い制度的基盤、市民インフラ、そして豊かな人材の集積を反映したものである。一方、マイアミの気候レジリエンスのスコア(0.60、全米201位)は、高温、洪水、そして保険市場の複合リスクがすでにストレスにさらされていることを示している。

 どちらの都市も、単純に「よりよい」のではない。エグゼクティブらはめったに、「私たちは何を、いつまでに最適化しようとしているのか。そのために何を犠牲にするか」といったことを自問しない。本社のたった一つの決定を中心に構築されたロケーション戦略では不十分だ。現時点で最高と思われる都市に投資を集中するのではなく、ポートフォリオとして考え、リスクプロファイルが補完し合う複数の場所にオペレーションや人材、資本を分散すべきだ。

自動化を場所と一致させる

 AIと自動化は、既存の場所の強みを増幅するが、そのためにはそれを支えるインフラが必要だ。「繁栄の地理指数」では、自動化への準備状況を、デジタルインフラやSTEM人材の密集度、ブロードバンドへのアクセス、高等教育の存在などに基づき測定する。その差は明白だ。先ほどの例を使うと、ノースカロライナ州ダーラムのスコアは0.82(全米2位)で、パームスプリングスは0.41(200位)だ。技術的な蓄積のない地域に先進システムを展開しても、生産性が加速することはない。むしろイニシアティブを停滞させ、テクノロジーの約束とオペレーションの成果の間のギャップを広げるだけだ。テクノロジー戦略は、地域の能力に合わせて調整されるべきであり、能力の欠如を補うために設計されるべきではない。

人材を地域に根差した資産と見なす

 人手不足のいま、人々が住むために選んだ場所自体が、人材をつなぎとめる戦略になる。「繁栄の地理指数」における社会のまとまりの要因は、信頼、市民の関与、インクルージョン、帰属意識を測定するもので、モバイル人材が留まるか、去るかを予測する強力な指標の一つになる。シカゴの0.72(全米3位)というスコアは、ビジネスメディアで「人材が集まる都市」として取り上げられることのない都市が、米国でも指折りの充実した市民社会インフラと行政への信頼、そして地域社会との結びつきを備えているのだ。社会のまとまりで高得点を得た地域が、メディアに取り上げられることはめったにない。しかし人々はこうした都市でキャリアを築き、そこに留まる。雇用主にとって、その違いは時間とともに増幅する。人材戦略とロケーション戦略の決定は、もはや切り離すことができない。

気候リスクを資金計画に組み込む

 気候変動リスクへの曝露は、もはやESG(環境、社会、ガバナンス)の付随的な問題ではなく、貸借対照表上の課題となっている。指数の一つである気候レジリエンスでは、物理的な危険への曝露だけでなく、保険市場のストレス、インフラの脆弱性、適応能力も捉えている。この指標において下位4分の1に位置する大都市圏では、すでにその影響が現れ始めている。保険市場からの撤退や保険料の改定、インフラコストの上昇が見られ、場合によっては、当局による公式な認定に先立ち、住民や雇用主が静かにリスクの再評価を行うことで、人口流出が加速している。地理的要因がリスクへの曝露を決め、曝露がコストを決める。気候変動を経営上の課題ではなく、単なる開示事項として扱うリーダーたちは、みずからのコスト構造を体系的に過小評価していることになる。

機構の強化に投資する

「繁栄の地理指数」のガバナンスと先見の明の側面は、ショックを吸収する都市圏と、ショックによって不安定化する都市圏をはっきり分ける。ここでは財政の安定や長期的な計画能力、市民参加が分析の対象になる。地味な要素だが、それらによって、ある地域が物事に反応するのではなく、適応できるかどうかを決定づける。地域で大きなプレゼンスを持つ組織にとって、地元政府がしっかりしていることは、慈善活動に関わる問題ではなく、オペレーション上の必須要件だ。伝統的な用地選びの評価では、あらゆる変数が同じように見えても、統治能力が弱い地域にある施設は、強力な計画能力のある自治体が存在する地域の施設とは異なるリスクプロファイルに直面する。

新しい地図

 お馴染みのハブと、歴史的なパターンに沿って成長すると考える古い地図は、破綻しつつある。その代わりに、より断片的で不均一な地図が浮かび上がっている。

 それは勢いよりも足並みの一致を重視し、最近まで勝利していた都市が明日も勝利するという思い込みを厳しく戒める。競争優位の次のフロンティアは、技術や人材育成プログラムではなく、もっと明快な地図になる。その読み方を最初に覚えた組織は、よりよい立場につけるだけでなく、これまでとはまったく異なるゲームを展開することができる。


"The Map of U.S. Prosperity Is Changing. Here's Where Companies Should Invest.," HBR.org, March 13, 2026.