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連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』はこちら。
【注目記事】部下が「スキルは高いが、器が未成熟」な場合、どう育てればよいのか
人の意味づけの構造を読み解く、ロバート・キーガンの主体客体インタビュー
成人発達理論において、測定とは「人を分類すること」ではありません。それは、人がどのような構造で世界を意味づけているかを、仮説的に読み取る営みです。この前提に最も忠実な測定手法が、インタビュー形式です。インタビューが重視するのは、問いに対する「答えの内容」ではなく、その答えがどのような構造で組み立てられているかという点にあります。
ロバート・キーガンが開発した主体客体インタビューは、この思想を最も明確に体現した手法です。キーガンは、人の発達を「何ができるようになったか」ではなく、「これまで自分そのものとして没入していたものを、どこまで対象として扱えるようになったか」という視点から捉え直しました。彼の言う「主体」とは、人が自分自身と一体化し、それを疑うことのない前提として生きている枠組みを指します。一方「客体」とは、その枠組みを一歩引いて眺め、扱い、調整できるようになった対象のことです。
主体客体インタビューでは、人生の中で印象的だった葛藤、重要な関係性、挫折や成功体験などについて語ってもらいます。しかし評価の焦点は、出来事の中身や判断の正しさではありません。たとえば、怒りや不安といった感情が「自分そのもの」として語られているのか、それとも「自分が向き合っている対象」として語られているのか。この違いが、主体と客体の境界として読み取られます。
このように、インタビュー形式は、人が自分の経験をどの視点から、どの前提で語っているかを可視化します。発達とは、主体がそのまま高度化することではなく、主体だったものが徐々に客体化され、より広い文脈の中で扱われるようになるプロセスです。キーガンのインタビューは、このプロセスを「測る」というより、「浮かび上がらせる」ための方法だといえるでしょう。
重要なのは、主体客体インタビューが診断を目的としていない点です。ここでは、人を特定の段階に当てはめることよりも、「いま、この人は何を自明の前提として生きているのか」「どの前提がまだ内省の対象として捉えられていないのか」を理解することが重視されます。この理解は、評価や選別のためではなく、関わり方や支援の設計を調整するためのものです。
インタビュー形式が成人発達理論において重視されてきた理由は、ここにあります。数値や短い回答では捉えきれない意味生成の構造を、語りという形で立ち上がらせることができる。その分、時間も訓練も必要ですが、理論の思想と最も整合的な測定方法であることは間違いありません。
主体客体インタビューを活用する4つのポイント
ロバート・キーガンの主体客体インタビューは、単に発達段階を判定するための技法として理解されると、その価値の大半を失ってしまいます。本来このインタビューは、発達をラベル化するための道具ではなく、関係性や支援の質を調整するための理解装置として設計されています。したがって、活用の焦点は「どの段階か」ではなく、「どこがまだ主体のまま残っているのか」に置かれるべきです。
実務で主体客体インタビューを活用する第1のポイントは、問いの使い方にあります。キーガンのインタビューでは、「なぜそう考えたのですか」「その時、何が一番大きな意味を持っていましたか」といった問いが繰り返されます。ここで重要なのは、答えを深掘りすること自体が目的ではないという点です。問いを重ねることで、語り手が何を当然の前提として語っているのか、そしてどのあたりから、その前提自体を言葉にして捉えることが難しくなるのかをていねいに観察します。言い換えれば、インタビューは情報収集ではなく、意味生成の輪郭を浮かび上がらせるプロセスです。
第2のポイントは、読み取りの姿勢です。主体客体インタビューでは、語りの一貫性や論理性の高さよりも、「どの前提が揺らいでいないか」に注目します。たとえば、人間関係の葛藤を語る際に、他者からの評価や期待が絶対的な基準として語られている場合、それはまだ主体として機能している可能性があります。一方で、それらを距離を持って扱い、「自分がどう反応しているか」を振り返られている場合、客体化が進んでいると読み取れます。重要なのは、どちらがよいかを判断することではなく、現在の意味生成の重心がどこにあるかを理解することです。
第3のポイントは、フィードバックのあり方です。主体客体インタビューの結果を、そのまま言語化して返すことは、必ずしも有効ではありません。なぜなら、人がまだ主体として生きている前提がある場合は、直接指摘されると防衛反応を生みやすいからです。実務では、「あなたはこの段階です」と伝えるのではなく、「こういう場面で、こういう前提が強く働いているように見えました」と、具体的な観察に基づいて共有するほうが、対話が開かれやすくなります。これは評価ではなく、共通理解の形成です。






