自信に満ちた人材がトップに昇進した時の落とし穴
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サマリー:自信に満ちた優秀な人材が最高経営幹部に昇進すると、かつての成功体験が逆効果となり、組織に弊害をもたらすことがある。地位が上がっても、その場で最も賢い存在であり続けようとすれば、情報の遮断や部下の主体性低下を招くためだ。真のリーダーには、専門性の手放しや不確実性を認める謙虚さが求められる。本稿では、昇進時に避けるべき3つの落とし穴とその回避法を説明する。

自信満々の優秀な人材がCEOになると起こる問題

 少し想像してみてほしい。重要性の高い戦略的な取り組みについて話し合う経営会議が開かれている。テーブルを囲む面々は、皆が自信にあふれ、その言葉には決然たる響きがある。品格があり、聞き手の心をつかみ、どのような問いにもきちんと答えてみせる。実際、自信と決断力は、経営幹部に特徴的な資質だ。取締役会は長年、そうした資質を経営幹部に求めており、一流ビジネススクールはそれを教えてきた。最高経営幹部の候補を昇進させるか見送るか決める時の、鉄板となる評価基準でもある。

 だが、筆者はCEOのコーチングやフォーチュン500の経営幹部を務めた経験から、キャリア初期に経営幹部の器と見なされる態度(その場で一番賢いと見なされることや、揺るぎない自信を示すこと、いつも答えを用意しておくことなど)が、最高経営幹部に昇進する段階では逆効果になりがちであることを見てきた。地位が上がっても昔と同じ態度でいると、自分に入ってくる情報の幅を狭め、当事者意識と信頼が低下し、貢献するよりも責任を先送りにするチームをつくり出し、意思決定を弱めてしまう。それはやがて、影響力の喪失やチームの士気の低下、イノベーションの停滞、そして組織の方向感覚喪失につながる。

 たとえば、フォーチュン50にランクインする金融機関のある事業部門CEOの例を考えてみよう。彼は、技術職から社内昇進したばかりだ。キャリア初期は、テクノロジー分野での鋭い直観や、強力な存在感、そしてきっちり結果を出す実績で知られた。ところが、ひとたび事業部門のCEOに就任すると、直観的な行動は欠点に変わった。チームの前で管理職を叱責したり、取締役会によるレビューの前夜にプレゼン資料に手を加えたり、担当部門のリーダーによる決定をしょっちゅう覆した。1年半もすると、最も有能な部下が去り、残ったチームはやる気を失い、市場のシグナルを見落とすようになった。誰も彼に悪いニュースや、未完成のアイデアを伝えようとしなかったからだ。

 本稿では、昇進する中で避けるべき3つの落とし穴について、説明したい。その3つとは、過度に専門家ぶること、過度に自信を示すこと、そして付加価値を提供しようと焦りすぎることだ。また、筆者自身のキャリアとコーチングの経験から、こうした落とし穴を回避する方法を説明する。

専門性の落とし穴

 最高経営幹部も、駆け出しの時は財務や業務、営業、法務、エンジニアリングなど特定の領域でキャリアをスタートさせる。そして深い専門性を身につけて、頼りになる問題解決者という評判を築く。だが、昇進を重ね、責任や権限が大きくなるにつれて、仕事におけるアイデンティティと、リーダーとしての基礎は、「特定領域の専門家」以上のものへと広がらなければならない。かつては自分が出していた成果を、今度は若手が出せるように指導し、責任を負わせなければならない。このシフトに苦心するリーダーは多い。なぜなら、自分をここまで成功させてきた専門性を手放さなければならないからだ。

 仕事上のアイデンティティを、これまでのキャリアの基礎となった専門性と引き離すためには、基本的な措置と考え方の変更が必要だ。まずは、直属の部下一人ひとりについて明確な目標を設定し、具体的な成功の基準について合意し、定期的なチェックインのスケジュールを組もう。この時、部下の仕事をみずからやり直すのではなく、進捗状況を確認して、障害を取り除いてやること。自分がかつて担当した中核業務を、意図的に割り振って(と同時に明確な決定権限を与え、期限を示すこと)、チームが担当事項を明確に理解できるようにしよう。

 これは「何でも答えられる人」になりたいという、内的な衝動を抑えることを意味する。すぐに口に出すのではなく、一息置こう。命令するのではなく、質問しよう。あなたが解決した問題の数ではなく、部下であるリーダーたちがいかに成長したかによって自分の成功を図ろう。あなたは「知識豊富な専門家」から「専門家を育てるリーダー」へと、自分のアイデンティティを転換したいはずだ。それこそが、組織がトップに求める資質である。

 スニタ(仮名)の例を紹介しよう。彼女は上司の退職に伴い、急成長中のスタートアップのCFOからCEOに昇進した。彼女には財務分野の専門知識の他に、業界に関する深い知識もあった。それにもかかわらず、燃え尽き症候群(バーンアウト)に陥り、チームの士気も低下したため、筆者に助けを求めてきた。スニタはいつも何をどうすべきかわかっていたため、組織全体を率いながら、かつて担当していた財務上の重要な決定にも深く関わり続けていた。誰かに任せるべきだったが、実際にそうすると結果に失望して、また首を突っ込んでしまうことを繰り返していた。これが混乱と部下たちのやる気低下をもたらした。スニタがしょっちゅう仕事を乗っ取ってしまうため、チームは信頼されていないと感じ、諦めてしまった。スニタ自身も、チームが十分努力していないか、主体的に動いていないと感じ、失望と不満を募らせた。

 自分は専門家だという意識が、スニタが真のリーダーシップを発揮することを妨げていた。筆者のコーチングでは、みずから仕事を手掛けるのではなく、結果についてチームに責任を負わせることに意識をシフトさせた。各リーダーに期待する結果を定義し、自分の仕事は彼らの長期的な成長を促すことであり、彼らが失敗してそこから学ぶリスクを受け入れなければならないという意識改革を図った。そのうえで、進捗状況を確認するタイミングを決めることで、透明性を高め、サポートを提供し、大きな失敗のリスクを軽減した。こうした取り組みによって、衝動的に首を突っ込み、問題を解決しようとするスニタの癖が抑えられ、チーム全体の主導権と熱意が高まり、人材が強化された。

揺るぎない自信のパラドックス

 激動の時代に、従業員は希望や自信を示すリーダーを求めるものだ。しかし、不確実性の高い経営環境で揺るぎない自信を誇示することは、不誠実で現実離れしているように見えかねない。過度にそうした姿勢を強調するリーダーは、安定しているというよりも、現実をわかっていないという印象を与える。筆者はまさにこうした状況を見たことがある。筆者がかつて勤めていた組織のCTOは、あらゆるリスクを管理できていると繰り返し断言して、チームが実際的な問題に関与することを妨げた。時間が経つにつれて、筆者を含む多くのシニアリーダーは締め出されていると感じ、CTOの言葉を信じなくなった。そしてCTOに直接懸念を伝えずに、上級管理職の間で情報交換をして、密室で不満を言うようになった。こうして反発が高まり、結局CEOはCTOを更迭した。