ペルソナの事例:洗面化粧台のイノベーションのためのペルソナ

 では、2002年に作成した洗面化粧台のイノベーションのためのペルソナをご紹介しましょう。

「本物をずっと使うからこそ意味があるんですよ。」

●氏名:本間良雄さん
●性別:男性
●年齢:32歳
●職業:グラフィックデザイナー
●居住地:大阪市
●家族:妻

 32歳でグラフィックデザインの事務所を経営する本間良雄さんは、自分が納得のいく住空間を手に入れるために努力を尽くす人です。本間さんは、モノの好みがはっきりしています。彼は、シンプルでありながら、細部にまでこだわりがあるデザインが好きです。逆に、変な曲線やマークがあるだけでその製品が嫌いになります。

 また、彼はモノそのものだけではなく、企業の「ものづくり」への姿勢を重視します。見えない部分にまでこだわる企業や、長年使い込んだ製品を修理してくれるような企業には、同じものづくりの人間として、心の底から共感します。流行を追いかけて頻繁にモデルチェンジをするような企業は、製品のデザインが気に入っても信じません。

 彼は、いま建てようとしている注文住宅において、住宅設備、家具など住空間にかかわるすべてのアイテムを、彼が好む『本物』で揃えたいのですが、それは容易ではありません。例えば、気に入った照明器具を見に、わざわざ東京のショールームに行かなければなりませんでした。海外の雑誌で見つけたアイテムを輸入しようと現地のWEBサイトをチェックしたのですが、イタリア語がわからずとても苦労しました。

 本間さんは、どうしても手に入らないものは時間をかけてでも揃えていきたいと考えています。妥協して自分の気に入らない代替え品を置くのは嫌なのです。住宅を建てた後も家づくりのプロセスを楽しみたいという思いもあります。

 いま、本間さんが悩んでいるのは水まわりです。気に入った洗面ボウルやバスタブ、水洗金具を自分でコーディネートし、シンプルなタイル張りに仕上げたいのですが、工務店に「寒いし予算も倍になる」と言われて、断念しようかどうか迷っています。自分自身にもう少し住宅の知識があれば解決できるのではと思うと、とても残念な気持ちになるのでした。

本間さんの意味レベルのゴール
『本物』とつながることで自分の世界を広げる。

本間さんの感情レベルのゴール
没頭する

本間さんの具体的なゴール
・家具や生活雑貨のように住宅設備を揃える。
・家づくりのプロセスを長く楽しむ
・『本物』のある環境で暮らす

 このペルソナを特長づけているのは、製品決定に対する顧客の積極的な関与と、ものそのものやデザインに対するこだわりです。図にすると以下のようになります。
このペルソナを特長づけているのは、製品決定に対する顧客の積極的な関与と、ものそのものやデザインに対するこだわりです。図にすると以下のようになります。

 洗面化粧台の意味を家具や生活雑貨の延長上で主体的に購入するものとして再定義することで、これまで業界が着手してこなかった市場空間を見いだすことができます。そして、獲得したインサイトからペルソナをつくることで、右上の象限において顧客が何を求め、望んでいるのかが手に取るようにイメージできます。この状態から、いよいよ人間中心イノベーションのためのアイデア開発のステップに移っていくことになります。

 

1.箇条書きのリストではなく、生き生きした物語で伝える
2.一人に焦点を当てることで細部にまで一貫性を与える
3.描写されていない部分まで理解できるように表現する

既存のデータを使って、ペルソナの構成を参考にしながら、あなたの顧客は誰で、ゴールは何で、どのような行動をするのか、200文字程度で物語をつくり、顔写真と名前をつけてペルソナに仕上げてみてください。できたら、

□ 説得力があるか
□ 記憶に残りやすいか
□ 感情移入できるか
□ 発想を刺激するか

といった視点で、元のデータと比較してみてください。