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3.11の日本への支援に対し、米海軍大佐が下した決断
マット・フィーリー米海軍大佐は、2011年に東日本大震災が発生した際、日本国民に対して米軍が展開した災害救助・救援活動における兵站面のリーダーを務めた。3月11日にマグニチュード9.0の巨大地震が発生すると、途方もない規模の津波が押し寄せ、福島第1原発事故が起きた。
この発災の直後、日本に駐在していた米軍のリーダーたちは、ただちに救助・救援活動を開始し、援助物資を輸送したり、さらなる大規模な救援活動のための準備を整えたりした。後になって、必要とされる支援の規模が極めて大きいことが明らかになり、ワシントンの米国政府上層部がその状況を理解すると、米軍による援助・救援活動が正式に実施されることになり、一連の活動全体は「トモダチ作戦」と名づけられた。
活動を開始した2日目、マットは米軍の活動を誇らしく思っていたが、ある海軍大将からの電話を受けて息を飲んだ。米国の法律によれば、マットたちが携わっている活動への予算の支出が認められるためには、日本政府の正式な要請と米国議会の承認が必要だというのだ。言うまでもなく、巨大津波襲来直後の混乱の中で、このような制度上の条件は満たせていなかった。
マットは、数十年にわたるリーダーとしてのキャリアの中で最も重大な決断を迫られた。法的なリスクを負ってでも人命を救うための活動を続けるのか、という決断だ。
マットが先頃、コロンビア・ビジネススクールのMBAプログラムで私が開講しているリーダーシップ論の教室でこのエピソードを語ると、学生たちは、どのような決定をどのように下したのかと尋ねた。
すると、マットは財布を取り出し、いつもそこに入れて持ち歩いているカードを見せてくれた。そのカードには、人生の指針にしている価値観が記されていた。そこに挙げられていた要素は、思いやり、公平性、奉仕、愛といったものだった。マットは学生たちに、これらの価値観に照らして考えた結果、援助活動を継続すべきだという結論にただちに達したと説明した。
この話の教訓は、ルールを無視しろ、ということではない。みずからが大切にしている価値観を明らかにし、それに従って行動せよ、ということだ。
価値観は、私たちを正しい目標に向けて進ませる羅針盤であり、それと同時に、その目標へと突き動かすエンジンでもある。容赦ないペースで変化が起き、多くのノイズで満ちあふれていて、不確実性が高まっている時代において、自分の核を成す価値観を明確化し、再確認することは、私たちが取れる最も重要な行動だといえるかもしれない。
価値観の効用
価値観は、言葉の上だけのものではない。それは、リアルで、実践的で、強い力を持っている。よりよい人生を生きるために、よりよいリーダーになるために、よりよい人間になるために、日々活用できる。
この点こそが、価値観の真の価値といえる。それは、私たちの最も根幹を成す要素だ。しっかり意図を持って価値観を活用すれば、明確性と強さとパーパスを生み出す最大の源になりうる。
筆者は、これまでに世界中の1万人を超すリーダーたちに助言を行い、自身にとって最も重要な価値観を明らかにし、その価値観に沿って意思決定を下し、人間関係を育み、モチベーションを抱き、倫理的な行動を貫くのを手伝ってきた。
自分の価値観を適切な言葉で表現することの意義は大きい。私たちはたいてい、何を重視すべきかを直感的に理解しているが、わざわざ時間を取って、そうした価値観を明確にし、言葉で表現することに意味がある。自分の価値観について漠然と考えるだけでなく、より徹底的に検討することにより、判断力が研ぎ澄まされ、自分自身と他の人たちを導く能力が高まる可能性がある。
自分の価値観を選び出す
そのような価値観を明らかにする方法は2つある。リフレクション(内省)とラダリングである。
リフレクション
リフレクションとは、過去を振り返り、自分が重んじる価値観を体感した時の感情を掘り下げることだ。
価値観は、私たちが物事に評価を下す際の原則を指す。ある物事が好ましいか、好ましくないか、重要かを判断する際に用いる基準だ。そこで、自分にとって大切な価値観を体感している時の記憶を活性化させるには、非常に好ましい、もしくは非常に好ましくない、あるいは非常に重要と感じた経験や人々やプロジェクトについて思い返せばよい。
この目的を達成できるリフレクションには、さまざまなタイプのものがある。以下のことを試してみるとよいだろう。仕事での非常にネガティブな経験、つまり、傷ついたり、腹が立ったりした時のことを振り返る。その記憶を細部まで呼び覚まし、その時どのように感じたかを思い出すのだ。
そして、自分がなぜ傷ついたり腹が立ったりしたのかを、「その状況で欠けていたポジティブな要素は何か」という観点で一語もしくは二語(できるだけ簡潔に)書き出す。
たとえば、誰かに嘘をつかれて傷ついたとすれば、「不誠実」と書く。欠けていた要素は誠実さだからだ。非常にネガティブな状況の場合、欠けている要素は一つではないかもしれない。他に欠けていた要素は何かと自問しよう。この問いをさらに2回繰り返してみる。
そうやって、合計で4つの価値観を書き出すことを目指す。
その後は、別のリフレクションを行う。今度は、仕事での非常にポジティブな経験、つまり、全面的に満足感を抱けた経験を思い返す。その経験をめぐるポジティブな感情の詳細を思い返し、その記憶に浸るのだ。
その時、それほどまでに強い満足感を抱けた要因は何か。そうした要因は、他にもないか。さらに2回、同じ問いを自分に対して行う。
ここでも、合計で4つの価値観をリストアップすることになる。これらを最初のリフレクションの結果と合わせると、8つの価値観を洗い出せているはずだ(8つの価値観を見出せなかった人もいるかもしれない。2種類のリフレクションの両方で浮上した価値観があった場合は、それはそれでかまわない)。
リフレクションによりリストアップできた価値観が自分にとって最も重要な要素をおおよそ反映していると思えるのであれば、次のステップに進んで、それらの価値観に磨きをかけていけばよい。一方、見出せた価値観に満足できなかったり、自分の価値観を明らかにするための他のアプローチも知りたいと思っていたりする場合は、次のラダリングのエクササイズを試してみよう。
ラダリング
構造化された方法論に従い、具体から抽象へ段階的に深掘りしていくことにより、自分の核を成す価値観を明らかにしていく。この方法論は1960年代に開発されたもので、特に心理学と消費者リサーチの分野で広く用いられてきた。これにより、自分にとって何が本当に重要かを明確化できる。
ラダリングの出発点は、いたってシンプルだ。まず、自分の人生を構成する3つの要素を選び出す。仕事、恋愛、場所、あるいは好きな食べ物など、楽しい物事でもよい。どのようなカテゴリーのものでもかまわないが、あなたにとって重要なものでなくてはならない。
3つの要素を選んだ後は、その3要素は互いにどう違うのか、どれが一番大切なのか、さらに(これは非常に重要な問いだが)なぜそれが最も大切だと思うのかを考える。そして、具体的な要素についての検討から離れて、みずからがそのような要素を大切に思う根本的な理由を突き止めることを目指す。
このように、理由を問い、対比させることを繰り返す。それ以上掘り下げることができない段階に達するまで、それを続ける。この最後にたどりついた要素こそがあなたの核を成す価値観である。
複数の3点セットについてこうしたプロセスを繰り返し行い、いくつかの価値観を洗い出す。たいてい、3~8個くらいの価値観を見出せるだろう。これらは、あなたにとって最も重要な要素を凝縮したものといえる。
価値観に磨きをかける
これで、あなたは、リフレクションもしくはラダリングにより、3~8個くらいの価値観を明らかにできた。あなたが見出したものはすべて、あなたにとって重要な要素だ。次は、リストアップしたものすべてを再度検討し、さらに磨きをかける余地がないかどうかを確認しよう。
あなたがラダリングにより見出した価値観の一つが「達成」だったとしよう。これと似た意味を持つ言葉をいくつか挙げてみてほしい。この作業では、生成AIの力を借りてもよい。
類義語リストの一番上にある言葉から検討を始めよう。その言葉が「卓越」だったとする。その場合、こう自問すればよい──「達成と卓越のどちらかを選ばなくてはならないとすれば、どちらをより重要と考えるか」
続いて、より重要な要素として選んだほうの言葉と、リストの2番目の言葉を比較し、どちらをより重要と考えるかを検討する。そしてさらに、選んだほうの言葉と、リストの3番目の言葉の比較を行う。自分の価値観を最も的確に表現できる言葉を見出せたと確信できるまで、このような比較検討の作業を繰り返す。
目標は、価値観を一つ残らずリストアップすることではない。自分にとって特に重要な価値観の本質をずばりえぐり出すことを目指す。
自分にとって最も重要な価値観を明らかにした後は、それをいつでも参照できるようにして、自信や倫理観やモチベーションを高めたい時に手軽に活用できるようにしよう。筆者が助言してきたリーダーの多くは、自分の価値観のリストをスマートフォンに記録したり、カードに書き記して財布に入れて持ち歩いたりしている。
* * *
冒頭で紹介したマット・フィーリーが経験したように、リーダーシップと判断力が問われている時、常に完全な情報を得られたり、いつも時間のゆとりがあったりするとは限らない。しかし、自分が最も大切にする価値観が何かを知れば、情報や時間的な余裕以上に強力な基盤を手にできる。何を大切にすべきかを明確に理解し、その重要な価値観に沿って自信を持って行動できるようになるのだ。今日の世界では、物事のスピードが遅くなったり、状況が単純になったりすることはほとんどない。そうした世界において、自分の価値観を明確に理解できることの価値は極めて大きい。
"What Values Do You Really Stand For?" HBR.org, April 22, 2026.







