AIで収益を伸ばす企業が実践する4つのステップ
Illustration by Mandy Tsou
サマリー:生成AIの導入が進む一方、多くの企業は個別業務の自動化に留まり、期待したROIを得られていない。成功企業はAIを事業価値や競争優位を再定義する手段と捉え、組織横断でワークフローを再設計することでEBITDAの大幅な向上を実現している。カギとなるのは「戦略の絞り込み」「プロセスの再考」「現場人材の巻き込み」「適切な指標による測定」という4つのステップを踏み、ビジネスを刷新することである。

AI活用で「ミクロな生産性の罠」に陥っていないか

 生成AIは新奇な存在から経営層の優先課題へと、記録的な速さで駆け上がった。しかし、このテクノロジーの幅広い導入とは裏腹に、その能力に見合った収益向上をすべての企業が実現しているわけではない。

 筆者らは、オープンAIで100万社を超える企業にAIを提供する役割、およびベイン・アンド・カンパニーで企業のAI導入を支援する役割を通じて、どのようなアプローチが変革的な生産性向上とEBITDA成長につながり、何が成果を生まないのかに関して独自の知見を得てきた。本稿は、基本的な実験の段階を終えてAIの大規模展開を目指しているものの、その取り組みに行き詰っている、または期待されたROI(投資収益率)をいまだに達成できていない多くの企業のリーダーに向けて執筆したものである。

 筆者らは金融サービス、小売り、ヘルスケア、テクノロジーやその他さまざまな業界で、AIの潜在能力を十分に活用できていない企業の大半が、言わば「ミクロな生産性の罠」に陥っている様子を目にしてきた。これは、AIをプラグ・アンド・プレイ型のSaaSへの投資のように扱い、孤立したユースケースや場当たり的なパイロットに留まってしまうことを意味する。

 こうしたケースでは、リーダーはAIを、既存の商材を最適化するために使う(「商材への固定化」に陥る)か、または現在のプロセスを再考せずに自動化するために使う(「プロセスへの固定化」に陥る)。両方に該当する場合も多い。

 個々人は主要なタスクでしばしば生産性の向上を実感するが、周囲のワークフローがいまだに暗黙知や手作業での引き継ぎ、あるいはAI向けに構築されていないレガシーシステムに依存している場合、それらの向上は全社レベルでは停滞する。AIはタスクを高速化できるものの、企業がワークフローのボトルネックに対処しなければ、生産性の向上がビジネス価値につながるとは限らないのだ。

 一方、AIトランスフォーメーションに成功している企業は、組織全体を見渡して将来を見据える視点に立つ。「タスクの改善」から脱却し、「ビジネスの刷新」へと向かう。現在の商材を最適化するのではなく、自社の中核的な提供価値を再検証し、価値の源泉を再考し、将来どこで勝てるのかに焦点を当てる。既存のプロセスを再発明するのではなく、成果志向のアプローチを採り、それらのプロセスがいかなる成果をもたらすのかを軸に据える。そして「我々は強力なAIツールが存在する世界に生きている」という前提から出発し、ワークフローを再構築する。

 ここにAIの本当の可能性がある。事業収益を伸ばし、顧客に貢献し、市場で競争する方法を、AIは部門横断的に再構築できるのだ。筆者らが協働し、このような形でAIを活用した企業では、指標に明らかな成果が表れている。ベインのクライアントはEBITDAが10~25%向上し、取り組みの拡大に伴って向上が続いている。これらの結果は根底にある投資と努力に対し、多大なROIをもたらしている。

 筆者らの観察によれば、この取り組みに成功している企業は、組織全体でビジネスを刷新するというマインドセットを維持するうえで役立つ4つの共通のステップを踏んでいる。(1)可能性と取り組みを戦略的に絞り込む、(2)組織全体でワークフローを再考する、(3)現在のプロセスに最も近い人材を巻き込み、変革を主導させる、(4)適切な成果指標を選ぶ、である。

 筆者らが緊密に協働した企業のうち2社で、各ステップがどのように展開されたのかを紹介しよう。1社はホームセンター小売りのロウズ(オープンAIと提携し、後述する2つのサービスをリリースした)、もう1社はフォーチュン1000に名を連ねる製造企業のファブリケーション社(仮称)である(後述する取り組みをベインが支援した)。

ステップ1:可能性を戦略的に絞り込む

 AIの変革的な可能性は、あらゆる職能と職務に影響を及ぼしている。だが筆者らが見てきた中で、AIを最も効果的に活用している企業は、現実的かつ具体的な成果を考えずにAIを全方位に広げたくなる衝動を抑えている。代わりに4つか5つの重要領域を見極め、変革の取り組みをそこに集中させている。