有能なリーダーが「問題児」扱いされてしまう評価の罠
Illustration by Matt Harrison Clough
サマリー:優れたリーダーが、組織から「扱いづらい」と批判され、「行動を修正すべきだ」と指摘されるケースが少なくない。このようにリーダーの本当の評価を見誤ってしまう背景には、環境や過去の評判を無視して個人の行動だけに問題の原因を求める「評価の罠」が存在する。リーダーシップによる摩擦は、本人のスキル不足だけでなく、過去のレッテル、強みへの過度な依存、あるいは組織システム側の問題といった多様な要因から生じる。本稿では、摩擦の真の原因を見極めて組織の評価バイアスを排除し、優秀な人材を活かすための具体的なアプローチを紹介する。

リーダーに対する不満の原因が正しく認識できていない

 筆者がコーチングを担当したハイテク企業のエグゼクティブであるアナ(仮名)は、着任してわずか1年で「弱点」があると告げられた。CEOは彼女の決断力を称賛し、明晰さを尊重し、自信に満ちた姿勢を高く評価していた。しかし同時に、CEOのもとには苦情が届き始めており、彼はそれをすぐにアナに伝えた。不満の内容は共通しており、「彼女はスピードが速すぎる」「周囲の準備が整う前に決断を下す」「私たちは常に後追いさせられている」というものだった。

 アナはフィードバックを真摯に受け止め、アプローチを改めた。しかし、何も変わらなかった。そこで筆者が招かれたのである。関係者に話を聞くと、ある事実が浮き彫りになった。問題は彼女の決断力ではなかったのだ。その会社では、過剰な合意形成が常態化していた。スピードは価値ではなく無謀さと捉えられ、切迫感は融通の利かなさと見なされていた。アナの決断力が摩擦を生んだのではなく、摩擦の存在を露呈させたのだ。

 アナのような経験をするケースは、珍しくない。筆者がコーチングしたシニアリーダーたちの間でも、こうした構造を頻繁に目にする。リーダーは「これまでとは違う姿を見せるべき」「もっと戦略的になるべき」「ペースを落として」などといわれる。彼らがそれに応じて調整しようとしても、何も変わらない。フィードバックの内容も、彼らに対する周囲の見方も、以前と同じままである。

 その結末は予測がつく。リーダーは不満を募らせ、組織側は適性に疑問を抱き始め、業績改善計画に着手し、多くの場合、水面下で後任の計画を立てる。だが、ここで本当に重要なのは、組織が問題を正しく見極められているかという点だ。

評価の罠という戦略的リスク

 組織が優れたリーダーを失うのは、そのリーダーが「扱いづらい」からではない。何が彼らを扱いづらくさせているのか、その原因を見誤るからだ。筆者はこれを「評価の罠」と呼んでいる。

 人材評価の場で、経営陣は決まって次のような質問を口にする。「なぜこのリーダーは、優秀だったのに苦戦し始めたのか」「彼らは何を変える必要があるのか」。その答えは、ほぼ例外なく一つの結論に収束する。「修正すべき行動がある」というものだ。

 問題はデータが不足していることではなく、データの解釈の仕方にある。組織は、最も目につきやすい行動を基準にしがちだが、その行動を方向づけている背景は見えにくい。これは広く知られたバイアスを反映している。私たちは結果の要因を個人に結びつけがちで、それを取り巻く環境を軽視してしまうのだ。コンピテンシーモデルもこのパターンを助長している。複雑なリーダーシップの力学を行動特性という言葉に落とし込むことは有用だが、それだけでは不十分だ。時間が経つにつれ、すべての評価が行動というレンズを通してしか見られなくなる。摩擦が生じると、組織は単純に「リーダーに問題がある」と決めつけてしまう。

 そして、その前提が間違っていた場合、代償は大きい。組織はリーダーを誤解するだけでなく、昇進、育成、リテンションに関しても誤った意思決定を下すことになる。この罠に最も陥りやすいのは、パフォーマンスの低い人材ではない。むしろ、組織が最も依存している極めて有能かつ高い成果を上げるリーダーで、彼らは周囲から「素晴らしい、だが……」と評されることが多い。

原因の誤認がもたらす結果

 摩擦の原因の誤認は、単なる解釈の誤りに留まらず、リーダーに重大な影響を及ぼす意思決定だ。一度間違ったレッテルを貼られると、その後のあらゆる決定がそのレッテルを補強し、深刻な結果を引き起こす。