もちろん世の中には「目標絶対達成!全力投入!全速力進撃!」という生き方を貫徹できる人もいるわけで、それはそれでスゴイことだ。オリンピックに出るような世界的なスポーツ選手にはこういう人が多いような気がする。川の流れに身をまかせている僕としても、こういう人は心から尊敬する。
ただし、自分がそういう生き方を実践できるかというと、絶対に無理なことも確信している。僕が凡人だからだといえばそれまでだが、「凡人」の定義からして、ありていに言って世の中の99%の人はそっちの方なわけで、「川の流れのように」の方が自然で、結果的にも実りの多い幸せな生き方なのではないか。
最近、Kさんのブログを見ていて驚いたことがあった。Kさんはスマホ小説(スマートフォンのアプリで読む小説)の連載を始めたというのだ。Kさん(話がどうも伝わりにくいので実名にする。ようするに鎌田和彦さんのこと)は旧知の友人。若くして会社(人材紹介サービスを主な事業とする株式会社インテリジェンス)を創業し、長くその経営を担ってきた人物で、年齢は僕と同世代。僕は十数年前から鎌田さんを知っているのだが、知り合ったときから一発で好きになった。言動がとにかく率直でスカッとしている。たとえば「どう?最近、商売の調子は?」と尋ねたりすると、「いやー、よくないね。何がよくないかって、経営が悪い!」。「え、それって自分のことじゃないの?(当時は鎌田さんが社長だった)」と突っ込むと、「その通り!」と爽やかな答えが返ってくる。鎌田さんと話すのはとても楽しい。
数年前に鎌田さんはインテリジェンスの経営を離れた。その後、パン屋さん(これが美味しい)やフレンチレストラン(これも美味しい)を始めたり、「アート・クラフト・サイエンス」という不動産投資会社の経営をしたり、と活動領域が広いのだが、それにしてもスマホ小説とは意外だった。しかもタイトルが『奥さまはCEO』。これが鎌田さんのイメージと(僕に言わせれば)まったく違うので、最初は冗談だと思った。
男女関係が昔と変わる中で、キャリアのある年上女性がジュニアな男性と結ばれるケースが増えているという時代性を反映したドタバタ劇がベンチャー企業を舞台に展開していく。縦糸にCEOと平社員の恋愛を、横糸にベンチャー企業で巻き起こる異常な日常を描く。これが『奥さまはCEO』のアウトラインだ。ご本人はいたって本気。何万字も書いて、いくつものバージョンを捨てては書き直したという。ベンチャーの創業経営者を経験しているだけあって、内容がとても面白いのに二度びっくりした(『奥さまはCEO』はスマートフォンで以下のサイトから読めますので、御用とお急ぎでない方はご覧あれ。http://smtapp.lawson.jp/wifi/novels/ceo/sns.html)。
しばらくたって、鎌田さんのブログを覗いてみると、こういうことが書いてあった。スマホ小説を始めて、「いったいどこに向かおうとしているのか?」ということをよく聞かれるようになった。何をやっている人なのか、自分でも説明ができない。仕事はそれぞれ全部まじめにやっている。でも、それぞれに脈絡がないと言われたらその通り。そもそも「計画的に生きていく」というのは、どれほど可能なことなのか?10年前、5年前に、今のように生きていることを予想できていた人はほぼいないはず。「人生、先が見えないから面白い」と言えるほど豪放な人間ではないけれど、やりたいことをやる人生の方がいい。その意味で、スマホ小説なんてものは、完全なチャレンジですごく面白い。
「やりたいと思ったことは全部やる。これが今の方針だ」と鎌田さんは言う。ことほど左様に鎌田さんはやたらとアクティブだ。それに対して、僕はというと、仕事の領域を拡げる方ではない。大体同じようなことを何年もズルズルとやっている。それでも、「川の流れのように」という仕事生活の基本スタンスにおいては、わりと鎌田さんと僕とで共通するものがある気がする(この辺、確認してないので違うかもしれないが)。