「自社開発か買収か」を判断するための3つの指針
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サマリー:企業の「自社開発か買収か」という判断は、単純な二者択一ではない。資産の性質や時間軸、組織の統合能力、市場ニーズを踏まえ、「どの資産をどちらで獲得するか」を見極めることが重要である。約1万7000件の取引データ分析から、有形資産、組織資本、イノベーション資本では最適な判断基準が異なることが明らかになった。本稿では、買収と自社開発の手法を正しく使い分けるための「3つの指針」を紹介する。

1万7000件の事例を分析した結果

 イノベーション競争で優位に立つために、企業はしばしば「自社で開発・構築する」(Build)か「外部から買収・調達する」(Buy)かという選択を迫られる。一般的に買収は、シナジーの創出、規模の拡大、事業の多角化、市場投入までの期間短縮、即戦力となる資産の獲得をもたらす手段として語られる。一方、自社開発は、ニーズに合わせたカスタマイズが可能で、コストを抑えられる選択肢と見なされがちだ。

 しかし、こうした捉え方はあまりに単純すぎる。本質的な問題は、自社開発すべきか買収すべきかではない。資産の性質、時間軸、組織の統合能力、市場ニーズの緊迫度、経営陣が許容できる不確実性のレベルを勘案したうえで、「この特定の資産や能力は、自社開発すべきか、それとも買収すべきか」を問うべきだ。

 筆者らの見解は、2010~2025年の15年間にわたる、上場企業の取引データ約1万7000件についての研究に基づいている。同一企業が同じ年度内に、社内投資(自社開発)と他の上場企業の買収を同時に行ったケースに焦点を当てた。その結果、自社開発か買収かという問いへの答えは、対象が有形資産か、組織資本か、あるいはイノベーション資本かによって、明確に異なることが判明した。それぞれ成長性とリスクのプロファイルが異なるため、意思決定のルールも当然異なるべきなのである。

意思決定の指針

 本稿では、自社開発か買収かを判断するための3つの指針を提示する。

1. 標準化、スピード、展開力を重視する場合は有形資産を買収する

 有形資産に関しては、買収のほうが実務上の優位性を持つことが多い。同一企業内での比較において、買収した土地、工場、設備などの有形固定資産は、社内の設備投資よりも将来の売上成長に強く結びついている。このもっともな理由として、買収した資産はすぐに稼働できる状態にあるのに対し、社内での設備投資は稼働までに時間がかかり、コスト超過に陥りやすい点が挙げられる。

 資産が標準化されており、すぐに生産活動に移行できる状態にある場合、買収は時間を圧縮する。制約となっているのが生産設備、地理的拠点、あるいは物流インフラならば、通常は買収のほうが有効な手段だ。これは、遅延が大きな損失につながる資産集約型のセクターで特に顕著である。

 アマゾン・ドット・コムによるホールフーズ・マーケットの買収は、この好例だ。同社の買収により、アマゾンは生鮮食品ビジネスにおける物理的な拠点を即座に手に入れた。その戦略的価値は、資産を所有すること自体よりも、参入障壁の高い市場への進出スピードにあった。あの規模の拠点を1店舗ずつ自社で構築していれば、はるかに長い時間がかかったはずだ。

 ただし、有形資産の買収が常に安全な選択肢というわけではない。ダイムラーによるクライスラーの統合は、いまなお語り継がれる教訓だ。買収対象となった資産そのものは本物だったが、統合に伴う課題は想定よりもはるかに大きかった。

 一方、その資産を取り巻くオペレーションシステムに真の強みがある場合は、社内での構築が威力を発揮する。トヨタ自動車の生産方式(TPS)はその典型例だ。トヨタは工場を所有していることだけで優位性を築いたわけではない。工場の稼働方法にルーチン、規律、学習を定着させることによって、優位性を生み出したのだ。