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パーパスが好ましい契約から弊害へと転換される時
パーパス重視のリーダーシップが計り知れない恩恵をもたらすというのは、いまやよく知られていることだ。長年の研究の積み重ねを通じて明らかになっているように、説得力のあるミッションを打ち出し、働き手がそのミッションと自分の仕事のつながりを見出せるようにすることにより、理念に関して会社と働き手の「契約」が形づくられる。
そのような「契約」は、働き手に永続的なエンゲージメントを抱かせ、売上げやその他の成果指標を改善し、働き手の燃え尽きを防ぎ、最高レベルの人材を自社に引きつけられることがわかっている。
しかし、パーパスにこうした潜在的な好材料があることは事実だが、筆者らの研究によれば、言わば「インパクトの阻害」が生じると、パーパスの好ましい側面が深刻な弊害へと転換してしまう。ミッションを実行する現場の最前線で働く従業員の場合、とりわけこの問題が起こりやすい。ここで言う「インパクトの阻害」とは、マネジャーの意図はともかく、会社が働き手の手足を縛り、現場でより大きなインパクトを生み出す邪魔をしていると従業員が感じる状況を言う。
筆者らは、ミッション主導型組織について回るリスクを明らかにするために、米国各地の組織で働く1000人以上のフルタイム労働者を追跡調査した。調査対象者の職種や職務経験のレベルはさまざまだ。
この調査ではさまざまなタイミングで、現在の職場でどの程度「インパクトの阻害」を経験しているか、そして自分と雇用主の関係をどのように考えているかを調査対象者に尋ねた。それに加えて、調査対象者の同僚一人に、その人物の仕事のパフォーマンスについて第三者の視点での評価を求めた。さらに1年後、調査対象者が退職していないかどうかを調べた。
すると、「インパクトの阻害」は幅広く見られる現象であり、さまざまな業種、職種、企業規模の職場で発生していることがわかった。つまり、この問題はどの組織でも起こりうることなのだ。
たとえば、ある企業の人事マネジャーは、ソフトスキルが自社の重要な採用基準であるにもかかわらず、若い人材の採用活動のための出張が認められなくなった。ある看護師は、病院の効率性に関する指標が原因で、患者に関して危険なインシデントが起こっていることに気づいた。ある薬品配達担当者は、主に保険関連の懸念により、薬を最も必要としている市内の地区への配達を禁止された。ある映画プロデューサーは、オンラインでのチケット販売への移行に伴い、映画のチケットを入手しにくい人が増えているという逆説的な結果を目の当たりにしている。
ここに挙げた事例はすべて、そもそもは好ましい目的を追求するためのマネジメント慣行が原因で生まれている。コストの削減や、拡張可能性のある利益モデルの明確化、社内外のルールや規制に従うことによるリスクの最小化などを意図した措置に端を発する問題なのだ。
しかし、好ましい目的のための措置が原因であるからこそ、「インパクトの阻害」に伴う問題は目につきにくくなっている。そして、ようやく気づいた時には、ネガティブな影響がすでに生まれてしまっている場合が多い。
問題は、働き手が「インパクトの阻害」を単なる残念な混乱に留めず、より深刻に受け止めることにある。筆者らの研究によると、「インパクトの阻害」を経験した働き手は、勤務先の会社が自分たちとの理念上の「契約」を破り、ミッションを損なったと感じる。そうなると、労使の関係が根本から変質してしまい、働き手は会社側に対して怒りを抱くようになる。
労使の関係が損なわれる
調査対象者たちを細かく検討したところ、「インパクトの阻害」を経験した働き手を取り巻く深刻な状況がくっきり見えてきた。まず何より、働き手が自社のリーダーたちのことを、好ましい方針を実行する善良なマネジャーではなく、自社の中核的なパーパスから目を背け、大切な約束を破った人物と見なすようになる。
しかし、あらゆるタイプの働き手が同様の経験をするわけではない。特に、顧客と頻繁に接する人たちのダメージが大きい。そのダメージの度合いは平均の2倍近くに達する。
このパターンに該当するのは多くの場合、最前線の働き手たちだ。この人たちは、自分がインパクトを生み出すのを妨げられることにとりわけ憤慨する。顧客と間近で接しているからだ。現場のスタッフは、顧客が実際に何を望んでいるのかを最もよく認識しており、そうしたニーズを完全に満たせないことの歯がゆさを最も痛感している。
また、調査対象者たちに対する同僚の評価内容を検討すると、「インパクトの阻害」の度合いが高いと回答している働き手たちは、仕事に注ぎ込む努力が少ない傾向があることがわかった。
具体的には、努力の量を減らしたり、仕事のペースを落としたり、さらには上司の指示に従わなかったりする確率が約60%高い。しかも、友人や家族、顧客に対して自社についてポジティブに語る確率も20%近く低い。自社を批判から擁護しようとする確率も低い。一言で言えば、職場で非生産的な行動を取ることが増えて、雇用主のために生産性を向上させることを拒むようになるのだ。
1年後に、調査対象者たちのその後の状況を調べた。すると、自己申告に基づく「インパクトの阻害」の度合いが最も高かった働き手たちは、その度合いが最も低かった人たちに比べて、すでに会社を退職している割合が5倍近くに上った。勤務先の会社に対する不満により、仕事に注ぎ込む努力が静かに蝕まれていき、ついには会社を辞めてしまったのである。
この人たちは、潜在的にはよい働き手になる可能性があった人たちだった。うまくいけば、ミッションに沿って会社に貢献できていたかもしれないのに、会社に幻滅して去っていった。自社がミッションを裏切ったと感じたからだ。
悪しき官僚主義の産物
そもそも、「インパクトの阻害」はなぜ起きるのか。それは主として、抑圧的な官僚主義から生まれる。規則や方針などの硬直的なマネジメントコントロールが自己目的化し、現場の働き手に対する不信感を表現して、その結果として働き手が最良の判断を下すことを妨げてしまうのだ。
この問題の核心は、よき官僚主義が悪しき官僚主義に変容することにより、働き手が効率よく顧客に奉仕することが妨げられる点にある。上層部がその方針を好ましいものと考えていたとしても、そうした事態は持ち上がる。
規則や組織階層の類いは、顧客の状況やニーズを細部まで具体的に予測して設けられるとは限らない。そのような官僚主義的な要素があまりに硬直的になり、自己目的化すると、働き手の手足が縛られてしまい、顧客の望みに応えることが難しくなる。
こうした問題が生じているケースは非常に多かった。調査対象者の半分近くは、自分がさらにインパクトを生み出せるはずなのにと感じ、勤務先の会社に不満を抱いていた。
企業のトップリーダーは、「インパクトの阻害」への対策としてどのような措置を講じればよいのか。以下では、「インパクトの阻害」を最小化し、働き手がより全面的に自社のパーパスを実践できるようにするために、研究に基づく提案を3つ紹介する。
第1に、「パーパスの点検」を行い、社内の部署やチームがどれくらい「インパクトの阻害」の影響を受けているかを明らかにしよう。この点検のために従業員のアンケート調査やインタビュー調査を行う際は、以下の問いが役立つ。
・我が社の規則や方針のせいで、あなたが顧客(あるいは患者や生徒)のために最善の行動を取ることが妨げられていると感じることがどの程度ありますか。
・我が社では、どれくらい官僚主義が顧客を助ける妨げになっていると思いますか。
・あなたの手足を縛ることが特に多いと感じるのは、どの規則や指標、プロセス、制限ですか。
・あなたの上司はどれくらい、あなたが顧客に奉仕する妨げになっていますか。
・リソースの制約により、顧客のためにポジティブなインパクトを及ぼせないことがどれくらいありますか。
こうした点検のプロセスをきっかけに社内の官僚主義に変化が起こり、規則や手続き、過剰な量の書類作成義務などにより、パーパスの実践が妨げられる状況が解消されるかもしれない。
一例を挙げると、2020年に英国の国民保健サービス(NHS)が現場の医療従事者の状況を調べたところ、重複した内容の書類を大量に作成させられることが重い負担になっているとわかった。地域の臨床医は、平均すると年に88日の勤務日をその作業のために費やしていたのだ。そこで、英国政府は臨床医が患者の診療そのものにより時間を割けるようにするための取り組みに着手した。
パーパスの点検はしばしば、不要なルールを刈り込むための重要な最初の一歩になる。この作業を通じて、働き手のモチベーションとコミットメントを静かに蝕んでいる規則の類いをなくすことができるのだ。
第2に、働き手が行動する背中を押すような官僚主義を育もう。
ビジネスの世界で「官僚主義」がしばしば悪いイメージを持つ言葉であることは否定できない。ウォルマートの元CEOであるダグ・マクミロンは、官僚主義を「悪役」と呼んだ。
しかし、規則や手続きの類いの中には、マネジメントの慣行として明らかに必要であり、好ましいものもある。あらゆる官僚主義を取り除くことではなく、抑圧的な官僚主義をなくすことが重要なのだ。
リーダーはこの「悪役」と戦うために、好影響と悪影響を差し引きした場合に自社のミッションを損なっていると思える官僚主義を改善すること、そして、マネジメントコントロールを最適化し、そうしたコントロールが会社に恩恵をもたらし、しかも働き手が同僚たちにポジティブな影響を及ぼせる状況をつくり出すことに集中すべきだ。
ただし、リーダーたちに注意を促したいことがある。官僚主義の排除を一律に推し進めたいという誘惑に屈してはならない、ということだ。そのようなアプローチを採用すると、それ自体が抑圧的なプロセスや制度をつくり出しかねない。反官僚主義のための会議や指標が新たに生まれるおそれがあるのだ。逆説的なことだが、それはかえって問題を増やす結果を招く。
リーダーは、方針を立案しようとする際、現場の働き手やマネジャーの行動をよく観察し、アドバイスを引き出すよう努めるべきだ。そのような人たちは、顧客のニーズを誰よりもよく知っていて、好ましいインパクトを最大化する仕組みづくりを助けてくれるだろう。
MBAプログラムの元学生で、現在はある中規模のヘルステック企業の最高幹部を務めている人物は、そのような最適化されたコントロールを成功させた典型例といえる。
この会社のミッションの核を成す要素の一つは、地域の医療機関がオペレーションの効率性を高めるのを助けるための革新的なサービスをつくり出すこと。しかし、あるプロダクトリーダーが顧客のためにウェブサイトと投資収益率計算ツールの試作品をつくるために生成AIを用いたいと考えた時、この会社の通常の承認プロセスに従えば、アイデアの実現が遅々として進まなくなるおそれがあった。
そこで、この最高幹部は、社内版の「インキュベーター」制度をつくり、そのプロダクトリーダーが新しいツールを顧客向けに投入するための社内承認を求める前に、社内で構築とテストを行えるようにした。また、プロダクトリーダーの取り組みに関して明確な「ガードレール」も設けた。時間と予算の上限を定め、セキュリティの確保された社内のサーバーを用いるものとしたのだ。
このアプローチは功を奏した。プロダクトリーダーは、短期間で試作品を開発し、潜在的な顧客にそれを示し、社内の承認プロセスを最後まで完了させようというモチベーションを抱き続けた。最高幹部はこのプロジェクトを社内で後押しし、上級幹部たちの間でのプロジェクトの認知度を高め、正式な審査を突破できるように手助けした。
明確な「ガードレール」を設け、その枠内でプロダクトリーダーが自由に行動できるようにした結果、リスクを減らしつつ、新しい取り組みを窒息させることも避けられた。それにより、新しいツールが一つ生まれただけではない。会社がコントロールを失わずに、イノベーションを後押しするためのモデルが確立されたのだ。
この事例には、本稿で示す第3の提案も関係している。その3つ目のアドバイスとは、必要不可欠な制約については前もって説明しよう、というものだ。
企業は限りあるリソースで戦略上の優先課題を追求しようとする。その結果、質と量の間の緊張関係が生まれる場合がある。それに加えて、法律上の制限を設けざるをえず、その点では会社としてあまり柔軟に行動できない場合もある。
研究によると、働き手は制約を課されたとしても、その制約が必要なものだと思えば受け入れる可能性が高まる。したがってマネジャーは、特定の規則や手続きがなぜ必要なのか、どのように会社の究極的なパーパスに合致しているのかを、明確に、そして正確に伝える必要がある。
マネジャーが働き手に対してルールの存在理由を明確に説明すればするほど、顧客への奉仕とミッションの実行に制約を課されたとしても、働き手がそれを理由に会社を非難する可能性は小さくなる。
筆者らが話を聞いたリーダーの一人──ある大手小売チェーンで経営幹部を務めている──は、自分のチームが成功している少なくとも一つの要因として、店舗におけるルールを明確化・厳格化することの必然性を明確に説明していることを挙げている。最前線の働き手は、そうしたルールがあるおかげで、店舗の棚を商品で満たし、コストを抑え、オペレーションを円滑に進めることができている。
それと同じくらい重要なのは、ルールを設ける目的を明確に説明していることだ。この目的とは、リスクを減らし、働き手と顧客を守り、店舗間の一貫性を確保することだった。このような説明をすることにより、ルールがあまり官僚主義的に感じられなくなり、むしろ必要な「ガードレール」だと思えてきた。
しかし、この会社では、ルールを修正可能なものとしている。店舗とのコミュニケーション経路を開いておくことにより、時代遅れになったプロセスを洗い出して、変更したり廃止したりしている。たとえば、アプリを用いた自動精算が当たり前の時代には、レジでの確認のプロセスは時代にそぐわなくなっている。
こうして、明確なルールを定めると同時に、現場からのフィードバックの余地を残し、顧客サービスを改善できている。
* * *
パーパスは、ミッションステートメントだけ決めておけば維持できるものではない。日々の手続きやルールを通じて、働き手がパーパスに沿って行動できるようにする必要がある。「インパクトの阻害」を生む要因を取り除ければ、その効果は、自社に人材をつなぎとめられることだけではない。働き手がそもそもその会社を選んだ理由を取り戻すこともできるのだ。







