自社サービスを「顧客の習慣」に組み込む方法
HBR Staff/AI
サマリー:テック企業がしのぎを削るAI競争において、持続的な優位性を築く真のカギは何か。それはモデルの能力を高めることではなく、顧客の日常に深く介入する「習慣の堀」を築くことだ。一度自動化された顧客の行動は、他社がどれほど優れた技術を出そうとも揺るがない最強の防御壁となる。本稿では、アリババなど中国企業を中心とする先進事例から、顧客のデフォルトを勝ち取る4つの習慣戦略を提示する。

中国企業が一歩リード

 2026年、中国と米国のテック大手は、AIの提供に関してまったく異なるキャンペーンを開始した。

 中国では春節の期間中、アリババが4億ドル超を顧客に還元した。中国の消費者がアリババのAIアシスタント「クエン」(Qwen/中国では「千問」として知られる)を介して行った外食、映画チケットや航空券の予約、食料品デリバリーの費用を一部補助するというものだ。ただしトランザクションの最初から最後までをクエンが担った場合のみ、という条件がついた。

 その2週間後、太平洋の反対側では、オープンAI、グーグル、メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドットコムの各社がスーパーボウルの期間中、30秒最大1000万ドルの広告枠を使って自社AIの賢さや性能の高さ、変革性を米国の消費者に訴えた。

 この2つのキャンペーンの大きな違いは、両国の企業戦略の違いを反映している。そして、少なくとも現在のところは、中国企業に分があることを示す証拠が増えている。

米国型戦略:能力競争

 米国で支配的なAI戦略は能力競争である。つまり、学習データ、モデルサイズ、ベンチマーク、機能などで競合優位性を生み出すという考え方だ。能力が採用に、採用が支配につながるという前提に立っている。AIのインターフェースは、消費者が調べ物や取引を行うために訪れる場所、目的地になる。

 この論理は、テクノロジー戦略に深く根差している。検索エンジンやSNS、モバイルOSなどの過去のプラットフォーム戦争では、最良の製品が勝ち、長くトップに居座るのが常だった。

 能力競争はたしかにAI産業の成長を後押ししてきた。チャットGPT単独でも2025年に週間アクティブユーザー数が8億人に倍増し、市場全体も急拡大し続けている。全体として、米国のAI利用者の数は年30%前後の割合で伸びている。超成長産業である。

 しかし総体的な成長の裏では、厄介なパターンが現れている。米国のどのAI企業も、長く優位を保てないのだ。グーグルが2025年11月にジェミニ3を発表すると、オープンAIのCEO、サム・アルトマンは社内に向けて「コードレッド」(緊急事態宣言)を発し、次製品のリリースを数週間前倒しした。その3年前にチャットGPTに対抗してコードレッドを発したのはグーグルだった。

 このパターンは明白である。AI競争における今日のマーケットリーダーは、明日の追撃者だ。ベンチマークの優位もすべて刹那的だ。新しいリリースが出るたびにライバルはパニックに陥る。各社ともわずかな改善に何十億ドルと注ぎ込むが、数週間で追いつかれる。市場シェアからもそれが見て取れる。オープンAIのシェアは2023年の約50%から2025年には27%に低下し、アンソロピックは12%から40%、グーグルは21%に上昇した。

 さらに、AI能力の改善は回を追うごとに驚きが減っていく。主要なAIアシスタントのどれもがほとんどの質問に十分な回答を返し、使えるメールを書き、文書を要約し、機能するコードを生成することができるようになると、「改善モデル」からのわずかな改善は一般ユーザーには認識されにくい。精度90%と93%の差は、ベンチマークを実施する研究者にとっては非常に大きいが、消費者にとっては、わざわざチャットGPTを開くか、グーグルに質問を打ち込むかを判断する決め手になるほどではない。

 この不安定さと伸びしろの縮小は、消費者のAI離れを引き起こしているようだ。筆者らがスーパーボウルの週(欧米のAI広告が最高潮だった)のSNS投稿約11万9000件を分析したところ、AI広告に対するネガティブな心理がポジティブなそれを2.5対1の割合で上回った。AI広告に特化した投稿に絞ると、否定的反応は95%に達し、疲労感や監視の常態化への非難が繰り返し見られた。AI関連の広告で唯一好感度でトップ10入りしたのは、迷子犬を探すリング(Ring)のサーチ・パーティ(Search Party)機能だった。しかもその広告はAIには一言も触れず、感情に訴える具体的成果のみに終始していた。

 この状況を見ると、能力競争はもはや正しい戦略ではなさそうだ。では代替策は何なのか。