なぜリーダーはいま哲学を学ぶ必要があるのか
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サマリー:AIの普及や社会的合意の揺らぎに伴い、現代の経営判断には哲学的な視点が不可欠となっている。リーダーの哲学に対する習熟度は、財務リテラシーと同等に重要だ。意思決定の土台を成す暗黙の前提を可視化し、客観的に検証する能力が試されている。本稿では、存在論・認識論・倫理学という3つの哲学領域における前提の重要性と習熟法を解説し、それらを実践的な知恵へと昇華させる具体的な方策を論じる。

リーダーの哲学に対する習熟度は、財務リテラシーと同等に重要

 ビジネスリーダーは次第に、哲学的な判断を下すことが求められる機会が増えている。しかし、この新しい現実に対応できるだけのスキルを持っているリーダーは少ない。

 たとえば、AIの台頭を例に考えてみよう。アンソロピックは、自社の哲学的原則と行動の指針を詳細に文書化している数少ない企業の一つだ。同社の看板とも言うべきAIモデルの「クロード」は、その文書に基づいて、稼働し、判断を下す。専門の哲学者チームが同社の技術スタッフと協働して作成した文書「クロード憲法」により、このAIモデルが行うやり取りすべてに哲学的前提が織り込まれているのだ。

 これまでにクロードを導入した企業は30万社を突破している。この中には、米国の最大手企業10社のうちの8社も含まれる。しかし、筆者らの観察によると、このモデルを導入する企業の間でも、アンソロピックのプロダクトに織り込まれている考え方を理解し、同意しているかどうか、同意できない場合はどうすべきかという議論は、ほとんどなされていない。

 ビジネス界で哲学的な問いが重要課題になっている要因は、AIだけではない。少なくとも今日の米国では、歴史や価値観に関する社会的・政治的なコンセンサスが失われている。どのような言論が容認されるのか、専門知識とはどのようなものか、企業は従業員に対してどのような義務を負っているのか、テクノロジーの責任ある活用の仕方とはどのようなものか──こうした根本的な問いが、いま激しく、そして公然と論争の対象になっている。

 これらの問いは、突き詰めれば哲学的な問いだ。哲学はこれまでも常に、暗黙のレベルではビジネス上の意思決定の土台を成してきた。しかし、社会のあり方に関する安定した共通認識が存在しない時代には、リーダーはこれまでよりも明示的に哲学と向き合わなくてはならない。

 一般に、ビジネスリーダーが哲学について考えることがあったとしても、たいていは、哲学的なツールを利用して既存のビジネス上の目標を追求しようとするだけだ。

 たとえば、哲学的推論を土台とするクリティカルシンキングの能力は、企業幹部にとってとりわけ重要なスキルの一つとして挙げられることが多い。また、多くの反響を呼んだ最近の『MITスローン・マネジメント・レビュー』誌の記事では、企業がAI投資で価値を生み出すには哲学的思考が欠かせないと主張している。

 ビジネスで哲学が重要なのは、思考と戦略に磨きをかける役に立つことだけが理由ではない。ビジネスリーダーは、根本的な問いにも向き合わなくてはならない。物事の本質、知識の定義、正邪の判断といったことを考えることが求められるのだ。こうしたテーマは、「たまたま哲学的思考により恩恵を受けるビジネス上の問題」ではない。「ビジネスに直接的に影響を及ぼす哲学的問題」なのだ。

 筆者らは、実務家、研究者、教員として、哲学とリーダーシップの交差する場で活動してきた。その経験を通じて目の当たりにしてきたのは、こうした根本的な問いに向き合わないケースがほとんどだという現実だ。