成人発達理論の全体像と実務への活かし方:人の成長を2つの源流から読み解く
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サマリー:成人発達理論というとロバート・キーガンの名前を思い浮かべる人が少なくないが、実際には大きく分けて2つの源流がある。1つは「人が世界をどのように意味づけるか」に注目するもの、もう1つは「人がどれだけ複雑な構造を扱えるか」に注目するものだ。本稿では、成人発達理論の全体像について解説したうえで、これら2つの系譜を結びつけ、実際に人材の評価や育成につなげる方法について解説する。

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成人発達理論には「2つの源流」がある

 成人発達理論という言葉を聞くと、多くの人はロバート・キーガンや、近年のリーダーシップ開発の議論を思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、成人発達理論は一人の研究者が単独で築いた理論ではありません。20世紀を通じて心理学、教育学、哲学、認知科学の中で積み重ねられてきた複数の研究潮流が、少しずつ重なり合いながら形成してきた大きな学問領域です。したがって、その全体像を理解するためには、特定の理論家だけを追うのではなく、どのような系譜がどこで合流したのかを見る必要があります。

 その際に特に重要なのが、成人発達理論には大きく分けて2つの源流があるという点です。1つは、人が世界をどのように意味づけるか、どのような価値判断の枠組みで現実を理解しているのかに注目する系譜です。もう1つは、人がどれだけ複雑な構造を扱えるか、どのようなスキルや思考の構造を文脈の中で構成しているのかに注目する系譜です。

 前者の系譜では、発達とは「世界の見え方」や「心のOS」が変わっていくプロセスとして捉えられます。人は、同じ出来事に直面しても、それをどう意味づけるかによって、感じ方も判断も行動も大きく変わります。ある人は対立を脅威として受け取り、ある人は成長の契機として捉える。この差は、知識や経験の量だけでは説明できません。そこには、その人がどのような意味生成の枠組みで現実を生きているのかという違いがあります。この流れは、ボールドウィンからピアジェ、エリクソン、コールバーグ、キーガン、クック=グロイターへとつながっていきます。

 後者の系譜では、発達は「扱える複雑性」が高まっていくプロセスとして理解されます。人は、単純な因果関係しか扱えない段階から、複数の要素の関係性を同時に捉え、さらには複数のシステムを横断的に統合できる段階へと進んでいきます。この流れは、ピアジェの構成主義的発達観を継承しつつ、新ピアジェ派、ロビー・ケース、グレアム・ハルフォード、カート・フィッシャー、フローニンゲン学派、セオ・ドーソンへと展開していきます。

 ここで重要なのは、この2つの源流が互いに無関係な別々の理論群ではないという点です。むしろ、どちらも「人は大人になってからも変わりうる」「しかもその変化は、知識の蓄積ではなく構造の変容として起こる」という共通の前提を持っています。ただし、焦点の当て方が異なります。意味づけの系譜は、「人は何を前提として世界を見ているのか」を問います。構造的複雑性の系譜は、「人はどのレベルの構造で問題を扱えているのか」を問います。この2つが合流することで、成人発達理論は初めて、内面の意味生成と、外面に現れる思考・行動の構造を同時に扱える理論領域になったのです。

 この構図を理解することは、経営や人材育成の実務においても極めて重要です。なぜなら、職場で起きる多くの問題は、この2つのどちらか一方だけでは十分に説明できないからです。たとえば、部下が新しい役割に適応できない時、その背景には「何を主体として生きているか」という意味づけの問題があるかもしれません。同時に、「複数の利害関係者や時間軸を同時に扱う構造的複雑性がまだ十分でない」という問題もあるかもしれません。意味づけの発達だけを見ても、構造的複雑性だけを見ても、十分に状況を説明できないのです。

 成人発達理論の歴史をたどる意義は、単に古い理論を知ることではありません。むしろ、リーダーの成長や部下の育成を考える時に、私たちが何を見落としやすいのかを理解することにあります。人は「何ができるか」だけでなく、「どのように世界を見ているか」によっても行動が決まります。そして同時に、「どれだけ複雑な構造を扱えるか」によっても限界が決まります。成人発達理論とは、この2つを同時に捉えようとしてきた知の蓄積なのです。

 まずは、このうち第1の源流である「意味づけの発達」の系譜に焦点を当て、ボールドウィンからキーガン、クック=グロイターへと至る流れを整理していきます。

【第1の源流】意味づけの発達の系譜

 成人発達理論の第1の源流である「意味づけの発達」は、人が世界をどのように理解し、どのような前提に基づいて判断しているのか、その枠組み自体が変化していくプロセスに焦点を当てています。この流れをたどると、その起点に位置するのがジェームズ・マーク・ボールドウィンです。

【参考記事】大人になってからも人は変わりうる:成人発達理論の源流を理解する【前編】

 ボールドウィンの重要な洞察は、人の発達を「内側に能力が蓄積されるプロセス」としてではなく、「環境や他者との相互作用の中で、心の構造そのものが再編成されていくプロセス」として捉えた点にあります。人は行動し、その結果として環境が変わり、その変化した環境の中で再び行動を変えていく。この循環の中で、心の構造は固定されることなく、たえず更新されていきます。この理解は、後に成人発達理論が強調する「意味づけの構造の変容」という発想の原型となりました。

 この思想を引き継ぎ、理論として体系化したのがジャン・ピアジェです。ピアジェは、知性を単なる情報の蓄積ではなく、世界との関わりの中で構成される構造として捉えました。彼が提唱した「同化」と「調節」の概念は、まさにこのプロセスを説明するものです。人はまず既存の枠組みで新しい経験を理解しようとしますが、それがうまくいかなくなると、枠組みそのものを更新せざるをえなくなります。この時に初めて、認知構造の変化が起こります。

 この「枠組みそのものが変わる」という発想は、成人期以降にもそのまま適用されます。たとえば、昇進や配置転換、価値観の衝突といった経験は、単に新しい知識を学ぶ機会ではありません。それまで当然だと思っていた前提が通用しなくなり、新たな見方を構築せざるをえない状況を生み出します。成人発達理論は、このような経験を通じて意味づけの構造が変化し続けることを前提としています。