顧客と企業の間にAIが介在する時、競争戦略はどう変わるか
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サマリー:顧客は購入前からAIを使って商品や企業を調べ、評価を形成するようになった。買い物や選定におけるAI利用が拡大する中、企業には、AIが介在する新たな顧客接点を踏まえて自身の競争優位を見直し、管理することが求められている。質の低いAI作成文書への対応や顧客の声の再評価など、対応すべき領域は多岐にわたる。本稿では、中小企業3社の事例をもとに、この新たな環境で直面する3つの課題と具体的な適応策を見ていく。

売り手にも買い手にもAIが介在する

 企業は何十年にもわたり、アンケート調査、ユーザーグループ、苦情、利用データなどを通じて顧客を観察することで競争優位を磨いてきた。これらはいずれも、インターネットの普及によって実現しやすくなった手法である。

 いま変わりつつあるのは、この関係のどちら側も、もはや純粋に人間のみではなくなっているという点だ。B2CとB2Bの顧客はいずれも、プロンプトとエージェントの助けを借りて購入候補について調べるようになり、企業と関わり合う前から、AIを通じてその企業に対する意見を形成している。マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査によれば、生成AIの用途のうち買い物関連の利用は現在3番目に多く、ツールの助言を判断の決め手としている人も多い。

 ブランドの可視性を管理できるプラットフォームのセムラッシュによる最近のレポートによれば、消費者の約50%が製品やサービスについて調べるためにAIを利用している。AIが意思決定において重要な役割を果たすカテゴリーには、消費財(39%)だけでなく、旅行(21%)や金融サービス(13%)なども含まれる。

 この新たな介在者の台頭によって、競争優位がどこに存在し、企業がそれをどのように認識し、どう管理できるのかが変わってくる。本稿では、筆者らが助言や調査を行った中小企業3社が、この新たな環境で互いに異なるが関連する3つの課題にどう適応したのかを見ていく(社名はすべて変えている)。

問題:外部からの引き合いの選別

 多くの中小企業にとって、外部からの問い合わせが増えることは朗報のように映る。見積依頼(RFQ)の増加、受信メールの増加、サプライヤー比較のための依頼の増加はどれも、市場から注目されていることの表れだ。AIを活用した購買は、そのシグナルを複雑なものにする。

 B2Bの顧客はいまやAIツールを使って数分のうちに、サプライヤーのリストを生成し、調達に関するメールを下書きし、見積依頼書を作成し、洗練された問い合わせを十数社に送信できてしまう。顧客にとっては購買プロセスが速まる一方で、サプライヤーにとってはノイズが多くなる。企業は真の商機が増えないまま、受け取る見積依頼ばかりが増えることになりかねない。営業チームは見積もりの作成に費やす時間が増え、課題の診断、助言、顧客の創出および対応に充てる時間が減ることになる。

 この危険性は、専門性の高い企業にとってはより深刻だ。つまり、標準的な製品を供給することよりも、顧客固有の課題を診断することに強みを持つ企業である。たとえば、材料や耐性について助言を行う精密機器メーカー、クライアントのワークフローに合わせてシステムを構成する専門的なソフトウェア企業、依頼概要に潜むリスクを見つけ出すエンジニアリングのコンサルティング会社、解決策を提案する前に、クライアントの状況を解釈することに価値を見出すプロフェッショナルサービス企業などが含まれる。彼らの専門性は、顧客がまだ考えてもいない問いを投げかけ、顧客が認識していない制約を明らかにし、仕事に着手する前に仕様を改善することにある。

 AIで生成されたすべての依頼にあまりにも素早く対応すると、自社の専門性が付加価値をもたらすことを示す前に、価格で競うことになってしまう。言い換えれば、より優れた見積もりではなく、より速い見積もりへの競争をAIは生み出しかねない。そして専門企業は、速さの競争で勝つことなど最も望まない。なぜなら彼らの付加価値は、顧客の解決すべき課題に対して自社の専門知識を適用し、顧客自身の価値の向上を助けることにあるからだ。

メリディアン・モールディングスの事例

 メリディアン・モールディングス(仮名)は、産業系の顧客向けに精密プラスチック成形部品を製造する英国の小規模な専門メーカーだ。筆者らが調査や助言を行った企業の中で、この変化にいち早く気づいたのが同社だった。これまで同社への問い合わせは、紹介、継続的な取引関係、業界内のつてなどを通じて寄せられていた。つまり、すでに製造上の課題を特定し、その解決に手を貸してほしい買い手からの引き合いだ。問い合わせの量は対応可能であり、その大半は有意義な技術的対話へとつながっていた。

 やがて、パターンが変わった。メリディアンは格段に多くの見積依頼を受け取るようになった。当初、これは成果のように思われた。より多くの買い手に見つかり、問い合わせは整然とした文章で書かれ、体裁もプロらしく、図面や比較表、短い技術概要が添えられているものも多い。

 ところが、成約率は向上しなかった。チームが見積もりの作成に費やす時間は増えた一方で、価値のある仕事につながる見積もりの割合は、むしろ減ったのである。

 マネージングディレクターと営業チームがパイプラインを見直したところ、3つの点が明らかになった。多くの問い合わせが、明らかに多数のサプライヤーに一斉送信されており、なかには宛名を堂々と別のサプライヤーの名前にしていたり、同じメッセージ内で複数のサプライヤー名を記載していたりするものもあった。依頼書にはありきたりな表現が使われており、そのため個々の案件が実際よりも単純なように見えた。