いずれにせよこういう成り行きになるのですが、ここで大切なのは政治がきちんとメッセージを発すること。しかもそのメッセージは骨太の「ストーリー」になっていなければなりません。世の中の人々はそれぞれがなにやかやと忙しく生活しているので、自分の利害に直接響かなければ、複雑な物事の詳細まで理解しようという人はほとんどいません。だからこそ平明な、ただし「郵政民営化!」といった「ワンフレーズ」ではないストーリーが社会で共有されなければなりません。
「日本は複雑な問題を抱えて大変だ。だが、そう不確実でもない。問題の正体はわかっているし、見通しも立つ。ついては、こういう段取りでこういう順番でこういう風に問題を片づけていく。この先、この段階ではこういう立場にある人々には苦しい状況になる。しかしその先にはこういう未来が開けているのだからついてきてほしい」という強いストーリーをまず政治家が示さなければなりません。それを受け入れる程度には日本国民は成熟しているはずです。
ところが、政治家からはこの種のストーリーがさっぱり聞こえてこない。個別の問題について、国民と一緒になってブーブー言っている。非常に悪い意味で「生活者の視点」に立ちすぎていると思います。野田首相には、骨太で平明なストーリーをつくるという仕事に、すべてに優先して取り組んでいただきたい。あらゆる機会をとらえて、言葉と体のすべてを総動員して、そのストーリーを堂々と国民に伝えてほしいものです。スーパーマンでなくても、未来に向けたストーリーをつくれる程度に問題が安定しているということが日本の強みなのですから。
トップに立つものが未来に向けたストーリーを語るべきだということは、政治に限った話ではなく、企業にとっても同じです。物事には悪い面もあれば良い面もあります。一見、悪いように見えても、他と比較すると良い面、恵まれている面も必ずあるものです。たとえば現在の円高は、海外の企業を買収したり、海外に進出したりするチャンスでもあります。
どっちにしろ問題は常に山積しているもの、と割り切るべきです。「六重苦」とか嘆いても仕方がありません(嘆きたくなる気持ちはわかりますが)。嘆くだけならだれでもできる。ここはまず問題の本質を直視して腰を据えて戦略ストーリーをつくる。それをステイクホルダー(従業員や顧客、投資家)にいやというほど繰り返し発信する。それが経営者の仕事のはずです。