正解のない問題への対応力が高まる、正しい「振り返り」の方法
iStock/runeer
サマリー:近年、多くの企業で人材育成の施策としてリフレクション(内省、振り返り)が導入されているが、機会を増やすだけでは必ずしも成長にはつながらない。成長のカギを握るのは振り返りの量ではなく「質」であり、その本質は経験を意味づける認識の枠組み(内省のOS)の違いにある。本稿では、発達心理学者のパトリシア・キングとカレン・キッチナーが提唱した「内省的判断モデル」を紹介し、部下の内省の深さを捉える7つの発達段階と、それを職場の人材育成に活かす視点について解説する。

連載『成人発達理論で考える部下の育て方とリーダーの成長』こちら

【おすすめ記事】部下の「思考の癖」を知り、学びを加速させる──成人発達理論の文章完成テストの活用と注意点

振り返りの機会を増やしても、成長につながるとは限らない

 近年、多くの企業でリフレクション(内省、振り返り)の重要性が語られるようになっています。社内研修などの最後には振り返りの時間が設けられ、1on1では上司が部下に経験から何を学んだかを問いかけます。プロジェクト終了後にはレビューが行われ、成功や失敗の要因を整理します。経験学習という言葉も広く浸透し、経験をただ積むだけではなく、そこから何を学ぶのかが人材育成の重要な論点になっています。

 このようにリフレクションは、多くの人材育成施策の中に組み込まれ、いまや一部の先進的な企業だけが取り入れる特別な実践ではなくなりました。その背景には、仕事の複雑性が増しているという現実があります。かつてのように、上司が正解を知っており、部下はその正解を学んで実行すればよいという環境は少なくなっています。市場環境は変化し、顧客のニーズは多様化し、組織の課題も複雑になっています。こうした状況では、過去にうまくいった方法が、次の場面でもそのまま通用するとは限りません。

 そのため、現代のリーダーや部下には、経験を振り返り、そこから自分なりの学びを抽出し、次の行動に結びつける力が求められます。リフレクションが重視されるのは、単に内向的に自分を見つめるためではなく、複雑な現実の中で、自分の判断や行動を更新し続けるためです。

 しかし、ここで一つの問いが浮かび上がります。なぜ、同じように振り返りの機会を与えられても、そこから大きく成長する人と、あまり変化しない人がいるのでしょうか。

 たとえば、ある部下が商談に失敗したとします。上司が「今回の失敗から何を学びましたか」と尋ねると、その部下は「準備不足でした。次はもっと頑張ります」と答えます。これは一見すると、反省しているように見えます。ですが、その言葉の中には、自分が何を根拠に判断したのか、顧客の反応をどのように読み違えたのか、上司の助言や過去の成功体験をどれほど無批判に受け入れていたのか、といった吟味がまだ含まれていない可能性があります。

 つまり、振り返りの機会を増やせば、人は自動的に成長するわけではありません。研修の最後に振り返りシートを書いてもらう。1on1で「どう思ったのか」と尋ねる。プロジェクト後にレビュー会議を行う。こうした仕組みは重要ですが、それだけでは十分ではありません。なぜなら、振り返りには量だけでなく質があるからです。

 何度も振り返っていても、それが単なる感想や反省に留まっている場合、人のものの見方や判断の枠組みはなかなか変わりません。「うまくいかなかった」「次は頑張る」「もっと準備する」という言葉が繰り返されても、その背後にある前提や判断基準が見直されなければ、同じような失敗が形を変えて繰り返されることになります。

 リフレクションが本当に成長につながるためには、経験を振り返るだけでなく、その経験をどのような枠組みで理解しているのかを問い直す必要があります。ここに、成人発達理論の視点を取り入れる意味があります。

内省の深さはどこで決まるのか:経験を意味づけるOSの違い

 職場で部下の振り返りについて話を聞いていると、同じ経験をしていても、そこから見えている世界がまったく違うことに気づくことがあります。

 ある人は、出来事を非常に単純な因果関係で捉えます。「上司の指示が曖昧だったので失敗した」「顧客の反応が悪かったので成果が出なかった」「時間が足りなかったから準備できなかった」というように、原因を外部の一つの要因に求めます。

 別の人は、原因を自分の努力不足に求めます。「自分がもっと頑張ればよかった」「自分の能力が足りなかった」「次はもっと早く動きます」と語ります。これは一見すると責任感のある発言に見えますが、そこでもまだ、状況を多面的に捉える内省には至っていない場合があります。

 一方で、さらに別の人は、失敗を複数の要因の相互作用として捉えます。「自分の準備不足もありましたが、そもそも顧客の意思決定構造を見誤っていました。また、上司からの助言をそのまま使うのではなく、今回の状況に合わせて修正する必要がありました」と考えます。この場合、出来事は一つの原因に還元されず、自分、相手、組織、文脈、過去の経験との関係の中で捉え直されています。