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マネジメントは「続ける」、リーダーシップは「変える」
メンターの話によれば、部下のやる気やワクワクは、「マネジメントの枠の外で起こすもの」であり、それこそがリーダーシップ、ということだった。そう聞いた私は、がっかりした。カリスマのような人間的魅力がなければ、部下の自発性を引き出せない、ということになるからだ。
しかしメンターは、リーダーシップはカリスマと関係ないと言い、「リーダーシップって、何だと思う?」と問いを投げかけた。そこで、私はこう考えた。
「人を率いて目標を達成するためのもの、ではないでしょうか。運動部のキャプテンなら大会で優勝するため、社長なら株主と約束した利益を達成するためです」
「それが通説よね。たしかにその定義から言えば、カリスマのようなものが必要に思えてきても仕方がない。でも、コッター教授の言うリーダーシップの本質は違うの」と早速説明を始めた。
解説:リーダーシップは、もう一つの未来をつくる
リーダーシップとは、いったい何なのか。世界的な権威、ジョン・コッター教授の歴史的論文は、「『リーダーシップ』は、『マネジメント』とは別物である。しかしその理由は、大方の人々が考えているものではない」という一文から始まります[注1]。
そして、「複雑な状況にうまく対処するのが、マネジメントの役割」、「リーダーシップの役割は、変化に対処すること」としています。
より具体的に、それぞれの根本的な目的について以下のように定義し、それぞれの本質に鮮やかに光を当てています(筆者訳)。
・マネジメントは、「既存のシステムを機能させ続ける」
・リーダーシップは、「有益な変化、とりわけ変革を起こすことである」
一言でまとめるなら、「続けること」と「変えること」であり、この2つは根本的に異なる行為なのです。
既存のシステムの運営を続けるマネジメントとは、図にある通り、過去から現在まで続くレールをさらに先に伸ばしていき、機関車をこれまでと同じ線路の上で走らせていくようなもの。大切なことは、機関車をしっかりと走らせること、システムをきちんと運用することです。
一方、リーダーシップは、これまで走ってきた機関車を、真っ直ぐ進もうという惰性に逆らってまでも、新たに線路を敷きながら走らせていくようなもの。その線路の先にあるのは、放っておけば決して訪れなかった、もう一つの未来です。この「変える」行為は、機関車を無事走らせる行為とはまるで別物ですよね。
リーダーシップは「もう一つの未来」をつくる
人も組織も、変化を嫌うものです。リスクは計り知れないし、不安にもなる。新たな道に乗り出せば、予想もできない障壁にぶつかるかもしれない。それでも、周りを説得し、幾多の困難を乗り越えて変化を起こしていこうとすれば、続けることとまったく異なる思考・行動体系が必要になる。それが、リーダーシップというわけです。
80年間続く老舗蕎麦屋で、4代目若旦那が今日もその味を守って店を運営するスキルと、突然、「冷やし中華を始めるぞ!」と頑固な親方や戸惑う店員らを説得して総合麺屋に鞍替えしていくスキルは、まったく別物ですよね。
「変える」には、「続ける」とはまるで別の思考・行動体系が必要
そして決定的なことは、コッター教授がマネジメントを「わくわくするようなものでも、華やかなものでもない」と言った直後に、「しかし、リーダーシップは違う。壮大なビジョンを実現するには、エネルギーを爆発させる必要がある」[注2]と述べた通り、機関車の軌道を変えるためには、一人ひとりのエネルギーが爆発している状態に持っていく必要がある、ということです。
これまで見てきた「動機や自発性といった不安定なものに頼らない」マネジメントとは対照的に、人間のエネルギーという、極めて不安定なものを燃料とする、もっと言えば、周りのメンバーを自発的に動くように仕向けていくことも織り込み済みなのが、リーダーシップだということです。
朗報はコッター教授が言う通り、リーダーシップにカリスマ性のような資質は関係なく、選ばれし者だけの領域でもないということ。絶対音感のような天与の才でも、ピカソのような天分でもない。人を自発的に動くように仕向けることも、私たち誰もが後天的に習得できる「スキル」なのです。
* * *
メンターは、事例を一つ挙げた。
・変革の伴走を専門とする、あるチームがある。彼らは、変革に乗り出すリーダーたちに、まず「変革の壁」のリストを徹底的に理解させる。組織というものは、既存のシステムを続けることに特化している。だから、制度も、文化も、人も、何をとっても変えることに馴染まない。まして現場起点で何かを大きく変えようとすれば、権威も、後ろ盾も、予算も、時間も、仲間も、揃っていないのが普通だ。当然、大きな抵抗にも遭う。変革の前には、有形無形の壁が立ち上がる--そのリストは長く、容赦がない。
「変革が通常業務とはまったく違うということを、最初にわかってもらうことが肝心ね」とメンターは付け加えた。
たしかに、組織の中で物事を変えていくことは、いつもの業務の延長線上ではできないだろう。「でも、こんなにハードルが高いと、リーダーたちは萎えてしまいませんか」
「壁だけ見せられたらね。だから、壁を打ち破る武器も渡す」
「武器って、もしかして」
メンターは微笑んで答えた。「そう。変革を起こしていくスキル、リーダーシップよ」
先ほどの容赦ない変革の壁の数々が頭をよぎる。あれを越えるほどのエネルギーを人々から引き出す──そんな力が、後天的に身につくものとは、とても思えなかった。
「本当にリーダーシップはスキルなのでしょうか。誰もが身につけられるものだとは、とても思えないのですが」
「スキルです」とメンターは力強く言い切った。「太陽のように、自分と周りを温めてエネルギーを最大化し、その力で壁を打ち破っていくスキル」
メンターは続けた。
「その習得のために、コッター教授は3つのステップを紹介しているの。リーダーシップの最初のステップは何だと思う?」
【注】
1)John P. Kotter, "What Leaders Really Do," HBR, May-June 1990.(邦訳「[新訳]リーダーシップとマネジメントの違い」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年9月号)
2)同上
本連載のバックナンバーはこちら。





