優秀な人の成長が止まった時、過去の成功を否定するより大切なこと
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サマリー:優秀な人材であるにもかかわらず、突如成長が止まってしまう人がいる。その背景にあるのが、過去の成功体験への固執だ。成功体験は本来、重要な資産だが、それが強固な枠組みになると、変化する現実を古いパターンで解釈する「同化固定」が生じ、新しい学びを阻害してしまう。本稿では、成人発達理論の視点から、成功体験を現在の文脈に合わせて問い直し、成長の糧へと更新していくためのメカニズムと実践的なアプローチを解説する。

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優秀な人ほど、なぜ成長が止まるのか

 組織の中には、誰が見ても優秀な人がいます。仕事が速く、判断も的確で、責任感も強い。周囲からの信頼も厚く、若い頃から成果を出し続けてきた人です。上司から見れば安心して仕事を任せられる存在であり、部下や後輩から見れば、目標にしたくなるような存在かもしれません。

 ところが、そのような人が、ある時点から成長の歩みを止めてしまうことがあります。本人は努力を怠っているわけではありません。むしろ、以前と同じように熱心に働いています。学習意欲がないわけでもありません。研修にも参加し、本も読み、部下への助言も惜しみません。それにもかかわらず、新しい環境や新しい役割に対して、どこか柔軟に適応できなくなることがあります。

 たとえば、過去に営業として大きな成果を出してきたリーダーがいるとします。その人は、自分が成功してきた営業スタイルに強い自信を持っています。顧客に素早く提案すること、相手の反応を見ながら押し切ること、最後は自分の熱量で動かすこと。そのやり方で実際に成果を出してきたため、本人にとっては、それが「成果を出す正しい方法」として深く刻み込まれています。

 しかし、時代が変わり、顧客の意思決定プロセスが複雑になり、チームメンバーの価値観も多様化しているとします。その時、過去の成功パターンをそのまま使い続けるだけでは、うまくいかなくなる場合があります。それでも本人は、「自分はこのやり方で成果を出してきた」「いまの若手は粘りが足りない」「顧客も本質的には昔と変わらない」と考え、新しい状況を過去の成功体験の枠組みで理解しようとします。

 ここに、優秀な人ほど成長が止まる一つの理由があります。

 問題は、優秀であることそのものではありません。成功体験を持っていることも、けっして悪いことではありません。むしろ、成功体験は重要な学習資源です。人は成功体験を通じて、自分の強みや有効な行動パターンを身につけます。困難な状況を乗り越えた経験は、自信や判断力の源泉にもなります。

 しかし、成功体験が強固になりすぎると、それは新しい学びを妨げる枠組みにもなります。過去にうまくいった見方ややり方が、現在の状況を理解する唯一のレンズになってしまうのです。その結果、新しい経験に出会っても、それを自分の枠組みを変える契機としてではなく、既存の成功パターンを確認する材料として処理してしまいます。

 このような状態を、ここでは「成功体験の同化固定」と呼びたいと思います。新しい経験が、本来であれば自分の見方を広げるはずなのに、過去の成功体験の中に吸収されてしまう。現実のほうに合わせて自分を変えるのではなく、自分の過去の枠組みに合わせて現実を解釈してしまう。これが、優秀な人の成長を止める見えにくいメカニズムです。

成功体験は、学習を促すと同時に視野を狭める

 成功体験は、人を成長させます。自分で試し、工夫し、成果を出す。その経験を通じて、人は「こうすればうまくいく」という実感を得ます。実感を伴う学びは、単なる知識よりも強く心に残ります。だからこそ、成功体験は行動の再現性を高め、自信を育て、仕事の熟達を支えます。

 しかし、成功体験にはもう一つの側面があります。それは、視野を狭める可能性です。

 人は一度うまくいった方法を、再び使いたくなります。これは自然なことです。過去に成果を出したやり方は、本人にとって信頼できる道具です。特に、強いプレッシャーがかかる場面では、人は未知の方法を試すよりも、過去にうまくいった方法に戻りやすくなります。

 リーダーにとっても同じです。若い頃に自分を成功させた仕事の進め方、顧客との関わり方、部下への指導法、意思決定の基準は、その人の中で「自分らしいやり方」として定着していきます。それが一定の成果を生み出してきた場合、そのやり方を疑うことは難しくなります。

 むしろ、周囲が変化を求めても、本人にはそれが「本質をわかっていない意見」のように見えることがあります。部下が違うやり方を提案しても、「まだ経験が足りない」と感じる。顧客の反応が以前と違っても、「今回は相手が特殊だった」と解釈する。組織から新しいマネジメントスタイルを求められても、「結局、成果を出せばよいのではないか」と考えるわけです。

 この時、成功体験は羅針盤であると同時に、古い地図にもなります。かつて自分を目的地に導いてくれた地図は、たしかに価値があります。しかし、地形が変わっているにもかかわらず、古い地図だけを頼りに進めば、現在地を見誤ることがあります。それと同様に、市場、組織、部下、顧客、技術、働き方が変化しているにもかかわらず、過去の地図だけで判断し続けると、本人の中では筋が通っていても、現実とのずれが大きくなっていきます。